●「相手の強度が落ちることを想定して…」

明治安田生命J1リーグ第16節、FC東京対鹿島アントラーズが29日に行われ、3-1でFC東京が勝利した。首位に立っていた鹿島から2得点を奪ったのは渡邊凌磨。高校サッカーで名をはせ、ドイツで技を磨いた96年世代の先駆者は、飛躍のきっかけを掴みかけている。(取材・文:元川悦子)
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 川崎フロンターレが25日の湘南ベルマーレ戦で4失点を喫して完敗したことで、首位に浮上した鹿島アントラーズ。ただ、彼らも同日のサガン鳥栖戦を4-4で引き分けるなど、圧倒的強さを誇っているわけではない。

「鹿島はクオリティの高い選手を揃えている。最初からインテンシティの高い守備をしてくることは予想していました」とFC東京のアルベル監督は相手をリスペクトしたうえで、虎視眈々と勝ち点3を奪うべく、29日の一戦に挑んだ。コロナ禍初の2万8000人超えとなった味の素スタジアムの熱気も選手たちを後押ししたはずだ。

 立ち上がりから主導権を握ったのは鹿島、前への意識を強く押し出し、素早い切り替えからゴールを伺った。FC東京は粘り強い守備で応戦。長友佑都が対面に位置する安西幸輝とサイドに開いた鈴木優磨の2枚をケアし、森重真人と木本恭生の両センターバックが上田綺世を徹底マーク。ボールを入れさせない。森重が5月21日の柏レイソル戦で復帰して以降、明らかに守備の安定感は増した印象だ。

 守勢に回っていたFC東京の流れが変わったのが、前半の飲水タイム。この日は気温が30度近くまで上昇したため、今季初めて設けられたのだ。それが彼らには奏功する。アルベル監督が「相手の強度が落ちることを想定して、右ウイングの(渡邊)凌磨をより中央でプレーさせるように指示した」と明かした通り、ここから一気に攻撃のギアを上げたのだ。

●修正を施したFC東京で躍動する背番号23

 指揮官の狙いは、まず左インサイドハーフ・松木玖生をアンカー・青木拓矢の脇に下げて数的優位を作り、ワンボランチ気味になる樋口雄太のところに安部柊斗と渡邊を配置してゴールチャンスを伺うというものだった。それがズバリ的中。FC東京は中央のスペースを効果的に使いながら前に出られるようになった。

 さらに大きかったのが、頭抜けた推進力を誇る左ウイング・アダイウトンの存在。鹿島守備陣は彼に引っ張られてフォローが遅れる。超過密日程による運動量・強度の低下も重なり、綻びも目立つようになる。FC東京はじわじわとペースを握っていったのだ。

 迎えた前半33分。ポルトガル1部・ギマラエスへのレンタル移籍が決まり、この日がホーム最終戦となった小川諒也のパスが先制点のきっかけとなる。中寄りの位置でボールを受けた渡邊はディエゴ・オリヴェイラとのワンツーからペナルティエリア右側に侵入。安西をあざ笑うかのように右足を一閃して値千金のゴールを挙げた。

 さらに42分にも背番号23が強烈なインパクトを残す。アダイウトンの弾丸スピードに鹿島のブエノがついていけず、三竿健斗らのカバーも中途半端になったところを逃さず、ディエゴ・オリヴェイラにいい形でボールが入った。彼がタメを作る間に渡邊はガラ空きになっていたペナルティエリア右側に侵入。迷わず右足シュートを蹴り込み、前半だけで2点のリードを奪ったのである。

「GKとの駆け引きに勝てたゴールだった。GKの頭には(1点目に決めた)ニアがあると思ったので、(2点目は)ニアに蹴るふりをしてファーに打った。それがうまくハマった2点だったと思います」と本人もしてやったりの表情を浮かべた。

●「次につながる」2得点

 今季の渡邊はシーズン当初は右サイドバック(SB)で出場することが多かった。「どこのポジションでも100%でやることは変わらないけど、もともと攻撃の選手なので、得点に絡みたいという気持ちがすごく強かった」と本音を吐露する。その後、長友が右SBに定着。渡邊は一列前に上がったが、なかなか得点という結果を残すことができなかった。

「ルヴァンカップから決められそうで決められない試合が多かった。『何とか1点でも』という気持ちでやってきた結果、2点という形になってよかった。中に入るプレーは前節・清水(エスパルス)戦からタイミングをつかみながらやっていた。それがうまくいったのは次につながると思います」と彼自身も武器であるシュート力を発揮する術を徐々に見出しつつあるようだ。

 もともと渡邊は2013年のU-17ワールドカップ(W杯)に参戦したメンバーの1人。当時は杉本太郎と並ぶエース格の1人だった。前橋育英高校時代は高校サッカー選手権準優勝を果たし、早稲田大学進学直後にドイツのインゴルシュタットへ。そこで3シーズンを過ごして日本に復帰し、アルビレックス新潟、モンテディオ山形を経てJ1に個人昇格してきた。10代の頃から潜在能力の高さに定評のあった選手が表舞台に出るまで時間を擁したのは、こういった道のりを歩んだからだ。

●鈴木優磨を諫める強心臓

 加えて言うと、96年生まれは2016年リオデジャネイロ五輪世代の一番下。U-20やU-23を含めて日の丸を背負うチャンスが少なかった。今になって小川や鹿島の鈴木優磨、樋口らがJリーグで中心的存在になり、渡邊の前育時代の同期・坂元達裕も海外に移籍している。鎌田大地に至ってはヨーロッパリーグ王者になったが、彼らが遅咲きなのは世代的な問題もあるだろう。

 この日、傑出した働きを見せた渡邊は後半15分に交代。試合は後半7分にディエゴ・オリヴェイラが加点し、鹿島の上田綺世に1点を返されたが、3-1の勝利の原動力となった。これまでのFC東京はディエゴ・オリヴェイラやアダイウトンら外国人選手、永井謙佑のような実績あるベテランの決定力に依存しがちだったが、新たな得点源が生まれればアルベル監督もチーム全体も楽になる。

 16試合を終え、首位に浮上した横浜F・マリノスとの勝ち点差は6。指揮官は「直ちにタイトルを取ることを目標に設定したりはしない」とけん制していたが、ここから渡邊らのゴールラッシュが見られれば、一気に高みに上り詰める可能性もゼロではない。

「今日の感覚だったり、自分のいい感覚を忘れずにやりたい。前をやってる時は得点・アシストという結果が求められる中で、『自分で決める』という意識があれば、勇気と自信を持って蹴れる。そう思います」

 こう語気を強めた渡邊。試合後にはペットボトルを投げつけた同い年の鈴木優磨を諫める発言をするなど強心臓な一面ものぞかせた。この男のさらなる覚醒が楽しみだ。

(取材・文:元川悦子)