東京五輪のサッカー競技が21日に開幕し、イギリス女子代表はチリ女子代表に2-0で勝利を収めた。

 この試合が始まる直前、国歌斉唱と集合写真撮影を終えてピッチに散った選手たちは、笛の合図でピッチに片膝をついた。「膝つき」は2016年にアメリカンフットボールの選手が人種差別に抗議し、試合前の国歌斉唱時に行ったのが始まりとされる。

 その後、2020年にアメリカで起きた白人警察官による黒人男性の暴行殺害事件をきっかけとした「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動に共感を示すため、世界中で行われるようになった。

 イングランドではプレミアリーグの試合前などにも片膝をつくことが慣例となりつつあり、パフォーマンスの形骸化も指摘されながら、反人種差別の象徴的なアクションとして見られるようになった。

 オリンピックではもともと政治的な意思表示は禁じられていたが、BLM運動の高まりとともにIOC(国際オリンピック委員会)が規則の見直しを開始。東京五輪では開会式や閉会式、表彰台の上などを除き、特定の国や人を標的にしないことなどを条件に政治的なメッセージの発信が認められることとなった。

 イギリス女子代表に呼応するように、対戦相手のチリ女子代表の選手たちも片膝をついた。他の会場ではアメリカ女子代表やスウェーデン女子代表、ニュージーランド女子代表もサッカー競技の初戦で同様の行動を起こした。

 試合を終えて取材エリアに現れたイギリス女子代表のキャプテン、ステフ・ホートンは「私たちはこれまでの代表戦でも同様に膝をついてきた。チームGB(イギリス代表)として共に戦い、チームがどれだけ強い組織で、私たちが団結していることを見せたかった」と、試合前の「膝つき」の意図を説明した。

 チリ女子代表と事前に打ち合わせはなし。イギリス女子代表は大会の数週間前から五輪の舞台で行動を起こすことを検討し、選手たちが自分の意思でピッチに膝をつけた。

 チリ戦で2得点を挙げたイギリス代表のFWエレン・ホワイトも「現状を変えたいと強く思っているから行動した。人種差別をはじめとしたあらゆる差別を止めるためのアクションだった。チームの団結力が極めて強いことも見せられたと思うし、自分たちではそう感じている。私たちは常に連帯を示していく。私はチームのことを非常に誇りに思うし、世界中のみなさんが家に帰った時に私たちがどれだけ強く現状を変えたいと思っているか感じてもらえれば嬉しい」とコメント。世界規模で放送・配信される東京五輪を通じ、広く差別反対を呼びかけた。

 彼女たちには危機感がある。サッカー界のみならず、21世紀の現在も世界中で差別はなくならず、常に争いの原因となっている。世界中で楽しまれているサッカーが反差別を掲げて実践していくことの重要性や影響力も十分に理解している。

「私たちはとにかく必要なことをしたかった。私はこのチームのことを誇りに思っているし、連帯を示すことで本気で変化を起こしたいと思っている。そして、私たちは本当に人種差別を止める必要があると痛感している」(ホワイト)

「たくさんの人々が差別によって影響を受けている状況に対し、私たちは強く団結して立ち向かう姿を示したかった。ともに膝をついてくれたチリ代表の選手たちにも感謝したい。スポーツによる団結を見せられたと思うし、私たちは前に進み、全員が一緒になって差別と戦い続ける」(ホートン)

 キャプテンのホートンは「私たちの考えを示すために、できるだけ早く意思表示をしたいと思っていた。私たちのような地位にある人間、サッカー選手は女性であっても大きな影響力があるから。私は行動を起こしたチームを誇りに思うし、今後の試合でもっと多くのチームが続いてくれることを願っている」とも述べた。

 ホワイトに「今後の試合でも『膝つき』を続けるつもりか?」と問うと、こちらをまっすぐ見て「100%、イェス」と力強く宣言した。

 イギリス女子代表は24日に予定されている次の試合で日本女子代表と対戦する。いくつかのチームによって反差別で連帯していくという意思は明確に示された。なでしこジャパンの選手たちが次の試合でどのような行動をとるかにも注目だ。

(取材・文:舩木渉)