今回紹介するモデルは、性能の向上により、車好き、特にスバル・ファンであればヨダレが出るほどの名車となったWRX STI。いや、誰でも喉から手が出るぐらい欲しいスペックを備えた車と言えるだろう。

世界ラリー選手権で培ったフットワークがさらにパワーアップしているからだ。どのようにかって? まずはブレーキから話そう。

自動車通にとって、ブレンボ製ブレーキというのは、腕時計マニアにとって、あのスティーブ・マックイーンが愛したタグホイヤー製モナコのようなもの。みんなが欲しがる品質抜群の最高スペックのもの、ということだ。

僕は先日、伊勢サイクルスポーツセンターで現行モデルとアップデートされた仕様の比較テストを行った。そして、その結果に、仰天した。マイナーチェンジとはいえ、思い切り進化していたからだ。

STIに搭載された最高スペックの6ピストン・ブレンボー製ブレーキにより、これまでの4ピストン仕様と比較すると制動力が飛躍的に向上。異次元のストッピングパワーを備えたことで、何よりも時速150km/hでコーナーに差し掛かるときに、レイト・ブレーキング、つまり信じられないほど遅いタイミングでブレーキを踏むことが可能になった。タイヤにかなりの負担がかかっているときの安定性と振動のなさにも驚く。

新しいブレーキは断然素早く、ノーズダイブすることなく車体をフラットな姿勢に保ってくれる。どれも予想したとおりだ。しかも、高速で2周し、さらに厳しくブレーキをテストした後でも、ブレーキ・フェード(劣化)まったくなかった。これまでの4ポットなら、クイックコーナーを数回走ると、残念ながら効き目が減ってスポンジーな感覚になっていたのだが。

この新ブレーキを例えるなら、陸上短距離界の王者ウサイン・ボルトに、絶対に滑らず、200mターンを素早く回れ、すぐに止まれるナイキのシューズを履かせたような感じだ。

6ピストン・ブレーキ仕様を買うと、カッコよくなったWRX STiも付いてくる…と言うのは冗談だけど、実際ブレーキこそが今回のマイナーチェンジの最重要ポイント。「このブレーキが付いて400万円なんて、地球上で一番お買い得なクルマですよ!」と同社のエンジニアは苦笑していたが、これこそが、究極的にコストパフォーマンスの高いクルマを求めるファンを刺激し、ブランドに再び情熱を呼び覚すために求められていたことだ。

この力強い制動力に加え、シャープなハンドリングを備えたファン待望のスバルのフラッグシップ・スポーツモデルは、デザインも一新。これまでSTIのトレードマークだったゴールド色のホイールと4ピストンの赤いブレーキの代わりに、19インチの黒いホイールに眩しい黄色の6ピストン・ブレンボー・キャリパーが採用され、より大きめのドリルド・ローターも搭載している。

実を言えば、今回のブレーキ一新は特にアメリカのユーザーから指摘されていた制動力不足とブレーキ・フェードを解消するための対応だ。「一部のオーナーから『走行会で全開で走ると、ブレーキが数周しかもたない』と言われていたが、6ピストン採用で解決した」と言う開発エンジニアの一人は、 「これで、30分の走行会をしても大丈夫。ブレーキ・フェードもないはずです。踏んでも踏んでも効き目は衰えない」と、胸を張った。

一方、パワーとトルクに関して変更がないのは、スバルが現行STIのエンジン・スペックに自信を持っていることの表れだ。正直なところ、テストした僕もそれで充分だと考えている。セダンは現行と同じく2Lターボ付きボクサーエンジンを搭載し、6速M/Tで304hpで422Nmのトルクを発揮。3500rpmをキープしている限り、ターボラグはほとんど感じられず、いつでも好きなときに爆発的な加速が可能だ。

今回のマイナーチェンジでもう1つ各段にアップグレードされた点は、マルチモードのドライバー・コントロール・センター・ディフの4WDシステムだ。完全な電子制御となることで、ドライバーのハンドル操作に対するクルマの反応は何倍も速くなった。これによってトルクは今までよりも素早く前後に配分され、コーナリング性能を向上させている。

だから、これまで以上にコーナーにシャープにターンインができ、狙ったラインを問題なく保つことができる。また、コーナリング性能の向上により、コーナーの途中でちょっと早めにアクセルが踏めるようになり、タイヤの横方向への滑りも減り、全体的にトラクションもよくなった。

この日、STIの試乗を終えると、僕は思わず相好を崩していた。より大きなブレンボ製ブレーキと改良されたセンターデフこそ、STIの潜在能力を発揮するのに必要だったのだ。もうこれでアメリカ人たちも文句はないだろう。

ピーター ライオン