●「長いようであっという間」の1年

 数多くの激闘が繰り広げられた2021/22シーズンが幕を閉じた。欧州各国でプレーする日本人選手たちは、果たしてどのような活躍を見せたのだろうか。今回は、スコットランドのセルティックに所属する古橋亨梧のシーズンを振り返る。(取材・文:舩木渉)

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「厳しい1年でもあり、楽しい1年でもあり、長いようであっという間に終わった。すごく充実していましたけど、やっぱりまだまだ課題はあると思っているので、まだまだ成長しないと」

 欧州初挑戦のシーズンを終えた古橋亨梧からは「1点でも多くゴールを決めたい」と、得点に対する欲が溢れていた。ヴィッセル神戸からスコットランドの強豪セルティックに移籍し、1年間で4つの大会を通して33試合出場20得点5アシストという成績を残した。

「僕がゴールを決められているのはたくさんの選手が後ろからゴール前まで(パスを)つないでくれているから。僕はゴールを決めるだけのポジションで決められていると思っているので、本当に周りに支えられて、たくさんの選手がパスをくれているので、感謝しかないです」

 どこまでもまっすぐで純粋な男だ。プレーだけでなく、その人間性でも「キョウゴ」はセルティック・パークを埋める熱狂的なファン・サポーターの心をつかんで離さない。

 だが、加入当初は古橋の実力に懐疑的な視線を向ける者も少なくなかっただろう。欧州での実績は皆無で、日本代表歴も浅い。極東の島国からフットボールの故郷へとやってきた無名のストライカーを無条件で「信じろ」と言う方が難しい。

 それでもアンジェ・ポステコグルー監督は徹頭徹尾、古橋への信頼を曲げなかった。横浜F・マリノス時代からポテンシャルを熟知していた指揮官は、セルティック行きが決まってすぐに古橋をチームに迎えて試合に使い続けた。

 するとUEFAヨーロッパリーグ(EL)予選からゴールを量産し、昨年8月8日に行われたスコティッシュ・プレミアシップ第2節のダンディーFC戦でいきなりハットトリックを達成する。セルティックのファン・サポーターは新戦力の日本人ストライカーの躍動を目の当たりにして、恋に落ちた。

 公式戦6試合で6得点と最高のスタートを切り、ポステコグルー監督も「私は彼を連れてきた初日から『非常に頭のいい、優れた選手だ』と言ってきた。だからこそ彼はあらゆる課題に対する解決策を見つけると確信している」とご満悦のようだった。

●得点力だけでない古橋亨梧の魅力

 辛口なOBも黙らせた。セルティックで選手やコーチとして活躍したジョン・コリンズ氏はクラブ公式TVの解説を務めた際に「キョウゴのプレーに対する姿勢を見て、セルティックサポーターや監督はとても満足しているはず。本人にとっては間違いなく喜ばしいことだ。そして、チームメイトも彼とプレーすることが大好きだろうね。彼の素晴らしい動きを見てよ。ゴールを決めるたびに満面の笑みを浮かべる、その姿を」と絶賛した。

 ゴールを決めるだけではない。序盤戦は1トップと左ウィングの2つのポジションで起用されながら(のちに指揮官はウィング起用を後悔することになる)、守備時に激しくプレスをかける献身性にも注目が集まった。コリンズ氏が「まるで猟犬のよう」と形容した運動量は、チームに活力をもたらした。

 ポステコグルー監督就任1年目で新たな戦術を導入し、適応に苦しむチームがなかなか結果を出せず批判を浴びる中でも、古橋はコンスタントにゴールネットを揺らして評価を高めていく。昨年12月上旬までにリーグ戦で8得点、ELなども合わせれば14得点という驚異的なパフォーマンスでセルティックを牽引した。

 昨年8月下旬の日本代表活動中には「チームメートみんなが信頼をしてパスを出してくれてることが一番なのかなと。ほぼほぼワンタッチかツータッチのゴールが多いので、僕もゴール前の駆け引きで勝つことがすごく大事だし、パスを出してくれる仲間がいることが大事なのかなと思います」と、古橋はセルティックで好調の要因を充実した表情で語っていた。

 ポルトガル人ウィンガーのジョタとのゴールデンコンビも生まれた。2人の連係でゴールを量産し、英『BTスポーツ』のインタビューに応じたジョタは「キョウゴは常にピッチ上でスペースを狙っているから、その意図を察してパスを送る。素晴らしい動き出しからゴールを決めてくれるよ。試合を重ねれば重ねるほど僕らのコンビネーションはもっとよくなる。キョウゴはフィールドで何かをやってのける選手。僕が見てきた中でも最高のプレーヤーの1人だ」と語ったほどだ。そのうえで、ジョタはこう続ける。

「キョウゴは英語がわからないと言っているけど、とてもいい奴だし面白い。僕が日本語を勉強して話せるようになるから、何も問題はない。何より重要なのは、ピッチ上でいい関係にあるということだ」

●まさかの長期離脱を経て…

 周囲の選手たちとも良好な関係を築き、全員がまず古橋の動き出しを見てパスを出してくれる。そんな最高の環境が出来上がっていた矢先である。好事魔多しと言うべきか。絶好調の日本代表ストライカーは昨年12月9日に行われたELグループステージ第6節のベティス戦で右ハムストリングを痛めてしまう。

 当初は重傷と診断されず、何とか同月19日のプレミアスポーツ・カップ(リーグカップ)決勝に合わせて復帰。ハイバーニアンとの一戦で2得点を挙げて、セルティックをタイトル獲得に導いた。古橋自身にとっても欧州で初めてのタイトルだったが、ここで無理をしたことが祟ったのか、同月26日のリーグ第20節セント・ジョンストン戦で再び同じ箇所を痛めてしまう。

 結局、右ハムストリングの負傷から完全復帰できたのは4月上旬のこと。約3ヶ月半もの長期にわたった戦線離脱を経て、奇しくも負傷時と同じセント・ジョンストン戦で復帰を果たした。

「1日でも早くピッチに帰ってプレーしたい、ゴールを決めたいという気持ちでいました」

 長期のリハビリに取り組む間に、日本代表はアジア最終予選を突破してカタールワールドカップ本大会出場を決めていた。セルティックもレギュラーシーズン首位で上位6クラブによる優勝決定プレーオフ進出が確定済み。だが、そんな遅れを物ともせず、古橋はゴールを決め続けた。

 周囲からの信頼も一切失われていなかった。冬に加入したMFマット・オライリーも地元メディアに「キョウゴの動きのシャープさは、これまでに見たことがないものだった。そして、彼は常に自分がどこに立っていればいいかを理解している」と感嘆するほど。復帰後も負傷前と変わらずボールが集まり、古橋はプレーオフの5試合で4得点を奪って見せた。

 復活弾を決めたリーグ戦プレーオフ第1節のロス・カウンティ戦後には、ポステコグルー監督も「みんながキョウゴのことを恋しがっていた。彼はちょっとした魔法みたいなものを持っている。ゴールは彼が復帰するために一生懸命努力してきたことへの報いだ」と称賛。プレーオフも含めて古橋のリーグ戦最終成績は20試合に出場して12得点だった。

●来季はCLの舞台へ

 リーグ得点王に輝いたチームメイトのギオルゴス・ジャコマキスが13得点だったことを考えると、もし復帰まで4ヶ月近く要したハムストリングの負傷さえなければ古橋がぶっちぎりで得点王になっていてもおかしくなかっただろう。

 古橋は負傷も乗り越えながら20得点を挙げた充実のシーズンを終えて「やっているうちに自分の強みが通用している感覚はありました」と手応えを口にしていた。一方で「フィニッシュ」の局面にまだまだ課題も感じている。

「たくさんの人に支えられてゴールを決められていますけど、その分、外している回数もまだまだ多い。全部決められるわけではないですけど、1本1本、(シュートを)外す回数を減らしていけたらと思っています」

 もっともっとゴールを決めたいという意欲が尽きることはない。自分が「まだ成長している段階」と認識している27歳のストライカーは、大きなインパクトを残したセルティックでの1年目を最高到達点にしないためにも、「まだまだ伸びると思うので、もっともっと(武器を)磨いていければ」とさらなる成長に燃えている。

 来季はキャリアで初めてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の舞台に立つチャンスもある。セルティックでアイドルとなった古橋が欧州最高峰の戦いの中でどんな進化を披露してくれるだろうか。

「めちゃくちゃ出たいですね。チャンスは僕にもあると思っている」とワールドカップにも強い憧れを抱くストライカーは、来季もゴールラッシュで我々を驚かせてくれるはずだ。そして、スコットランドでもおなじみになったゴール後の「きのこポーズ」が欧州で大流行する未来も決して夢ではない。

(取材・文:舩木渉)