●マスカット監督も惚れ込む宮市亮の人間性

 先月27日、日本全国に衝撃が走った。サッカー日本代表戦に出場していたFW宮市亮が、韓国戦の終盤に右ひざを痛めて負傷交代。医師の診断は「右ひざ前十字じん帯断裂」だった。これまで何度も大怪我を負ってきた宮市にとって「もう現役を終えよう」と考えたほどの最悪の結末だ。そこで横浜F・マリノスの選手・スタッフは大切な仲間を勇気づけるべく動いた。(取材・文:舩木渉)

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 日産スタジアムの記者会見室で珍しい光景を目にした。横浜F・マリノスを率いるケヴィン・マスカット監督が、フィールドプレーヤー用の青いユニフォーム姿で現れたのである。

 いつもなら夏用の白Tシャツとグレーのパンツという組み合わせがお決まりなので、特別な思いを抱いていることは明らかだった。

 ユニフォームの胸には「亮 どんな時も 君は一人じゃない」とプリントされている。先月27日のサッカー日本代表戦で右ひざ前十字じん帯断裂という大怪我を負ったFW宮市亮に対するエールだ。

 もともとは選手たちがウォーミングアップ開始前と試合後に着用する予定で特別に作られたものだったが、指揮官は自ら宮市へのメッセージが込められたユニフォームを着ることを望んだ。

 試合が終わるとマスカット監督は「ミヤはどこだ?」と、室内で観戦していた宮市を探し、ピッチへ呼び寄せる。選手たちの円陣が解けると、指揮官はユニフォーム姿で中継用のフラッシュインタビューを受け、記者会見にもそのままの装いで臨むことを強く望んだ。

 そして、その記者会見では「感情的になるところもあった」と長期離脱が決まった宮市への思いを熱っぽく語った。

「ミヤとは個人的にも長く話をした。プライベートな部分もあるが、みなさんに彼の考えを1つ共有できるとすれば、彼はすぐに自分のことだけではなくチームのことを考えていた。あれだけの大怪我をしている中で、他のことを考えられる。素晴らしい性格、人間性の持ち主だ。

彼は私に言ったんだ。『走れなくても、ピッチに立ってプレーできなくても、外からでも自分がチームのためにできることは全てやる』と。アンビリーバブル。彼がチームメイトであることを誇りに思うべきだし、サッカークラブにとって最高の人間性の持ち主だ。どん底にいても、2、3分後には彼はチームのためを思って行動で表現できる。大したものだ」

 プレーのクオリティのみならず人間性も惚れ込んでいるからこそ、マスカット監督は普段なら絶対に着ない選手用のユニフォームにも袖を通した。チームメイトたちやファン・サポーター、マリノスファミリーから激励を受けた宮市は、大粒の涙を流していた。

●「どんな時も君は一人じゃない」

 マリノスでは長期離脱を要する大怪我を負った選手に向けて、これまでもメッセージ入りのTシャツが何度か作られてきた。例えば昨季後半戦を棒に振る左太ももの大怪我で手術を受けたDF畠中槙之輔に対して。あるいは2019年に右ひざ前十字じん帯損傷で全治8ヶ月と診断されたDF高野遼にも、メッセージ入りTシャツでエールが送られた。

 だが、宮市は「特別」だった。怪我の重さも去ることながら、ひざのじん帯を断裂するのは左右合わせて3度目。復帰まで想像を絶するような困難な道のりが待っているのは明らかで、手術が終われば先の見えない長いリハビリが始まる。

 そこでチームキャプテンのMF喜田拓也が先頭に立って「みんなの総意」で、特別なユニフォームを作ることに決めた。宮市の負傷がクラブから発表された鹿島アントラーズ戦の前日、7月29日のことだ。次の瞬間から大急ぎで準備が始まった。

 喜田やホペイロ(用具係)の緒方圭介、主務の山崎慎が中心となってユニフォームの胸にプリントするメッセージを考え、宮市本人だけでなく誰に対しても伝わりやすいよう日本語で「亮 どんな時も 君は一人じゃない」と入れることに決定。通常の背番号17のユニフォームはネームに「RYO」と入れているが、胸に「亮」があるため、特別仕様で「MIYAICHI」のネームシートを作成して両面でフルネームを演出することにした。

 喜田は「何が一番彼に刺さるか、彼自身の状況や背景もしっかりと考えて、どんな言葉やタイミング、出し方がいいのか考えました」と明かす。そして、ホペイロの緒方は並行して電話をかけまくった。

 必要な数のユニフォームがトップチーム用の予備だけでは足りず、クラブのグッズ販売用に卸していたものや、スポーツ用品店の在庫からも無理を言ってかき集めた。さらに胸にプリントする用の漢字のマーキングシートと「MIYAICHI」のネームシートを専門業者に大急ぎで発注した。

 翌朝、緒方が全ての材料を携えて日産スタジアム横のオフィシャルショップに駆け込み、専用の器具を使って胸のメッセージや背中のネームを貼り付ける。ユニフォームを集めて倉庫まで運び込んでくれたスポーツ用品店のスタッフや、朝までに特別なマーキングシートを製作して遠方から届けてくれた業者などの協力もあり、試合前に30枚分のメッセージ入りユニフォームが完成した。

●なぜ宮市亮は特別な存在なのか

 ホペイロとしてマリノス加入当初から宮市に寄り添い、向き合ってきた緒方は「本当に周りの人のおかげで、みんなが手伝ってくれたからできた」と、試合まで時間が限られる中で協力してくれた各方面への感謝を語った。そのうえで、こう続けた。

「亮の場合は、個人的な感情で言えば、同い年で、高校サッカーの時のアイドル。そこからずっと気にしてきた存在で、その選手が今はマリノスに来て一緒にやっている。小さい肉離れで1週間離脱するのも同じ怪我。大きな怪我をしたから特別なのではなく、自分にとって特別な存在だった選手が怪我をしてしまったということなんだよね」

 宮市が怪我をしたことが大きな関心を集め、前向きなエールを受けられるのには、いくつか理由があるだろう。1つはこれまで度重なる怪我に苦しめられてきたことを、多くの人々が知っていたから。ひざの前十字じん帯断裂は左右合わせて3度目、右に限っても損傷を含めれば3度目の大怪我になる。18歳でアーセナルに移籍し、いくつものクラブを渡り歩く中で、何度も絶望から這い上がって復活を遂げてきたストーリーがある。

 2つ目は、彼の人間性だ。誰とでも分け隔てなく接し、常にポジティブで、サッカーができる今を全身で楽しんでいる。困難にも全力で立ち向かっていく精神的な強靭さや、チームに対しての献身的な姿勢は自然と周りに伝播していく。マスカット監督が記者会見で言及したそれだ。

 鹿島戦でマリノスの選手たちは「宮市のために」という思いで団結し、普段以上のエナジーがピッチ上のプレーに表れていたように感じた。究極のチームプレーヤーである宮市を後押しするには、目の前の試合に勝利することが何よりも効果てきめんだと全員が理解していた。

 日本代表活動から戻って中2日で鹿島戦に先発したFW西村拓真は「サッカーができることにまず感謝だし、本当に身近な人(宮市)が一瞬でああいうことになってしまて、自分自身も改めて考えさせられましたし、疲れたとは言っていられない」と、フルパワーで躍動。86分までピッチに立ち、チーム最長の約11.4kmを走破した。

 同じく日本代表に参加していたMF岩田智輝も「亮くんのために出し切ろうと思っていましたし、どんな形でもいいから絶対に勝ちたいと思っていたので、それが結果につながってよかった」とフル出場&今季初ゴールでマリノスの勝利に大きく貢献した。

●エウベルの一言が示したもの

 鹿島から決勝ゴールを奪ったブラジル人FWエウベルも、ポジション争いの相手である宮市を「仲間としてずっと一緒にやってきて、ミヤは人間的にもすごくいい選手。ここ最近ずっと調子が良かったので、日本代表に呼ばれたのも偶然ではなかった。彼がいい選手である上に努力してきたからこそ、ここまでやってこられたと思う」と称える。

 そして「チームメイトとしてすごく大事な仲間であるからこそ、ミヤの大怪我にはすごく心を痛めている。だからこそ今日の試合は彼のためにもしっかりいい結果を残して、勝利を捧げたかった」と力強く語った。

 多くの選手が宮市の怪我について話す中で、安心感を覚えたのはエウベルの「結果でこそ、ミヤがこれまでしてくれたことに応えることができる」という一言だった。

 大怪我をした選手を思って「〇〇のために」と団結するのはよくあること。しかし、それによって元々の「リーグ優勝する」「タイトルを獲得する」といったチームの目標にブレが生じたり、意識のすれ違いが起きたりしてもおかしくない。

 今後の戦いにおいて「宮市のために」という思いが先行して、目標達成へのアプローチや目の前の試合に対する向き合い方が変わっては元も子もない。エウベルが指摘したポイントを「目の前の試合に今まで通り全員で、全てをかけて準備して、戦って、行き着いた先がみんなの目指すところであれば、彼も必ず報われる気持ちになる」と、より解像度高く言語化してくれたのは、キャプテンの喜田だった。

「大事な仲間だから、どうしても何かしたくて、動きたくて、(特別仕様の)ユニフォームもそうですけど、少しでも彼のこれからの活力になるような言動、行動ができればと思っていました。亮くんからも『チームが必ずタイトルを獲るために、表だろうが裏だろうが全力を尽くす』と言ってくれた。

それこそが彼が示してきたもの。これだけたくさんの人たちから激励を受けて、愛されているのは普通じゃないと思います。もしかしたら彼自身も感じているかもしれないですけど、これだけたくさんの人に響く人間性だとか、彼自身が持っている魅力がそうさせている。みんながついているというのは忘れないでほしいというのは何度も伝えさせてもらいました」

●「長い道のり」に込められた意味

 試合後にベンチ前で組まれる恒例の円陣で、チームメイトに促されて挨拶をした宮市は声を震わせながら「こんなサプライズをしてくれるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです。何よりみんなが素晴らしいプレーを見せてくれていたのでそれに尽きると思います」と、チームの奮闘をねぎらった。

 そのうえで「本当にサポーターの皆さんも素晴らしい声援ありがとうございます。まだまだ長い道のりがありますけど、またみんなで頑張っていきましょう」と続けた。これがまさしく彼の人間性なのである。

「まだまだ長い道のりがありますけど」という言葉は、長く苦しいであろう自分のリハビリ生活を指しているのではない。その後に続く「またみんなで頑張っていきましょう」という一言によって、チームが進んでいく3年ぶりのリーグ優勝への道のりへの意気込みだったことがわかる。

 自分がプレーできなくてもチームに対してできることは全てやるという、宮市の意志には嘘も迷いも一切ない。心の底から湧き出る本心なのである。先の発言にも常にチーム第一で取り組む彼らしい姿勢が色濃く表れていた。

 その思いを受け取り、「亮くんのような選手とやれることが喜びでしかなくて。ああいう状況で、ああいうことを言えるのは普通じゃないと思うんです。やはりそういう仲間がいることをみんなが幸せに思わなければいけない。勝っていくチーム、本当の意味で強いチームというのは、彼のような人がいるチームだと思います」と語った喜田は、宮市に「必ず最後にシャーレを渡す」と宣言した。

●「必ず最後にシャーレを渡すと、彼に誓いたい」

「僕らも泣きたくなるくらい、本当に悔しくて、悲しくて、ここ数日は本当に感情を揺さぶられる時間を過ごしてきて……。亮くんがチームにもたらしてきたもの、人間性、姿勢、そういうものがなくなるわけではない。

最後に一番上に自分たちが連れていって、必ず彼にシャーレを渡すという僕らの使命ができた。自分たちには勝たなければいけない理由がある。大切な仲間がこういう状況になって、彼にしかわからない気持ちもあるとは思うんですけど、それでも僕らがついていることを絶対に忘れないでほしい。

これからもチームのためにやってくれると言っていましたし、これまで彼が貢献してくれたこと、このチームの一員だということは何も変わらないので、最後は一番上に連れていって、マリノスが優勝した時に彼の名前が残っているのが一番報われることだと思います。

彼の思いを持って戦い続ける。今日だけで忘れることは絶対にない。これから僕らには想像がつかないような日々が待っていると思うんですけど、辛くなった時は僕らがついていることを思い出して、頼ってほしい。彼のモチベーションや希望になるような姿を見せ続けるというのは、チームメイトとして、仲間としてできることだと思うので、絶対に1人にしないというのは約束したい。必ず最後にシャーレを渡すと、彼に誓いたいと思います」

 スタンドには「トリコロールの宮市亮 再びピッチで輝け 待ってるぞ」と書かれた横断幕が掲げられていた。ファン・サポーターも、マリノスファミリー全員が宮市の完全復活を待ち続ける。

 一度つないだ手は絶対に離さない。リーグ優勝という明確なゴールを目指すマリノスは、宮市の思いをエネルギーにしながらチーム一丸となって頂点への航海を続ける。最後に全員でシャーレを掲げるために。

(取材・文:舩木渉)