ムバッペがいなかった

 チャンピオンズリーグ(CL)準決勝2ndレグ、マンチェスター・シティ対パリ・サンジェルマンが現地時間4日に行われ、2-0でホームチームが勝利。2戦合計スコア4-1でシティが史上初の決勝進出を果たしている。一方、姿を消すこととなったPSGの負け方は最低だった。(文:小澤祐作)

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 ラウンド16でバルセロナに大勝し、準々決勝では昨季王者バイエルン・ミュンヘンも破るなど、勢い的には十分なものがあった。しかし、それでもビッグイヤーには手が届かなかった。パリ・サンジェルマン(PSG)はマンチェスター・シティを前に、ベスト4で大会から姿を消すことになっている。

「それは(敗退の)言い訳にはならない。もちろん、彼がチームを助ける準備ができていなかったのは不運だったけどね」と、試合後にマウリシオ・ポチェッティーノ監督は話した。同指揮官の言う「彼」というのはキリアン・ムバッペ、そして「それ」というのは、フランス代表FWを起用できなかったことだ。

 PSGにとってムバッペという存在はなくてはならない。爆発的なスピードと非凡な技術、高い決定力を持つ同選手は戦術上のキーマンであるし、実際に今季チャンピオンズリーグ(CL)でバルセロナやバイエルンに勝利できたのも背番号7がいたからこそと言っても過言ではなかった。

 しかしムバッペは、シティ戦を前にふくらはぎを負傷。間に合うのでは? という声もあったが、結局は重要な戦いでスターティングメンバーから外れた。一応ベンチメンバーには入っていたものの、途中からピッチに立つ気配は微塵も感じられなかった。

 ムバッペがいればシティに勝てた、とまでは言い難い。しかし、同選手が不在だったことでPSGの怖さがワンランク、あるいはツーランク下がっていたことは事実だろう。シティ戦では武器であるカウンターの威力を示す場面は少なく、足元で勝負する機会が増加。ネイマールやアンヘル・ディ・マリアは技術力の高さを活かして奮闘したが、最前線で先発したマウロ・イカルディはなかなかボールに絡めず、もはや“空気状態”となってしまった。

 深さを作り出すことができ、仕上げのクオリティーも高いムバッペが不在だと、怖さが大きく減ってしまう。現在のPSGが抱える脆さが、シティ戦では浮き彫りになってしまったと言える。

ただ、ムバッペがいても…

 しかし上記した通り、仮にムバッペがこの大一番に出場していたとしても、チャンスの数は増えたかもしれないが、PSGはシティに勝てなかったかもしれない。そう思うほど、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるチームの完成度は高かったのだ。

 4-3-3で挑んだPSGは、4-4-2で守るシティに対しスペースではなく足元で勝負した。相手ツートップの脇にアンデル・エレーラとマルコ・ヴェラッティの中盤が顔を出すことでビルドアップ時の数的優位を作り出し、ボールを前進させる。そして敵陣ではキープできるネイマールとディ・マリアにパスを集め、攻撃の勢いを加速させようとしていた。

 昨季のCL準々決勝、シティはリヨンに対し急造3バックを用い失敗。その試合後、グアルディオラ監督には「CLだと多くのことを考えすぎてしまう」などといった「策」に対する批判が殺到していた。

 ただ今回のCLで、グアルディオラ監督は決して難しいことを取り入れてこなかった。オーソドックスな4-4-2で守り、基本的に高い位置からプレッシャーをかけ、中盤を突破されたら自陣でしっかりブロックを組み、カウンターのチャンスをうかがう。非常にシンプルなことを90分間継続していた。

 ルベン・ディアスとジョン・ストーンズの壁は大きく、カイル・ウォーカーとオレクサンドル・ジンチェンコの両サイドバックも受け持つエリアをしっかりと締める。そしてロドリよりも守備的なフェルナンジーニョはクレバーさを活かして最終ライン前の強度をさらに高め、サイドバックとセンターバックのギャップ、いわゆる「チャンネル」は両ウイングがカバーするなど、守備の完成度はピカイチだった。また、ムバッペが不在のため最終ラインが背後のスペースをあまり気にせず、中盤との距離をコンパクトにできた点も大きかった。

 それによりPSGの攻撃陣は苦戦した。ネイマールらの力で計14本シュートを放ったが、枠内シュートは0本。実に9本が、相手ディフェンス陣のブロックに遭ったというデータが出ている。ポチェッティーノ監督は打つ手がなく、チームはまるで無装備のまま敵の城に乗り込むような状態になっていた。そして前のめりになったPSGは、結果的にシティにカウンター2発を喰らってしまった。

 PSGはシティを支配率で上回っている。しかし、1stレグの結果を受け意地でも攻めなければならないフランス王者は、まず徹底した「守備」を重点に置いたシティのシンプルかつ的確な「策」を最後まで上回ることはできなかった。

後味の悪い負け方

 今大会のPSGは強かった。マンチェスター・ユナイテッド、RBライプツィヒ、イスタンブール・バシャクシェヒルというタフなグループリーグを首位で通過し、決勝トーナメントでもバルセロナとバイエルンという難敵を倒している。シティとの1stレグも、ハイレベルな戦いだった。

 だからこそ、今大会の去り方は非常にもったいなかった。

 0-2とされた後、PSGの選手は明らかに苛立っており、それを隠し切れずプレーに表してしまった。ディ・マリアはフェルナンジーニョの足を意図的に踏みつけ一発退場を命じられており、ヴェラッティもファウルを連発。終盤にはプレスネル・キンペンベ、ダニーロ・ペレイラが危険なタックルを見舞っているなど、もはやボールを取るためではなく、シティの選手を削りにかかっていた。

 幸いにもシティ側に怪我人が出なかったが、PSGの選手はディ・マリア以外にあと2人ほどは退場者が出てもおかしくなかった。後味の悪い最低な負け方だ。

 今季は少々苦戦しているが、PSGの総合力はフランス国内で頭一つ…いや、それ以上に抜けている。そのため、今回の試合ほどゲームがうまくいかないことは少ないし、苦しんでもある程度は個の力で押し切れる部分はある。ただ、CLという舞台、そしてシティのような相手にはそうはいかない。それこそが、選手個々のストレスを生む原因になったと言わざるを得ない。

 人間誰しもストレスは抱える。しかし、その発散方法の矛先が人であっては決してならない。今後、PSGがCL制覇を目標にし続けるならば、技術や体力面はもちろん、こうした精神的な面も強化していく必要があるだろう。

(文:小澤祐作)