●湘南ベルマーレに加わった194cmのGK
湘南ベルマーレの新体制発表会が14日に平塚市のひらしん平塚文化芸術ホールで行われた。注目を集めた新加入選手の1人が、昨年のカタールワールドカップ韓国代表メンバーにも選ばれたソン・ボムグン。韓国の強豪・全北現代の正GKを務めた25歳は、なぜJリーグ行きを決めたのだろうか。(取材・文:加藤健一)
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湘南ベルマーレの新体制発表会の前半に今季の新加入選手5人が登壇した際、最前列左にひときわ大きな男が立っていた。向かって右隣りに立つ山下敬大も身長184cmと大柄だが、それよりも一回り大きい。
イベント後の囲み取材で近くに立つと、その大きさはさらに際立つ。「小さいときはあまり大きくなかったんですけど、高校、大学に上がって大きくなりました」というソン・ボムグンの身長は194cm。GKを始めた小学6年生のときにはすでに168cmあったという。それでも当時の同年代のGKと比較すると、それほど大きいというわけでもないそうだ。
湘南ベルマーレのゴールマウスは谷晃生が昨季までの3年間守ってきたが、保有元のガンバ大阪へ復帰することとなった。湘南にとっては大きな痛手だが、完全移籍で加入したソン・ボムグンは正GK候補として大きな期待を背負っている。
Jリーグではキム・ジンヒョン、チョン・ソンリョンら韓国人GKが活躍してきた。ソン・ボムグンは「本人の努力が活躍の一番の理由」と前置きしたうえで、「フィジカル面の有利」が韓国人GKにはあるという。
「(自分は)フィジカルの強さが自分の売りで、空中戦も得意。その中でも落ち着いたプレーもできる。攻撃的なプレー、ビルドアップの質も特徴なので、それを出していきたい」
●韓国代表GKが湘南ベルマーレ移籍を決めた理由
25歳ながら全北現代では公式戦201試合出場というキャリアを持つ。2018年にはアジア競技大会でU-23韓国代表を優勝に導き、東京五輪でも正GKを務めて決勝トーナメント進出に貢献している。昨年7月のEAFF E-1サッカー選手権で韓国代表デビューを果たし、カタールワールドカップメンバーにも選出された。今後の韓国代表を背負っていくであろう期待のゴールキーパーである。
全北現代では4度のリーグ優勝を経験し、AFCチャンピオンズリーグでの経験も豊富な25歳のGKは、Jリーグで上位進出をこれから目指していく湘南ベルマーレに移籍した。客観的に見ればステップアップとは呼べない移籍だが、そこには本人なりの考えがあるようだ。
湘南にとってGKは重要な補強ポイントだった。期限付き移籍の谷が抜けることは想定の範囲内で、クラブはソン・ボムグンを獲得するために準備を進めていた。ソン・ボムグン自身が「湘南のプレースタイルと合っている」と感じたことも大きく、ガンバ大阪でプレーするクォン・ギョンウォンからの話も移籍という決断に背中を押すことになった。
また、プレーヤーとして新たなチャレンジをしたいという気持ちも強い。
「全北は優勝争いをする上位のチームですが、そこでの成長、刺激があまりなかったので、日本に来て(新たな)挑戦をしたいという気持ちが生まれました。湘南ベルマーレは(これまでは)上位争いに食い込めなかったですが、自分が活躍して上位争いできるチームにしたい」
●湘南ベルマーレにマッチする自身の哲学
10分強のやりとりを通じて、真摯に受け答えをする姿勢が印象に残った。過去に何度かAFCチャンピオンズリーグで前後半の開始前に相手サポーターのゴール裏にも頭を下げるというのが話題になったこともある。
その理由について「自分のチームか相手のチームか関係なしに、見に来てくれる人、サッカーをリスペクトする人に自分もリスペクトしないといけない」と話す。また、「ファンに対する感謝の気持ちも湘南にマッチしている」と感じている。
直近の課題は言語の壁を乗り越えることだ。新体制発表会ではサポーターに向けて日本語で自己紹介を行ったが、同胞のキム・スンギュやチョン・ソンリョンのように流暢に日本語を話すのは決して簡単ではないはずだ。
現時点では独学で日本語を勉強していて、「来年の新体制発表では日本語で話したい」と意気込む。「誰か先生を呼ぶとか家庭教師をつけるという考えもある」と言い、「日本語を教えてくれる講師でいい人がいれば連絡してください」とリクエストを出した。
申し分ない実績と将来性、そして謙虚なパーソナリティを持つソン・ボムグンが、Jリーグの舞台でどのような活躍を見せるのか。1か月後に迫るJリーグ開幕が待ち遠しい。
(取材・文:加藤健一)