●何もできなかった前半のマドリー

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦、リバプール対レアル・マドリードが現地時間28日に行われ、0-1でマドリーが勝利。4季ぶり14回目の優勝を果たすことになった。試合内容はリバプールの方が上回っていた。しかし、最後に勝つのは結局マドリーなのである。(文:小澤祐作)

 サッカーとは実に単純だ。結局、最後に勝つのはレアル・マドリードなのである――。

 キックオフ時間が大幅に遅れた2021/22シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦。4季ぶり14回目の優勝を目指すカルロ・アンチェロッティ監督率いるマドリーは、予想通り4-3-3でこの試合に臨んだ。最終ラインにはダビド・アラバが復帰。中盤はルカ・モドリッチ、カゼミーロ、トニ・クロースによる鉄板トリオで、前線には絶好調のカリム・ベンゼマとヴィニシウス・ジュニオール、そしてフェデリコ・バルベルデが並ぶことになった。

 そのマドリーだが、前半はリバプールに対し何もできなかったと言っていい。

 相手を引き込み、奪ってから素早い縦への仕掛けで仕留める、というのがマドリーの狙いだったはずだが、それが不可能になるほどリバプールに押し込まれてしまった。とくに脅威だったのが相手の右サイド。プレミアリーグ得点王のモハメド・サラー、キックに自信を持つトレント・アレクサンダー=アーノルドに加え、主将ジョーダン・ヘンダーソンも大外に開いてくる。そのため守備強度が高いとは言えないヴィニシウスの反応が少しでも遅れると数的不利な状況を強いられてしまい、16分の場面のようにシュートまで繋がれることがあった。

 また、マドリーは相手を引き込んでおきながらライン間をしっかりと引き締めることもできず。比較的フリーでボールを持つことが多かったファビーニョを起点としたリバプールの攻撃になかなかブレーキをかけられなかった。

 マドリーはボール保持時も苦戦。前半のリバプールはヘンダーソンが全体にプレスのスイッチを入れていたが、マドリーはその強烈なプレッシャーをうまく回避することができず。苦しんだ末に相手の背後を狙って長いボールを何度も蹴り込んだが、結局はフィルジル・ファン・ダイクを中心とした相手の守備陣に跳ね返され続け、再び守備に時間を割くということを繰り返していた。

 マドリーは前半終了間際、ベンゼマに幻のゴールが誕生したが、それまで決定的なシーンを全く作ることができていなかった。事実、前半はリバプールのシュート数10本に対し、マドリーのシュート数はわずか1本。いつリードを奪われてもおかしくはない45分間だったと言えるだろう。

 しかし、結果論にはなるが、前半を0-0で終えたことがマドリーにとっては大きかった。

●たった一度の隙を突き歓喜を呼び込む

 59分、劣勢の中マドリーは先制に成功する。右サイドを駆け上がったバルベルデがボックス内へ鋭いグラウンダーのボールを送ると、ファーサイドでフリーとなっていたヴィニシウスが冷静に押し込んだ。リバプールは10本以上シュートを放って0点だったが、マドリーはたった2本でリードを奪ったのである。

 試合展開に大きな変化はなかった。上記したことからも分かる通り、それまでマドリーのシュートは1本。対してリバプールは後半開始から失点するまでの間だけでも4本のシュートを記録していたなど、前半同様、先にスコアを動かす可能性はリバプールの方が高かったと言える。

 しかし、マドリーは一瞬の隙を見事に突いたのである。

 カゼミーロからモドリッチにパスが渡ると、アンドリュー・ロバートソンが持ち場を離れ飛び出してきた。しかしモドリッチはボールを失わず、ダニエル・カルバハルに縦パスを差し込んだ。そしてカルバハルは内側のカゼミーロにパス。そのカゼミーロが右サイドのバルベルデに展開し、マドリーの攻撃は加速した。

 ロバートソンがいないことで、バルベルデは余裕を持ってボールを持つことができた。ファン・ダイクはカバーに回っていたが、バルベルデの外側をカルバハルが走り込んでいたため迂闊には飛び込めず。結局バルベルデはストレスフリーのまま右足を振り切ることができ、ヴィニシウスのゴールを演出したのだ。

 マドリーがしっかりとボールを繋いでリバプール守備陣を崩したのは恐らくこのシーンが初めてだった。ロバートソンが出てきてくれたことで結果的には右サイドのスペースを突くことができたわけだが、その相手のたった一つの隙を見逃さずゴールという最高の形に結びつけてしまうのは、流石だった。

 その後ユルゲン・クロップ監督はディオゴ・ジョタ、ロベルト・フィルミーノ、ナビ・ケイタらを投入し攻撃的な布陣に変更。その中でマドリーは何度か決定的なシーンを作られた。しかし同点ゴールは許さず、1-0のまま試合を締めることに成功。シュート数3本、被シュート数23本(UEFA公式サイトを参照)でビッグイヤーを掴み取った。

●リバプールを苦しめ続けた男

 長い時間苦しみながらも最後は勝利を収めることに成功したマドリーだが、この試合を振り返る上でGKティボー・クルトワの名前を出さないわけにはいかないだろう。恐らくこの男がいなければ、マドリーではなくリバプールがビッグイヤーを掲げていたはずだ。

 今季何度もチームを救ってきたクルトワには間違いなく神が宿っていた。まずは16分、サラーのシュートを片手1本でセーブ。21分にはサディオ・マネのボックス内からの強烈なシュートをこれまた片手1本で防いだ。

 64分には右サイドからカットインしたサラーにコース、威力ともに完璧なシュートを放たれるも、クルトワはダイナミックな横っ飛びから右手1本でこれをセーブ。69分にはジョタが頭で折り返したボールにサラーが反応しシュートを放たれたが、今度は左足でこれを防いでいる。

 圧巻だったのは82分だ。ファビーニョのロングパスを受けボックス内に侵入したサラーに至近距離でシュートを放たれたが、クルトワは驚異的な反応で右手を出し、ボールを外へ弾き出したのである。その直後、アラバが思いっきりよくクルトワに抱きついたことからも分かる通り、まさに絶体絶命のピンチを救う超ミラクルセーブだった。

 リバプールの強力な攻撃陣の前に立ちはだかり続けたクルトワは、決勝戦のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選出。データサイト『Opta』によると、この日のクルトワは2003/04シーズン以降のCL決勝において最多となる9個ものセーブを記録していたようだ。どんなに内容で負けようとも、クルトワで守り、ベンゼマやヴィニシウスが点を取り、最後は勝つ。結局は優れたGKと優れたFWがいれば、強いのだ。それをマドリーは、CLという舞台で証明したと言える。

●影のPOMに選出したいのは…

 リバプール戦におけるベストプレーヤーは間違いなくクルトワだ。繰り返しになるが、この男がいなければマドリーの優勝はなかったと言っていい。

 しかし、そのクルトワに負けないほどハイパフォーマンスを披露していた人物がいた。それがフェデリコ・バルベルデである。

 先述した通り、リバプールの右サイドはマドリーにとって脅威だった。しかし、相手の左サイドからはそこまで崩されていなかった。もちろん、もともとリバプールが右サイドに強みを持っているという事実はあるが、そうなった理由についてはやはりバルベルデの存在が大きいと言える。

 豊富な運動量を持つバルベルデはサイドでの上下動をよく繰り返した。守備時にはしっかりと自陣深くまで戻って一列後ろのカルバハルをサポート。それにより、ルイス・ディアス、ロバートソンのいるリバプールの左サイドに対しマドリーの右サイドが質で下回ったり、数的不利になる状況はほとんどなかった。

 今季後半戦絶好調であったロドリゴ・ゴエスではなく、バルベルデが本職ではない右ウィングで起用されたのはやはり守備面での貢献度を考えてのことだろう。そういった意味でウルグアイ代表MFは、アンチェロッティ監督の期待に応えるだけの結果を残したと言える。攻守の切り替えの早さ、プレスバックの強度などといった面で物足りなさを感じさせることは一切なかった。

 もちろんバルベルデの献身性は守備面だけに留まらない。非凡な推進力を発揮するなど、攻撃面でも確かな存在感を誇示。59分にはヴィニシウスのゴールをお膳立てするなど、目に見える結果も残した。

 足をつったバルベルデは85分にエドゥアルド・カマビンガとの交代を命じられたが、それまでの働きぶりは確かにマドリーを助けていた。アシスト1にドリブル成功数3回、デュエル勝利数9回中5回(データサイト『Sofa Score』参照)は決して悪くない数字である。

 CL決勝という大舞台で確かな存在感を示したバルベルデは、ますますマドリーにとって重要なピースになっていくはず。本人にとっても、非常に大きな自信がつく1日となったはずだ。

(文:小澤祐作)