●名門同士の対決は1-1のドロー

 プレミアリーグ第37節の前倒し分、マンチェスター・ユナイテッド対チェルシーが現地時間28日に行われ、1-1の引き分けとなっている。本来は5月中旬に開催予定だった同カードだったが、チェルシーのFAカップ決勝進出に伴い前倒しで開催された。勝ち点1を拾うことに成功したものの、ユナイテッドはチェルシーに圧倒された。名門再建には多くの時間を要するかもしれない。(文:安洋一郎)

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 2021/22シーズンも佳境を迎えている。本来であれば「首位攻防戦」に近い形でマンチェスター・ユナイテッド(6位)とチェルシー(3位)はこの時期に相まみえたかったところだが、両クラブ共に優勝争いとはかけ離れた勝ち点に留まっている。ホームのユナイテッドに関してはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場県内の4位フィニッシュも絶望的な状況となっている。

 試合前の時点で両クラブ共に負傷者を多く抱えており、特にユナイテッドはフレッジやポール・ポグバ、ルーク・ショー、エディソン・カバーニ、ハリー・マグワイアといったメンバーが怪我で離脱中。加えて直近の数試合でチームの調子が悪い中でも一人、気を吐いていたジェイドン・サンチョが扁桃炎を患い今節の欠場が余儀なくされていた。

 こうした怪我人続出という状況もあり、直近5試合で1勝1分3敗と絶不調のユナイテッドは、直近の悪い流れを払拭できず、今節も序盤から相手にボールを握られた。プレミアリーグ公式サイトによると、試合を終えての支配率はユナイテッドが35%でチェルシーが65%とアウェイチームが圧倒的にボールを支配して主導権を握った。

その他のスタッツでも両軍は明暗分かれており、シュート本数はユナイテッドが6本だったのに対し、チェルシーは3倍以上の21本を放っている。データサイト『Sofa Score』の両軍のスタッツを比較するとユナイテッドがチェルシーを上回ったのはGKのセーブ数とタックルなどの守備的なスタッツのみ。90分間を通して圧倒されていたことがわかるだろう。

だが、試合を終えてのスコアは1-1と両者痛み分けの結果に終わった。なぜ、ユナイテッドはチェルシーに圧倒されながらも勝ち点1を拾うことができたのだろうか。

●チェルシーに試合を支配された理由

 前半からチェルシーペースとなった要因はユナイテッドの前線からのプレスが機能していなかったことにあるだろう。前線の選手がプレスをかけたとしても最終ラインの押し上げや縦関係にいる選手が連動してパスコースを消しに行くといった「連動性」がなかった。

 特に厳しかったのがマーカス・ラッシュフォードとアレックス・テレスの左サイドだ。ユナイテッドのシステムが4-2-3-1であったのに対し、チェルシーはお決まりの3-4-1-2のシステムだった。3-4-1-2の「4」(リース・ジェームズ、ジョルジーニョ、エンゴロ・カンテ、マルコス・アロンソ)+「1」(メイソン・マウント)の5選手で5レーンを埋めるチェルシーの攻撃に対し、ユナイテッドは4バックのためWGの選手が守備に戻る、もしくはボランチの選手が最終ラインのサポートに入り、サイドバックの選手が大外のレーンまで出て行かない限りチェルシーの両WBがフリーでボールを受けられる嚙み合わせとなっていた。

 チェルシーの最終ラインからのビルドアップに対し、ラッシュフォードは右CBのセサル・アスピリクエタに対して前線からプレスをかけるのだが、周りの選手との連動性もなく、強度も高くないためあっさりとプレスを回避されてしまう。テレスも前に出て右WBのジェームズを見ることができず、フリーとなったジェームズのクロスから何度もチャンスが訪れた。データサイト『Sofa Score』によるとジェームズは両チーム最多の10本のクロスと4本のキーパスを記録している。

 ユナイテッドの守備の隙が多くあった前半だが、チェルシーはこうしたチャンスをものにできなかった。カイ・ハフェルツは2度の決定機を外すなど決定力に欠き、逆にユナイテッドは守護神ダビド・デ・ヘアに救われる形で前半をスコアレスで終えた。チェルシーも絶対的なスコアラーがいないという課題を露呈した。

 だが、試合内容を見てもユナイテッドが失点するのは時間の問題だった。後半開始と同時にラッシュフォードとアンソニー・エランガのサイドを入れ替えるなど修正を行ったユナイテッドだが、60分にジェームズのクロスからハフェルツ→マルコス・アロンソへとボールが繋がり、チェルシーが試合の均衡を破った。

 この時チェルシーの選手がボックス内に4人いたのに対し、ユナイテッドの守備陣は7人と圧倒的に数的優位だった。しかし結果は失点。ただボックス内に人がいるだけの守備であり、ボールを持っている選手に対しての寄せが甘いことで隙が生まれてしまった。

●絶望的なチームを救ったのは…

60分に先制を許したユナイテッドは14分を最後にシュートがなく、45分以上シュートを記録していない絶望的な状況にあった。

それまでの試合内容を見てもこのまま勝ち点0で試合を終えることも十分に考えられたが、“エース”クリスティアーノ・ロナウドが失点直後の62分にチェルシーの隙を突く形でゴールを決め、試合を振り出しに戻すことに成功した。

 何とか1つのチャンスをものにしたユナイテッドだが、試合を通じて攻撃は全くと言って良いほど機能していなかった。オーレ・グンナー・スールシャール前監督の下では圧倒的な存在感を放っていたブルーノ・フェルナンデスは絶不調に陥っており、直近数試合でコンディションを上げていたサンチョの欠場は痛恨だった。

 サンチョの代わりに先発に抜擢されたマーカス・ラッシュフォードは79分までの出場でシュート、ドリブル、キーパス、タックル、インターセプト、クリアなど攻守におけるほぼ全てのスタッツで「0」を記録するなど存在感は希薄であり、試合のほとんどの局面で消えていた。(データは『Sofa Score』を参照)

 前述した通り、怪我人が多いことが不調の要因の1つであることは間違いないだろうが、あまりにも攻守両面で機能不全だった。来季からの指揮官であるエリック・テン・ハフはこの試合を観てユナイテッドの選手たちに何を思ったのだろうか。

新指揮官が好む選手を今夏に補強をしたいところだが、CLはおろかこのままではUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得も厳しい状況となっており、今夏の移籍市場では昨夏のような立ち回りはできないことが予想される。アヤックスで数々の快挙を成し遂げた名将でも、名門の再建には時間を必要とするだろう。

(文:安洋一郎)