●前節6ゴールのイングランド代表がまさかの“無得点”

 FIFAワールドカップカタール2022、グループB第2節イングランド代表対アメリカ合衆国代表が現地時間25日に行われ、0-0のスコアレスドローに終わっている。イングランドは前節イラン代表戦で6ゴールを奪う最高のスタートを切ることに成功したが、この試合では無得点、そしてチャンスもあまり作れないなど苦戦を強いられた。その理由とは?
(文:安洋一郎)

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 勝つのはフットボールか、それともサッカーか。グループB第2節イングランド代表対アメリカ代表の一戦は、同じ英語という言語でも競技に対する呼称が異なる国同士の対戦という意味でも注目を集めた。

 グループ初戦イラン代表戦で大量6ゴールを奪ったイングランド代表は、選手個人の能力の高さを改めて証明した。しかし、今節のアメリカ代表戦ではまさかのノーゴールに終わり、シュート本数もアメリカ代表を下回っている。

 それも決定機を逃したから無得点に終わったのではない。「シュートチャンスが得点に結びつく見込み」の指標であるゴール期待値も前節は「2.24点」あったのに対し、今節はわずか「0.48点」とチャンスそのものを作ることに苦労した(ゴール期待値は『The xG Philosophy』を参照)。

 なぜイングランド代表はアメリカ代表相手にノーゴール、そしてチャンスそのものを作ることができなかったのだろうか。

●大勝を収めたイラン代表戦との決定的な違い

 まずは多くのゴールが生まれた前節イラン代表戦を振り返る。イラン代表はイングランド代表との試合で、予選ほぼ全試合に出場していた守備的な3選手をスタメンから外し、カルロス・ケイロス体制102試合目にして初の5バックで戦った。イランからすると、より勝利の可能性が高い第2戦、第3戦にベストメンバーで戦うための決断だったと考えられる。

 ぶっつけ本番の5バックだったため、特に前からプレスをハメる場面では選手個人が悩みながら行っていた。仮に前線の選手がプレスをかけたとしても、中盤やSBが連動してスライドすることがなかったため、結果的に中盤が間延びする現象が発生し、イングランド代表はその隙を突く形で好き放題攻撃をすることができていた。

 一方、今節の相手であるアメリカ代表は組織が整ったチームだ。試合序盤こそハリー・マグワイアが縦パスを前線に当てて攻撃の起点となっていたが、前半途中にそれまではプレスに行っていなかったクリスティアン・プリシッチもディフェンスラインにプレッシャーをかけたことで、CBが縦パスを出しづらい状況を作り出した。

 相手に合わせて前半途中に修正をすることができるアメリカ代表は、クラブのような完成度の高さを誇るチームである。逆に試合の中盤以降はアメリカ代表が主導権を握って、イングランド代表相手にカウンターからチャンスを作ることができていた。

●イングランド代表がチャンスを作れなかった理由

 後半の最初のシュートは87分のマーカス・ラッシュフォードのシュートと、試合が進むに連れてイングランド代表はアメリカ代表相手に全く好機を作ることができなくなった。

 イングランド代表の攻撃が機能不全となったのは、アメリカ代表MFタイラー・アダムスとユヌス・ムサのダブルボランチの影響が大きい。右のサイドハーフで出場したウェストン・マッケニーも含めたこの3選手は、この試合でピッチを駆け回り、イングランド代表の選手相手にも対人戦でかなりの強さを発揮した。

 ボール奪取能力の高い彼らが中盤に君臨することで、そこからアメリカ代表はカウンターの起点を作ることができていた。そうした展開になると、前節イラン代表戦で高い位置でボールを受けてイングランド代表の攻撃に厚みをもたらしていたボランチのジュード・ベリンガムが攻撃を自重せざるを得ない展開となった。その結果、サポートが少なく、前線の選手が孤立することが増えていた。

 それでも68分に投入されたジャック・グリーリッシュが入ってからは流れが変わった。同選手が前線で周りの選手に動く時間を与えるタメを作ったことで、投入以前と比較すると攻撃の時間や厚みは増した。しかし、それでもスコアを動かすほど攻撃が活性化されたとは言い難く、無得点で試合を終えた。

 6月のUEFAネーションズリーグで、アメリカ代表以上に組織が整っているハンガリー代表に0-4の完敗を喫するなど、今節の対戦相手であるアメリカ代表のように組織的なプレスを行うチームをイングランド代表は苦手としている。こうした対戦相手には得意のセットプレーでしかチャンスを作りだせないのが今のイングランド代表の課題であり、ガレス・サウスゲート監督はプレスを掻い潜る手段を今大会終了までに見つけることができなければ、目標である優勝を成し遂げることは難しいかもしれない。

(文:安洋一郎)