既視感あった電光石火の先制ゴール

 セルティックの古橋亨梧が止まらない。現地26日に行われたUEFAヨーロッパリーグ(EL)予選プレーオフの2ndレグでもゴールネットを揺らし、加入から公式戦7試合出場7得点と驚異的なペースで結果を残し続けている。現地での評価は高まるばかりで、口うるさそうなクラブOBも大絶賛。早くもセルティックでレジェンドになりうる素質を垣間見せている。(文:舩木渉)

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 試合には負けても勝負には勝っているということが、欧州カップ戦では珍しくない。ホーム&アウェイの2試合180分間で勝ち抜けか敗退かを決めるからだ。

 昨晩のセルティックがまさしくそうだった。現地26日に行われたUEFAヨーロッパリーグ(EL)の予選プレーオフ2ndレグでAZアルクマールに1-2で敗れたが、2戦合計スコアで3-2と上回り、セルティックがEL本戦に駒を進めた。

 開始3分に日本代表FW古橋亨梧が決めた先制点がなければ、延長戦、さらにはPK戦までもつれこんで、あわよくば本戦を目の前にして敗退の可能性もあった。1stレグでは古橋が1得点1アシストで2-0の勝利に導いたことも踏まえれば、今季のセルティックのEL本戦出場はほとんど新加入の日本人アタッカーによってもたらされたと言っていいかもしれない。

 アンジェ・ポステコグルー監督もほっと胸をなでおろしているはずだ。

 AZ戦2ndレグの先制点は電光石火の早業だった。開始3分、右サイドバックのDFアンソニー・ラルストンが相手ディフェンスラインの背後にロングパスを入れると、抜け出したFWリエル・アバダがゴール前に高速クロスを入れる。そして、最後は古橋が触ってゴールネットを揺らした。

 ラルストンからアバダ、古橋とつながったワンタッチ続きの高速カウンターには、見覚えがある。ポステコグルー監督が率いていた横浜F・マリノスで、右サイドバックのDF松原健が繰り出す縦パスを起点に、同サイドでFW仲川輝人が飛び出し、相手GKとDFの間を狙った高速クロスにFWエリキやFW前田大然が突っ込む、あの速攻の形だ。

 古橋はラルストンからアバダに縦パスが入った瞬間、ピッチ中央から一直線にゴール前までスプリントをかけ、ボールに視線を向けた相手DFの背後をとってゴールを陥れた。素晴らしい今季7得点目だった。

お粗末な失点で際立つ古橋の存在感

 一方、失点シーンはお粗末すぎた。ポステコグルー監督も「いい形で先制してスタートできたのに、2つもダメなゴールを与えてしまった」と悔やんでいた。

 先制した直後の6分、セルティックのセンターバックに入っていたDFスティーブン・ウェルシュが相手GKからのロングボールの処理を誤ったところから悲惨な失点が生まれた。背後で味方のミスをカバーしようとしたGKジョー・ハートが、AZのFWザカリヤ・アブハラルに足もとのボールをかっさらわれてしまう。当然、ゴールは無人。難なく同点に追いつかれてしまった。

 さらに26分には、セルティックのDFカール・スターフェルトがクリアを試みた際にまさかの空振り。軸足に当たったボールは意図したのとは逆方向に飛び、自陣ゴールに吸い込まれた。スターフェルトのミスを誘発する絶妙なクロスをあげたのは、AZの日本人DF菅原由勢だった。

「我々はただ戦わねばならなかった。後半は少し良くなって、ゲームをコントロールして、必要な時にはうまく守ることもできていた。仕事はやり遂げたと思うし、本戦に進めたことが重要だ。グループステージの戦いを楽しみにしている」

 ポステコグルー監督は試合後のフラッシュインタビューでEL本戦出場をポジティブに捉えていたが、胸の内はどうだっただろうか。AZはボール支配率61%を記録し、シュート数でもセルティックを上回った。後半は耐える時間帯も長く、「自分たちのサッカー」ができたとは言い難い。突拍子もない2失点にも腹わたが煮えくり返っているのではなかろうか。

 苦しい試合だったからこそ、決定的な活躍を続ける古橋の存在感が際立つ。セルティック加入からの公式戦7試合で7得点を挙げ、一気にエースの座を自分のものにした。EL本戦出場に関しては彼がいなければ厳しかっただろう。指揮官やチームメイトたちからの信頼も厚い。

 ライバルチームであるレンジャーズのサポーターから人種差別を受ける対象になったというのは、ある意味「認められている証拠」と捉えられなくもない。当然あらゆる差別は非難されるべきものであり、古橋の負った精神的なダメージは計り知れないが、期待値と注目度がぐんぐん上がっているのを実感するエピソードだった。

高まり続ける現地評価

 ポステコグルー監督も「うまくゴールも決めたし、今日もまたスーパーハードワークをしてくれた」と古橋のパフォーマンスを称えていた。フィニッシュの局面に顔を出すだけでなく、攻撃の組み立てにも関与し、味方がボールを失った瞬間に相手に猛然とプレスをかけ、限界まで追い回す。とにかく攻守両面で凄まじい量のタスクをこなし、本来求められる結果も残しているのだから恐ろしい。

 現地紙でも当然のように高い評価を受けている。『デイリー・レコード』紙の採点ではチーム最高タイの「7」がつけられ、寸評では「7試合で7得点を挙げ、再び息を切らすまで走った。すべてのボールを追いかけ、ボールを持っていない時の使われ方も賢かった。もっと味方の助けが必要だった」とべた褒めだった。

 元北アイルランド代表で、中村俊輔のセルティック最後のシーズンに同僚だったパディー・マコート氏は、『デイリー・レコード』紙に対してこんなことを話している。

「セルティックは古橋を400万ポンド(約6億円)で獲得したが、2年以内に2500万ポンド(約38億円)から3000万ポンド(約45億円)の価値になると思う。若くはないけれど、彼の名前は欧州中に広まるはずだ」

「古橋のプレーのバリエーションの豊富さは驚かされる。足もとでボールを扱うのもいいし、ディフェンスにも一生懸命働く。予測不能で、ストライカーが全てのことをこれほど効果的にこなせるのは非常に稀なことだ」

 マコート氏は「彼の意識と動きは本当に素晴らしい。セルティックは息をのむような才能と契約したのは明らかだ」とも述べている。目の肥えたクラブOBにこれほど称賛される新加入選手は「非常に稀」だろう。

いよいよレンジャーズ戦。ダービーで輝けば…

 そして、セルティックで愛された中村俊輔の姿を重ね、古橋が同等のレジェンドになれるとマコート氏は考えている。テクニシャンとして知られた元北アイルランド代表のアタッカーは、『サンデー・ポスト』紙に次のように語った。

「シュンスケは特別な選手だった。私は彼の(セルティックでの)最後のシーズンに一緒になった。彼はトッププレーヤーとしての地位を確立していたね。それまでは遠くから見ていた存在だったけれど、実際に一緒にトレーニングをして近くで見た時、彼の恐ろしい才能に気づいたんだ。

彼は毎日信じられないほど練習をするし、独特の倫理観があって、それをセルティック・パークでの試合にも持ち込む。そして、あまりハードに動き回っているように見えなかったけれど、月曜日の朝にクラブハウスで掲示される走行距離とスプリント回数のデータを見ると、彼は必ず1位になっているんだ。ナカは確実に毎試合12kmは走っていて、多くの場合13kmに達している」

「ナカはスタジアムの外では気取らない、物静かな人だった。そして、セルティックの英雄になった。彼以上ではないにしても、古橋はナカと同じような影響を与えられる能力を持っているように見える」

 古橋も物静かでストイックで、独特の考え方を持った選手だ。中村俊輔に通じる部分もある。そして、すでに「セルティックの英雄」になれるポテンシャルを示し始めている。結果を残したことで自信も深めているだろう。

 週末はスコットランドに移籍してから初めての「オールドファーム」に臨むことになる。宿敵レンジャーズからゴールを決め、相手サポーターを見返したいところだ。ダービーマッチという特別な場で輝けば、きっとセルティックサポーターは古橋の虜になる。

(文:舩木渉)