●巧みだったレアル・ソシエダのゲーム運び

 UEFAヨーロッパリーグ(EL)グループリーグ第1節、マンチェスター・ユナイテッド対レアル・ソシエダが現地時間8日に行われ、0-1でアウェイチームが勝利した。日本代表MF久保建英はスタメン出場。前半は苦労したが、後半は水を得た魚のように躍動し勝利の立役者となっている。そのキッカケは、どこにあったのだろうか。(文:小澤祐作)

 試合終了の笛が鳴り響くと、イマノル・アルグアシル監督は両手でガッツポーズをし、雄叫びをあげた。敵地でマンチェスター・ユナイテッドを破った事実は、レアル・ソシエダの今後の大きな自信に繋がっていくことだろう。

 オールド・トラフォードに乗り込んだソシエダは、終わってみれば見事な試合運びを見せたと言える。前半はユナイテッドに押し込まれる時間の方が多かったが、だからといってボールを奪った後は攻め急がず、いつも通りポゼッションを大事に、ゆっくりと時間を進めた。その結果として、ユナイテッドを自分たちのペースに引きずり込むことに成功。先週末行われたアーセナル戦のような、ハイテンポな展開には持ち込ませなかった。恐らく、攻守が目まぐるしく入れ替わるような内容であれば、ソシエダは勝ち点を拾えていなかったかもしれない。

 スコアレスで最初の45分間を乗り切ると、後半はユナイテッドの選手交代による動きを見極めてフォーメーションをチェンジ。それが功を奏して相手ゴール前に侵入する機会が増え、59分に微妙な判定ではあったがPKを獲得。これをブライス・メンデスがしっかりと決めてリードを奪った。

 残りの時間はユナイテッドの猛攻を浴びたが、うまく選手を入れ替えながら耐えきり、1-0でゲームを締めることに成功した。「今、私より幸せな人はほとんどいない」とアルグアシル監督がコメントするのも納得いく90分間だったと言っていいだろう。

 そんなユナイテッド戦で勝利の立役者となったのは、PKを決めたメンデスではなく、日本代表MF久保建英と言っていい。これは贔屓目でもなんでもなく、この試合をチェックしたほとんどの人がそう評価するだろう。

●久保建英は全て素晴らしかったわけではない

 先日のアトレティコ・マドリード戦でベンチスタートだった背番号14は、ユナイテッド戦で先発に復帰。ポジションは2トップの一角だった。

 先ほど「勝利の立役者」と評した久保だが、アンデル・バレネチェアと交代するまでの78分間、全てが素晴らしかったわけではない。とくに前半は、チームがボールこそ保持できるものの、なかなか前にパスを差し込めなかったこともあり、前線で存在感を発揮できていなかった。

 久保は試合開始2分、味方のサポートがない中ドリブルで左サイドを上がり、敵陣深くまで侵入した。これが、同選手の前半における最大のハイライトだったと言っていい。データサイト『Who Scored』によると、久保の前半のタッチ数は17回でチームワースト3位。当然シュートは0本で、パスも8本に留まっている。これだけでも、いかに前半の久保が苦労していたかわかるはずだ。

 しかし、後半はそのパフォーマンスが一変。きっかけはアルグアシル監督による修正だった。

●マンチェスター・ユナイテッドを撃破した始まった「久保建英劇場」

 後半も久保は2トップの一角として出場。この時点で変わったのは、相方がウマル・サディクからアレクサンダー・セルロートになっただけだった。

 しかし、50分を経過したあたりで、アルグアシル監督は更なる変化をつけた。フォーメーションをそれまでのダイヤモンド型4-4-2から4-3-3に移したのである。

 この変更は4-2-3-1のユナイテッドとの嚙み合わせを考えて、というだけでないだろう。ユナイテッドは後半、本職センターバックのヴィクトル・リンデロフを右サイドバックに回し、リサンドロ・マルティネスをCBに入れていたため、ソシエダからするとサイドで質的優位を作る、そして194cmのセルロートを175cmのマルティネスに当て優位性を生み出すという狙いもあったはずだ。

 いずれにしても、このフォーメーションチェンジはプラスに働いた。

 久保はまさに水を得た魚のようで、対峙したリンデロフを上回った。54分、56分と立て続けに高質なクロスを上げ、小柄なマルティネスとのマッチアップを狙っていたセルロートにチャンスを届けた。さらに56分には右サイドでボールを持つと、縦に運びフレッジを振り切る。そしてマイナス方向のダビド・シルバにパスを出し、チャンスを作っている。結果、D・シルバのシュートがマルティネスの手に当たったとされ、ソシエダにPKが与えられた。

 久保はこれだけでは終わらない。64分にはペナルティーエリア左角付近から左足で強烈なシュートを放ち、GKダビド・デ・ヘアを脅かしている。4-3-3に変更されてからの約15分間は、まさに「久保劇場」であった。

 前半ユナイテッドに押されながら、後半に変化をつけ勝利を手繰り寄せたアルグアシル監督の采配は見事。もちろん、その変化に対応し強敵を敗北に追いやったピッチ上の選手たちも高く評価されるべきである。

 とくに左サイドで躍動し、ソシエダを“動かした”久保はまた一つ株を上げたはず。選手自身も、確かな手応えを掴んだのではないか。次の試合(ヘタフェ戦)はすぐにやってくる。ユナイテッド戦で得た自信を力に変え、ゴールやアシストという結果を残せるか注目だ。

(文:小澤祐作)