●一進一退の攻防が続いた世界最高峰の一戦

FIFAワールドカップカタール2022、グループE第2節スペイン代表対ドイツ代表が現地時間27日に行われ、1-1のドローに終わっている。ワールドカップ決勝のカードでもおかしくないこの一戦は、1秒たりとも見逃せない激戦となった。その中で両指揮官の采配が試合内容に大きな影響を及ぼしていた。(文:安洋一郎)

 「引き分けは残念だが、正直に言えば負けていたかもしれない。この結果は妥当だと思う」

スペイン代表のルイス・エンリケ監督が試合をこのように振り返った通り、強豪同士の一戦は一進一退の攻防だった。

 スペイン代表は狙い通り、自分たちでボールを握り、仮に失ったとしても持ち前の鋭いカウンタープレスでボールを奪い返すサッカーができていた。これは63%というポゼッション率にも表れているが、シュート本数を見ると、スペイン代表が7本(枠内3本)でドイツ代表が11本(枠内4本)と、後者がフィニッシュの局面においては優勢だった。

 結果的に1-1で試合終了となったこの一戦は、今大会で最も目まぐるしく流れが変わった試合だったと言っても良いだろう。両チームともにその“瞬間”の火力は凄まじく、世界トップレベルの攻防が続いた。

 では、どのようにお互いが何をきっかけにしてその“瞬間“の主導権を握ったのだろうか。

●前半から目まぐるしい展開に

 試合の入りが良かったのはスペイン代表だった。コスタリカ代表戦での衝撃の7-0の勢いそのままにドイツ代表を圧倒。特に切り替えのスピードの差は両軍に大きな差があり、ドイツ代表にカウンターを打たせる前にボールを回収して、自分たちがボールを握った。

 ドイツ代表からすると苦しい展開が続いたが、その状況でも希望の光が見えたのがセットプレーだった。ヨシュア・キミッヒという優秀なキッカーにニクラス・ジューレ、アントニオ・リュディガーというヘディングに強い選手を擁するドイツ代表は、足元を得意とするスペイン代表に対して“高さ”でプレッシャーをかけた。

 40分にはそのセットプレーで、キミッヒからリュディガーへの完璧なクロスが渡りネットを揺らすも惜しくも、これはオフサイドの判定に。ノーゴールとなったが、このプレーで自信を深めたドイツ代表は前半終了まで自分たちが主導権を握ることに成功した。

 そして後半開始からは、ハーフタイムにハンジ・フリック監督の指示があったのか、前半以上に高い位置からプレッシャーをかけて強度を高めた。イルカイ・ギュンドアンをセルヒオ・ブスケツに当てたマンマーク戦術はピタリとハマり、ドイツ代表のペースで試合が進んだ。

 この悪い流れを変えるべく、スペイン代表のルイス・エンリケ監督が動いた。

●悪い流れを変えたルイス・エンリケ監督の采配

 後半開始から10分経たずしてエースのアルバロ・モラタを投入した。

 かつては決定機逸から批判を浴びることの多かったモラタだが、現在のスペイン代表では誰もが認める大エースである。特に直近では点が欲しいタイミングで必ずゴールを奪ってくれる頼りがいしかない選手へと成長している。

 そして投入からわずか8分後の62分、ルイス・エンリケ監督のこの采配がピタリとハマる。左SBのジョルディ・アルバがボールを持つと、モラタがドイツ代表DFニクラス・ジューレの背後から一瞬の加速で前に出た。そしてアルバのグラウンダーのクロスを右足のアウトサイドで合わせるという難易度の高いシュートで合わせて、守護神マヌエル・ノイアーの壁を破った。

 選手と喜びを分かち合ったモラタは自陣に戻る前に、そしてスタンドのスペインサポーターに向かって大きなガッツポーズをした。そこにはシュートを外し、自信なさげにしていたモラタはもういなかった。

 このエースの得点でスペイン代表は決勝トーナメント進出の確率が大きく高まる貴重な先制点を手にした。しかし、後がないドイツ代表がこのまま終わるはずはなかった。

●失いかけていたゲルマン魂に火をつけたフリック采配

 スペイン代表に先制を許したドイツ代表のハンジ・フリック監督は、70分にレロイ・ザネ、ニクラス・フュルクルク、ルーカス・クロスターマンをピッチへと送り出した。この3枚替えが、失いかけていた選手たちのゲルマン魂に火をつけた。

 怪我で日本代表との初戦を欠場していたザネはスピードとテクニック溢れるドリブルで異彩を放ち、スペイン代表の守備陣を混乱に陥れた。このザネとジャマル・ムシアラのドリブルがスペイン代表の守備陣にボディブローのように効いてきた80分過ぎにドイツ代表の”秘密兵器”が結果を残す。

 フュルクルクはまさにドイツ代表が求めていたタイプのストライカーだった。9月までのハンジ・フリック監督率いるチームには前線に高さがない上に、試合終盤に投入して怖さを与えられる選手がいなかった。こうした状況で、ブンデスリーガで得点を量産していたフュルクルクに声がかかり、ワールドカップという大舞台で初招集を受けたのだった。

 この188cmの大型FWは、ロングボールが蹴られた場面では“高さ“を活かしてスペイン代表DF相手に空中戦で優位に立つなど投入直後から流れを変える”劇薬”として機能し、迎えた83分に豪快な右足のシュートでネットを揺らした。

 この得点でドイツ代表はさらに勢いがついたが、そこはスペイン代表がシャットアウト。流れが目まぐるしく変わったこの一戦は、両監督が流れを変える采配を的中させたことで1-1の引き分けに終わった。

 グループステージ第2節が6グループ終わった時点で決勝トーナメント進出を決めているのはフランス代表のみと、接戦が続く今大会らしい好ゲームとなった。

(文:安洋一郎)