ピッチに立ってボールを持つだけでスタジアムの雰囲気を一変させられる選手というのは、世界広しといえど数少ない。今、サッカー日本代表のMF三笘薫がその1人になろうとしている。

 23日に行われたカタールワールドカップのグループステージ初戦、三笘は後半途中から出場した。そして変幻自在かつ献身的なプレーでドイツ代表のディフェンス陣を翻弄。スタジアムを埋めた観衆も、ピッチ上の選手たちもそのプレーに釘づけになった。

 1点ビハインドで迎えた75分、左サイドでボールを受けた三笘はドリブルで加速しペナルティエリア左角まで進出する。このプレーが、逆転勝利への狼煙となるMF堂安律の同点ゴールにつながった。

「薫があそこでボールを持ったら何か起こしてくれるのは感じていたし、本当に最高のタイミングでパスをくれた」と話すのは、MF南野拓実だ。三笘の内側を追い越した背番号10の足もとには完璧なタイミングでスルーパスが届き、折り返しをGKマヌエル・ノイアーが弾いたところに堂安が詰めてゴールネットを揺らした。

 今季からプレミアリーグでプレーし、世界的な知名度も上がっている。「ミトマ」の名前は海外の記者の口からも度々聞かれるようになり、スタジアムにも「ボールを持ったら何かやってくれそう」という共通認識が生まれているように感じる。

 そうして相手から警戒されることで、縦に突破するドリブルだけでなく、ボールを前に運ぶドリブルもより大きな効果を発揮するようになった。相手DFが一発でかわされるのを怖がって三笘と1対1になった際に間合いを空けるため、ボールを持つだけで味方が動く時間を作れるのである。

 ドイツ代表戦でも、パスを受けて縦に仕掛けると見せかけてゆっくり前に運ぶだけのプレーと、一気に加速して突破を試みるプレーをうまく使い分けてディフェンスを翻弄した。

「ボールを持つことで相手の視線も集中しますし、その分、周りの動き出しやすさも作れたとは思うので良かったと思います。時間を作ることで、前半から出ている仲間も休めるので。しっかりと準備する意味でも意図的にプレーしていました」

 三笘は自らのプレー判断について、このように語った。縦への仕掛け一辺倒だった1年前の東京五輪当時と比べても、見違えるほどの成長ぶりだ。ベルギーのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズで左ウィングバックでのプレーも経験し、攻守にわたる献身性や、ボールを持った時の状況判断が飛躍的に向上した。

「ウイングバックに入った時に、もちろんユニオンでのイメージを持ってやっていたところもあります。しっかり後ろに戻って、前向きの守備をして、スイッチを作るというのはやっていました。最初の位置が後ろになる分、前への出力はうまく出せたと思ってます」

 低い位置から助走をつけるようにスピードを上げ、崩しの局面でトップスピードに到達するドリブルで、長い距離を持ち上がる様は圧巻。いまや世界から恐れられるウィングへと変貌を遂げようとしている。日本代表のことを徹底的に研究していたであろうドイツ代表も、当然ながら三笘に最大限の警戒をもって対峙した。

「どこまで警戒しているかはわからないですけど、僕のことを指差して指示を出しているのは見ました。それだけ途中からアクセントを加えられる選手がいるとは理解されていたと思います。意識されるだけでも、相手が考えることが増えるので、それをうまく利用しながら(ドイツ代表を)メンタル的にも追い込んでいったと思います」

 三笘は「自分のドリブルだったり、剥がすところは局面を変えやすいですし、サポーターの皆さんの声援が沸きやすいところ。それを力にしようと常に思っています」とも語る。

 27日のコスタリカ代表戦でも、背番号9が相手守備陣を切り崩すための鍵になるかもしれない。初戦のスペイン代表戦を0-7で落としている相手が捨て身で攻めに出てくれば、その背後に空いたスペースを使う。もしさらなる失点を恐れて守備を固めてくれば、真正面からドリブルで崩せばいい。三笘は様々な状況を想定した準備を進めている。

「チームとしてはボランチのところが空くと思っているので、そこからの背後への動き出しや、サイドでの1対1で勝てるかどうかは重要になってきます。どこまでドン引きされるかわからないですけど、相手も(攻撃に)出てくるシチュエーションは考えやすいので、そこは有利かなとは思っています。後半はスペースも出てくると思いますし、前半もどれだけボールをチェイスしてくるかをチームとして考えながら試合を進めていきたいと思います」

 三笘のドリブルが決勝トーナメントへの突破口を開くか。日本代表で異彩を放つドリブラーがワールドカップの舞台で世界を沸かせる姿を楽しみにしたい。

(取材・文:舩木渉)