●2つのタイトルを失った川崎フロンターレ

明治安田生命J1リーグ第18節、川崎フロンターレ対ジュビロ磐田が25日に行われ、1-1の引き分けに終わった。川崎は直近5試合で1勝しかできず、首位との差は拡大。連覇という快挙を成し遂げた過去2シーズンとは違い、苦しい戦いを強いられるケースが増えている。(取材・文:元川悦子)
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 6月の国際Aマッチデー(IMD)直前のサガン鳥栖、湘南ベルマーレ、京都サンガとの3連戦を未勝利で終えた川崎フロンターレは、16戦終了時点で3位に転落していた。それでも、中断明け直後の6月18日のコンサドーレ札幌戦を5-2で勝ち、リーグ4試合ぶりの勝ち点3を手にしている。

 これで安堵したのもつかの間、直後の22日の天皇杯3回戦で格下・東京ヴェルディにまさかの不覚を取ってしまった。

「(鬼木達)監督は『目指すタイトルはハッキリしている』と言っていた。そこに向けてみんなで準備してきましたし、勝つための気持ちでのぞもうと切り替えました」と長期離脱から復帰した大島僚太が語気を強めた通り、天皇杯とAFCチャンピオンズリーグを失った彼らに残されたのは、J1とYBCルヴァンカップしかない。とりわけJ1は2020・2021年に圧倒的強さで連覇しているだけに、このタイトルだけは絶対に死守したかった。

 そういう意味でも、25日のジュビロ磐田戦は極めて重要だった。本拠地・等々力競技場で白星は必須。強い気迫と闘争心を、川崎は序盤から強く示そうとした。

 実際、前半はハーフコートゲームと言ってもいいような内容だった。アンカーに大島が入ったことでパス出しの起点が生まれ、緩急の変化をつけながら長短のパスで敵を攻略する。彼と脇坂泰斗、遠野大弥の中盤のトライアングルもうまく機能し、川崎らしいボール支配ができていた。

●試合は一方的な展開に

 磐田は1トップに陣取った杉本健勇が前線からボールを追うが、川崎の両センターバックと大島にいなされ、プレスがハマらなかった。それもあって自陣に引かされ、守勢一辺倒になってしまう。前半シュートゼロという数字が彼らの苦境を物語っていた。

 一方的な展開ということで、川崎に先制点が入るのも時間の問題だった。磐田ゴールをこじ開けたのは33分。脇坂から大島、谷口彰悟とボールが渡り、キャプテンが浮き球のボールを最終ラインの背後に出した瞬間、右サイドの高い位置を取っていた山根視来が大森晃太郎を置き去りにし、ゴール前でフリーになった。そして右足を一閃。シュートは見事にネットを揺らした。

「あの場面は対面が大森選手で、攻撃に特徴のある選手だったので、相手を見ながら急所に入っていった。それはいつも考えていること。あそこは彰悟さんがいいボールを出してくれたと思います」と山根も自身の推進力と決定力に自信をのぞかせた。

 ただ、川崎はこの1点で少しペースダウンしてしまう。前半45分間のボール支配率63対37という数字を見れば、文句なしに相手を上回ったが、シュート数の3対0というのは物足りなかった。前半16分の左CKからの谷口のヘッド、右の角度のないところからの22分の家長昭博のシュート、終了間際の左サイドバック・橘田健人の攻め上がりからのクロスなど惜しいチャンスはあったが、2点目を奪えない。

 それが後に響くことを、彼らはこの時点ではまだ自覚していなかったようだ。

●修正を図るジュビロ磐田

 前半通して抑え込まれた磐田も、当然のごとく修正を図ってくる。伊藤彰監督は後半頭から杉本と大森を2トップ気味に配置。川崎の両CBと大島へのケアを強めてきた。特に大島のアンカー脇のスペースを狙って、パス回しの起点をつぶそうと試みたのだ。この采配がズバリ的中し、川崎の攻撃が前半のようにスムーズには流れなくなった。

「前半は狭い中でもバイタルにボールが入ったが、後半は相手も対応してきた。そういう時こそ、先制点の場面のように背後に走る選手がいないとギャップはできない。もっと怖いところに人が走っていくように、全員の目を揃えることが必要になってくる」と鬼木監督も苦言を呈したが、ピッチを大きく使うワイドな展開が見られなくなったのは痛かった。

 停滞感に包まれ始めた川崎に追い打ちをかけるように、磐田はジャーメイン良、山本康裕、金子翔太といった切り札を投入。前線の活性化を図る。逆に川崎は山根がアクシデントで交代を余儀なくされるなど、ダイナミックさをもたらせる人材が減っていく。鬼木監督もレアンドロ・ダミアン、ジョアン・シミッチらを送り込み、攻撃の圧力を加えようとしたが、悪循環は改善されない。

 そこにのしかかったのが、後半40分の同点弾だ。42歳の名手・遠藤保仁の右CKにニアで反応したのは、伊藤槙人だった。

「あのセットプレーはナイスボールだったし、ヘディングも素晴らしいゴールだった」とベンチから見ていた山根も神妙な面持ちで言うように、ワンチャンスを見事に持っていかれる格好になってしまったのだ。

 終わってみれば1-1のドロー。川崎は勝ち点2を落としたうえ、暫定首位の横浜F・マリノスとの勝ち点差が3に広がるという手痛い結果を突きつけられた。

●「1-0なのに満足していた」

「1点差だとアクシデントもあれば、セットプレー1発もカウンターもある。2点目(の重要性)をずっと言い続けていましたけど、それが取れず、勝ち点1になってしまった」

 鬼木監督が悔やんだように、確かに2点目3点目を貪欲に奪いに行く迫力と勢いが見られなかった。それが圧倒的強さを見せた過去2シーズンとの最大の違いではないか。先制弾の山根も「1-0なのに(ボールを)握っていることで満足していた」とズバリ指摘していた。

 その意識が今季ゴール数の伸び悩みにつながっているのかもしれない。川崎の18戦終了時点の総得点は26。これは首位・横浜より10少なく、鹿島アントラーズを下回っている。

 個人得点ランキングを見ても、上位クラブには得点王争いを繰り広げる人材が何人かいる。鹿島には10点の上田綺世と6点の鈴木優磨、マリノスには7点のアンデルソン・ロペスと6点の西村拓真がいるが、今季の川崎は家長とマルシーニョの4点が最高。頼みのレアンドロ・ダミアンや小林悠は数字の伸び悩みが気がかりだ。山根が3点と気を吐いてはいるものの、彼も交代を強いられる状態で今後が不安視される。

 中盤の脇坂や遠野ら含め、もっともっとゴール前へ入っていく意識を持たないと、状況は変わらない。ボールを保持しつつ、長短のパスをつなぎながら攻めるという川崎のスタイルを貫くことは間違いなく重要だが、ゴールがついてこなければ意味がない。それをキャプテン・谷口中心にチーム全体に再徹底させることが肝要だろう。

 いずれにしても、今の川崎が頭抜けた強さを誇った過去2年間とは趣が異なるのは事実。厳しい現実を全員が再認識して夏場の戦に向かっていく必要がある。若手の橘田健人や遠野などは「強い川崎」しか知らない。ゆえに、彼らを含めて苦境をいかに打開していくかをみんなで考え、解決策を導き出す作業が求められてくるのだ。

「この夏場に突き抜けたチームがそのまま優勝する。そこは強烈に意識してやりたい」と山根も強調したが、今はまさに勝負どころ。ここから巻き返すためにも、彼らには王者のプライドを持ちながらも原点回帰を図ってほしいものである。

(取材・文:元川悦子)

【了】