●日本代表にできるのは善戦まで
サッカー日本代表は6日、キリンチャレンジカップ2022でブラジル代表と対戦し、0-1で敗れた。「善戦」や「健闘」といった文言が目に付くが、実際のところはどうなのか。11月に開幕を控えるカタールワールドカップで勝つためには、改善すべきポイントが多く残されている。(文:西部謙司)
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日本代表は現時点でやれることを、ほぼやりきった試合だと思う。ブラジル代表を相手に善戦だった。ワールドカップで対戦するドイツ代表、スペイン代表にも同じような試合ができるのではないかという期待を抱くことはできる内容だった。
一方で、善戦はできてもこの内容で勝つ可能性はかなり低いといわざるをえない。日本代表の枠内シュートはゼロだった。UEFAチャンピオンズリーグ決勝で、枠内シュート1本だったレアル・マドリードが1-0でリバプールを下したように、1回のチャンスでも決めてしまえば勝つことはできる。
オフサイドになった古橋亨梧、板倉滉のヘディングシュート、田中碧の決定機に近いチャンスもあった。しかし、チャンスの数ではブラジル代表に圧倒されているうえ、フィニッシュの能力も向こうが上なのだから、普通に考えればこの内容の試合を繰り返しても日本代表にできるのは善戦までということになる。
FIFAランキング1位の強豪を相手に善戦できたのだから、客観的にみれば日本代表は非常に健闘したといえる。ただ、ワールドカップを考えると善戦以上の可能性を見いだせなかった試合でもあった。
●ハイプレスの効力は?
対強豪国という意味でポイントを絞ると、第一には日本代表の敵陣でのプレッシングがどれほどの効果をあげられるか。
相手のゴールキックからのビルドアップを阻止できなければ、ミドルプレスに移行するしかなくなり、そうなると強豪相手では実質的に押し込まれる。押し込まれるならまだいいが、ハイプレスを外された結果カウンター気味に攻め込まれる。
昨年のユーロ(欧州選手権)を見ると、強豪国に対して中堅以下のチームはハイプレスを行っていない。全くしないわけではないが基本的には引いてブロックを作る守備を選択していた。奪いにいっても奪えないとわかっているからだ。失点のリスクを高めるのでハイプレスはかなり抑制的だった。強豪同士でも奪えない事情はさして変わらないので、UEFAネーションズリーグでスペイン代表と対戦したフランス代表もハイプレスは限定的にしか行っていなかった。
ブラジル代表に対する日本代表のプレスは効果的とまではいえないものの、後半にはロングボールを蹴らせて回収した場面も複数あり無力ではなかった。プレスを外されて攻め込まれるリスクとの兼ね合いをどう考えるかだが、引いてしまえばまず勝機はない。ハイプレスが無力でなかったのは収穫だった。
●期待できる第二のポイント
日本のハイプレスが無力でなかったので、20分間は五分に近い形勢を維持できた。しかし、それ以降はブラジルに押し込まれて引く形になった。
ミドルプレスで構えてもブラジルからボールは奪えない。結果的に押し込まれて引いてブロックを作るしかなくなっていた。ミスがないのでファウルで止めるか、攻撃が流れてゴールキックになるまで耐えるしかなかった。
もし、日本代表が最初から引いてしまえばカウンターされるリスクは減っても、相手をゴールに近づけるリスクは増大し、反撃のチャンスも激減してしまうので、勝つ可能性を探ればハイプレスは捨てたくないわけだ。ただ、90分間ハイプレスを敢行するのは不可能であり、落ち着いてボールを持たれたら押し込まれるのは避けられない。
そこで第二のポイントは自陣に引いたときの守備耐性になる。
この試合の日本代表の守備ブロックは固く、容易にチャンスを作らせなかった。ネイマール以外にはデュエルでもそう負けていない。ネイマールがどうにもならないのは世界的にそうなのでファウルで止めれば良い。ドイツ代表にもスペイン代表にもこのクラスはいない。
シュートはそれなりに打たれたが、守備耐性にも期待できるところを示した。
●勝負を分ける大きな課題
ポイントの第三は、日本が相手のハイプレスを外すことができるかどうか。
GK権田修一も経由させながら、勇気を持ってビルドアップを図ったのは好感が持てた。ゴールキックからのボールを簡単に相手に渡すようでは流れを変えられず、押し込まれっぱなしになってしまう。容易にボールを奪えない以上、ゴールキックから逆に押し込めるぐらいでないと厳しい。ブラジル代表がさほどハイプレスを徹底しないこともあって、日本代表はパスをつないで押し戻すことはできていた。
ただし、南野拓実、遠藤航、堂安律が半身で受けたところを狙われて奪われたように、これに関しては収穫よりも課題が残った。PKにつながったブラジルの攻撃は堂安がプレスされて失ったところから始まっている。
結局、この試合で一番危ないのは中盤や自陣でボールを奪われてのショートカウンターだった。日本代表は相手に対してこれをやらなければいけないし、相手にはやらせてはいけない。そこが勝負どころで、そこで負けてしまえば試合も落とすことになる。
第四のポイントはいかに相手の守備ブロックを崩して点をとるか。終盤にブラジル代表が引いたので、日本代表の実力を試す絶好の機会が訪れている。しかし、切り札として投入された三笘薫はミリトンに封じられた。ワンツーでペナルティーエリアに侵入する場面は作れたが、そこまで。伊東純也も十八番の突破を封じられていて、サイドの武器を抑えられると攻め手がほぼないことを露呈した。
ブラジル代表戦で強豪国を相手にも善戦できる可能性があることは示せた。接戦に持ち込めば何が起こるかわからないのがサッカーであり、そこまで行ける力は確認できた。ただし、それぞれのポイントに改善の余地があり、中でも攻撃に関しては大きな課題が残った。材料は出揃った感があるので、あとは善戦が精一杯の現状から一歩でも可能性を上げる作業になる。
(文:西部謙司)
【了】