人工知能(AI)の活用が進むと見られている分野のひとつに「教育」がある。人工知能が人間の学習を支援し、その能力を高めてくれる──そんな未来が、着々と近づきつつある。ここでは、世界各国で始まるその一幕を紹介したい。

ロンドンで数学を教えるAI教師

英メディア「ガーディアン」(2016年12月26日付)が報じたところによると、ロンドンにあるペイクマン小学校では、人工知能が”教師”としてすでに活躍中だ。AI教師は、同校の学生たちに数学を教える役割を果たしているが、その成果に注目が集まっており、2017年には正規カリキュラムへの採用も検討されているという。

同小学校で導入が始まっているAI教師は、インド企業「Third Space Learning」と、英「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン」(以下、UCL)が共同で開発したもの。約10万件分のチュートリアルデータが蓄積されており、各学生と対話する形で最適化された個人指導を提供する。

なおここで言うチュートリアルデータは、実際に人間の教師と学生の学習過程を通じて収集されたものとなる。研究者らは300人の個人指導教師を採用後、学生と1対1で学習プロセスを経るようにした。そしてその成功事例を人工知能に学習させ、実際に教育現場に投入できるレベルにまでブラッシュアップさせてきた。

同社のTom Hooper CEOは、チュートリアル情報が増えるにつれその能力も向上し続けていると、AI教師の研究成果について言及している。学習を指導する方法はマシンラーニングで生成されるが、学生に関するデータが増えることで、人工知能の指導能力が現在も継続的に高まっているのだそうだ。

もちろん、AI教師の開発が一朝一夕で進んできたわけではなく、その過程にはさまざまな試行錯誤があった。例えば、AI教師が教える内容が、学生の理解範囲を先行してしまうという事例だ。つまり、学生の能力や状況を読み間違えることで、最適な授業を提供できないという課題があったのだ。しかし、学生個人の傾向、思考過程、能力などをより綿密に分析することで、徐々に適切な指導が可能な段階に至っているという。

AI教師のメリットは”苦手意識”の克服

なお、開発に参加するUCLのRose Luckin教授は、人と人工知能が学習過程で自然な調和を成すことを目標として掲げながら、これまでの研究結果では、AI教師の役割は驚くほど高いと、その成果を自己評価している。

Luckin教授らがAI教師に期待しているのは、数学に苦手意識を感じている学生の意識を変化させることだ。実際、テスト学習に参加した学生のひとりは、これまでの数学に恐怖心を抱いていたが、AI教師による学習後にその恐怖が消えた、と感想を述べている。

なお英国では、ペイクマン小学校以外の学校でもAI教師に対する関心が高まっており、今後、AIが学生たちの教師となるシチュエーションは、増えていくと見られている。

「AIロボットで学習意欲を高める」

一方、スペインの「国立遠隔教育大学」に在籍する研究者らは、AIを搭載したロボットで子供の学習意欲を高める試みに挑戦中だ。センサーなどが搭載されたロボットで学習中の子供の心理状態を検出し、それを人工知能で分析。学習効率の向上に役立てようとしている。

研究チームはまず、学習を行う人間、なかでも幼い子供の教育効率は心理状態に影響されやすいという研究結果を前提に、主に3つの心理状態をAIロボットで認識・分析することに重点を置いてきた。その心理状態は、「集中している」「気が散っている」「受身」の3つだ。

研究チームが開発したAIロボット「MONICA」は現段階で、子供がキーボードの打つ仕草や口の動きを読み取り、その心理状態をデータとして分析・把握。それらデータは最適なフィードバックを選択するアルゴリズムへとリンクされ、最終的にAIロボットが発話やジェスチャー、つまりアウトプットを通じて、対象に学習への興味や動機付けを促す仕組みとなっている。

なお、心理状態が異なる小学生ボランティア2名を対象にこのAIロボットを使って行った実験では、それぞれが学習を楽しめる状況を作り出すことに成功したという。ロボットと接している最中、子供たちがストレスを感じている様子はなく、人間の教師から多くのことを学んでいるときのような心理状態であることが確認されている。

教える側にもメリットの可能性

今後、教育現場に高度な人工知能が普及すれば、そのメリットは多岐にわたるだろう。やむ得ぬ理由で不登校や学習放棄の状態となり、学習にディスアドバンテージを抱えてしまった人々にとっては力強い”支援者”になるはずだ。また教わる側だけではなく、教える側=教師にも恩恵は及ぶ可能性がある。

日本国内の公立小中学校の教員の1日当たりの勤務時間は、約11時間(2017年/文部科学省)という統計が発表されているが、これは10年前より30〜40分ほど増えたという。主な理由は授業数の増加だ。多くの学校では、「過労死ライン(労災認定基準で使われる時間外労働)」を上回る勤務が避けられず、身体的負担からうつ病を発症し、教育現場を離れる教師も後を絶たない。AIによる効率的な学習方法の発見が可能となれば、そうした教員たちの負担も減らすことができるようになるかもしれない。

人間の能力を啓発するため、また個人化された教育の実現や、教育業界が抱える課題解決という文脈で見たとき、人工知能には多くの可能性が秘められている。

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AI Lab 編集部