●欧州初挑戦の三笘薫。ハットトリックが転機に

 数多くの激闘が繰り広げられた2021/22シーズンが幕を閉じた。欧州各国でプレーする日本人選手たちは、果たしてどのような活躍を見せたのだろうか。今回は、ベルギーのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズに所属する三笘薫のシーズンを前後編にわたって振り返る。(取材・文:舩木渉)

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 欧州に渡って初めてのシーズンは、山あり谷ありだった。

 昨年8月に川崎フロンターレからイングランド・プレミアリーグのブライトン&ホーブ・アルビオンへ完全移籍した三笘薫は、ベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズに貸し出されることとなった。

 しかし、負傷を抱えたまま東京五輪に出場していた影響で新チームへの合流が遅れ、リーグ戦序盤はメンバー外が続いてしまう。第7節のゲンク戦でベルギーデビューを飾った後も、しばらく途中出場でしか出番をもらえなかった。

 そんな中、大きな転機となった試合がある。2021年10月16日に行われたリーグ第11節のスラン戦で、三笘の立場はガラリと変わった。

 スランに2点を先行され、退場者も出していたユニオンは、後半開始から三笘をピッチに送り出す。この交代策が当たった。背番号18の日本人ドリブラーは55分に追撃の1点を挙げると、ダンテ・ヴァンゼイルの同点弾を挟んで76分と90分にも加点。数的不利な中、三笘は45分間でハットトリックを達成してチームを大逆転勝利に導いたのである。

 ファン・サポーターからの目線も劇的に変わった。センセーショナルなパフォーマンスを披露した三笘を称える個人チャントも生まれ、一躍大人気選手の1人に。結果を出したことで、翌節から先発起用が続き、昨年11月には日本代表からも初招集を受けた。

「(ベルギーでは)まず自分のプレーやどういうプレーヤーなのかを認めさせないといけないし、わかってもらわないといけないので、練習からそういったところをアピールするようにしていました。1人ひとりのプレーをしっかりと観察して、1人ひとりにどういうプレーが最適なのかを考えてやっていました」

●慣れないウィングバックでの苦悩

 日本代表入りして初めての取材対応の際に、三笘は「結局は試合で結果を出さないと認めてくれないので、最初の頃はもがきながらやっていました」と欧州での苦労を明かしていた。難しかったのは自分をアピールすることだけではない。3-5-2の左ウィングバックという新たな役割に適応することも必要だった。

 フロンターレ時代、主に4-3-3の左ウィングでプレーしてきた三笘にとってウィングバックは初めての挑戦だ。高い位置で得意のドリブルを仕掛ける場面が減るばかりか、守備時には最終ラインまで戻って体を張ることも求められ、身体的な負担も大きくなる。その中で自分の武器を生かし、いかに結果を残すか試行錯誤の日々が続いていた。

 とはいえ大事なのは何よりも試合に出ること。ユニオンにはウィングのポジションがなく、2トップにもゴールを量産していたヴァンゼイルとデニス・ウンダブという絶対的な存在が君臨しており、「試合に出るためにウイングバックが最適だった」のである。

 ピッチ外では栄養士や専属のトレーナーをつけて肉体改造にも取り組み、ピッチ内では難しい役割をこなしながら結果を求めてプレーする。日本代表にも選ばれていながら、昨年12月にベルギーで取材した際には「全然やれている感覚はない」と語り、「苦しい」という本音も漏らしていた。

「(ウィングバックは)難しいですね。最終ラインまで戻るところと、(前に)出ていくところと、上下動が激しいので、そこでいかに自分の特徴であるドリブルを出していくか考えながらやっていますけど、なかなかまだ(最適なバランスを)つかめてはいないです」

 リーグ前半戦の頃は守備面で背後をカバーするセンターバックに救われる場面も多く、スラン戦のハットトリックの後は単発のゴールこそあれ、なかなか「結果」が続かなかった。

 それでも「もちろん先発で出てナンボだと思っているので、途中出場での役割もわかっていますし、流れを変えられるとも思っていますけど、そこだけの選手にはなりたくない」と、三笘の高い志にブレはなかった。

●日本代表を救うヒーローに

 より周囲との関係性を深めて、ウィングバックからでもゴールやアシストに絡む場面を増やす。そんな展望を描いて後半戦を迎える……はずだった。ウィンターブレイクに実施されたスペインキャンプ中の練習試合で、三笘をアクシデントが襲う。今年1月8日に行われたセルクル・ブルッヘとの練習試合中に、右足首を捻挫してしまったのである。

 結局、この負傷によって1ヶ月以上の離脱を強いられ、復帰できたのは2月下旬のこと。リーグ首位を快走していたユニオンでは、ポジションを取り戻すために再びアピールが必要な立場になっていた。

 そんな中で3月下旬に4ヶ月ぶりの日本代表復帰を果たした三笘は、ヒーローになった。「この1試合にチームとしても個人としても命がけで戦おうと思います」と宣言していた3月24日のオーストラリア代表戦で途中出場から約10分間で2得点を挙げる大活躍を披露。日本代表をカタールワールドカップ出場権獲得に導いた。

「今日の試合で決めるというのは全選手が思っていたので、(ピッチに)入った時には攻撃的にいこうと思っていましたし、チーム全員がそういう矢印に向いていたというのはすごくよかったなと。自分自身も今日、結果を出さないといけないと思って臨んでいたので、それが前への推進力になったんじゃないかと思います。2点目はいかなくてもよかったところもありますけど、体が勝手に動いた感じですね」

 後半アディショナルタイムの94分、左サイドでボールを持った三笘は一瞬の加速と切り返しで相手ディフェンス2人を置き去りにし、右足を振り抜く。「命がけ」の覚悟が宿ったシュートは、GKマシュー・ライアンの手を弾いてゴールの中に転がっていった。

(取材・文:舩木渉)