●裏天王山となった湘南ベルマーレ対ヴィッセル神戸

明治安田生命J1リーグ第14節、湘南ベルマーレ対ヴィッセル神戸が21日に行われ、2-1で湘南が勝利した。勝ち点7で並ぶ両者の対決だっただけに、神戸にとっては痛恨の極みとなったはずだ。試合後、酒井高徳は下位に沈むチームの現状と問題を指摘している。(取材・文:元川悦子)
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 13試合終了時点で勝ち点7同士、それぞれ17位と18位に沈んでいたヴィッセル神戸と湘南ベルマーレ。その両者が21日、湘南の本拠地・レモンガススタジアム平塚で「裏天王山」に挑んだ。まだ前半戦とはいえ、J1残留圏浮上のためにも、今、ここで勝ち点3を積み上げることは非常に重要だ。その危機感は2チームに共通するものだったはずだ。

 雨が降ったり止んだりのあいにくの天候の中、1万251人の観衆を集めて行われたこの試合。立ち上がりから凄まじい熱量と気迫を示したのは、湘南の方だった。

 アンカーの田中聡がアンドレス・イニエスタをつぶしに行き、神戸の攻撃の起点を寸断するなど、彼らの意図は明確だった。そしてボールを奪うと素早い切り替えからサイドを使った攻めに出る。スピード感と推進力に神戸はついていけず、後手に回りがちになる。連戦の疲労もあったのかもしれないが、動きの鈍さと反応の悪さは想定外だった。

「特に前半はボールを早く動かせず、サイドからサイドに運ぶのに時間がかかり過ぎた。5-3-2の相手を崩すのは簡単ではないが、悪い展開に流れていった」と4月に就任したロティーナ監督も顔を曇らせたが、前半のシュート数がわずか1本という数字も迫力不足を如実に表していた。

●巻き返しを図るロティーナ采配

 こうした中、湘南はワンチャンスをモノにする。前半40分、ペナルティエリア手前まで上がった左DFの杉岡大輝が強烈な左足シュートをお見舞い。これをGK前川黛也が弾いたところに詰めたのが町野修斗。理想的な時間帯の先制点は神戸を苦しめた。

 このまま終われないロティーナ監督は巻き返しを図るべく、後半開始時に2枚替え。初瀬亮と小田裕太郎を投入すると同時に、酒井高徳と右に回し、彼と小田の縦関係から崩しを増やそうと試みた。

 その狙い通り、攻撃が活性化しかけた矢先の51分、入ったばかりの初瀬が不用意なバックパスをしてしまう。小林友希が反応できずに棒立ちになったところで反応したのは町野。彼はボールを拾い、一気にゴールに突き刺したのだ。まさかのミスに指揮官も酒井らチームメートも唖然とするしかなかっただろう。

 それでも神戸は気を取り直してギアを上げ、CKから菊池流帆が1点を返し、追撃態勢に入った。途中から入ったボージャン・クルキッチもドリブルで巧みな仕掛けを見せ、イニエスタも前線にチャンスボールを供給するなど、敵陣に迫った。が、湘南の強固な守備ブロックを崩しきれない。武藤嘉紀の決定機も谷晃生のスーパーセーブに防がれてしまった。

 焦燥感を募らせる彼らは6分間のロスタイムに菊池らを前に上げ、なりふり構わぬ攻めに出た。それが奏功し、最後の最後に好位置でのFKを得る。キッカーはもちろんイニエスタ。名手が右足で蹴ったシュートはゴール左隅を突き刺し、2-2の同点かと思われた。だが、VARチェックの結果、武藤の手に当たったと見なされ、ハンドでノーゴールとなった。

 神戸の面々は納得できず、イニエスタが主審に猛抗議をし、ロティーナ監督も仲裁でピッチに入る混乱状態に陥ったが、判定は覆らない。結局、試合は2-1で湘南の勝利。神戸は最下位転落という最悪の現実を突きつけられた。

●酒井高徳の苦言とは?

 シーズン序盤に18位に沈んだ時は「まだ取り返せる」という楽観ムードがチーム全体に漂っていただろう。しかし、三浦淳寛、リュイス、ロティーナと指揮官が交代し、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の2週間にチーム立て直す時間も与えられた後の苦境は非常に厳しい。ACL後は5月14日のサガン鳥栖戦を4-0で快勝し、18日の川崎フロンターレ戦は最終盤に競り負けたものの、内容改善が見られただけに、この連敗は痛恨。それも残留争いのライバル湘南というのはあまりに痛すぎる。

 現実を誰よりも真摯に受け止めたのが、酒井高徳だった。

「(降格危機という)同じシチュエーションの相手と戦って、立ち上がりから勢いで負けるというのはどうなのか。今はいいサッカーをしてるとか、相手よりボールを持ったとか、チャンスが多かったとか、そういうのはどうでもいい。気持ちを出さないとこうなるってことをもっと全員が理解しないといけない。

 今日はスタート時に頭が寝てた選手が何人かいたし、明らかに試合に入ってないなって思うところもあった。本当に心の準備ができていたか、各々がもっと考えなきゃいけないと思います。

 誰がミスをしたとか、ミスがどうこうじゃないし、走ることや戦うことは誰でもできる。今日は球際とか熱量のところで100%じゃなかった。そういうところで少しずつ相手を勝つ流れに連れて行ったんだと思います」

 彼は試合後、12分超にわたって内なる感情を爆発させたのだ。

●3年前より事態は深刻?

 ご存じの通り、酒井はハンブルガーSV(HSV)時代の16/17シーズン以降、毎年のように危機に瀕した。同年は何とか1部残留を果たしたが、17/18シーズンはブンデス参入時から守り続けていた名門の2部降格を阻止できなかった。そして18/19シーズンも1年での1部復帰の道が断たれ、サポーターから凄まじいブーイングを浴びせられた。

 常勝軍団・バルセロナで栄光をつかんだイニエスタらとは違い、残留争いという修羅場の経験はチーム内では屈指。だからこそ、あえて苦言を呈し、厳しい言葉で味方を鼓舞し続けるのだ。

菊池は「ゴウ君が言ってることが全てだと思います」と沈痛な面持ちを浮かべたが、それをチーム全員で共有しなければ意味がない。「まだ大丈夫」「巻き返せる」という楽観が消えない限り、神戸が白星街道を突き進むことは極めて困難と言わざるを得ない。

 思い返してみれば、酒井が日本に復帰した2019年夏も神戸は下位に沈んでいた。当時は失点数が多かったものの、ダビド・ビジャや古橋亨梧ら得点源もいて、今よりも前向きな要素があった。そこまでの道のりは険しかったが、最終的には残留している。

 しかし、今は当時よりも深刻な事態に直面している。それを再認識することがまずは肝心だ。そのうえで、失点数を減らし、得点力をアップするしかない。大迫勇也ら前線アタッカー陣が負傷離脱している今、神戸はどう流れを変えていくのか……。

 まずは酒井が3年前の後半戦で取り組んだように、チームの全体に厳しさを再認識させ、泥臭く這い上がる覚悟を持たせるところからやるしかない。ここで踏みとどまれるか否か。今、彼らは大きな岐路に立たされている。

(取材・文:元川悦子)

【了】