アガサ・クリスティー原作の「オリエント急行殺人事件」。これまでもたびたび映像化されてきた傑作ミステリーだが、今回は名優、ケネス・ブラナー(56)の監督・主演でスクリーンに戻ってきた。新たなポワロ像をつくりあげたケネスを直撃した。

 物語は言うまでもないが、雪で立ち往生したオリエント急行でアメリカ人富豪が殺された。外部からの出入りは難しい。乗客は12人。果たして犯人はこのなかにいるのか。名探偵ポワロがその謎に挑むというもの。

 1974年のシドニー・ルメット監督版が印象深い作品だが、儀式的な要素が強かったルメット版に比べて、ケネス版では、出演者がより感情をむき出しにしている。

 「物語の核は、子供が亡くなり、そして家族が崩壊したことでの喪失感が生んだ“リベンジ”だが、それゆえの苦しみや悲しみがある。だからこそ物語が胸に迫ってくるんだ。ルメット版は宗教的だが、僕の作品はきつねが獲物に飛びつくような汚さなど、泥にまみれた部分を意識したよ」

 名探偵ポワロも、ルメット版のアルバート・フィニーのイメージが強いが、ケネスもその独特のひげなど、新たなポワロ像を生み出した。

 「ひげはチャプリンのようなひげから段々大きくなっていったんだ。原作には『英国一威厳があり、巨大なひげ』とあるからね。19世紀の軍人の両端をひねり挙げたハンドルバーひげを参考にした。原作では彼が軍人だったことも意識した。動きが速いのも今までとは違うポワロだろ」

 ストーリーはおなじみだが、ラストの謎解きには独自の演出が施されている。キーワードは「最後の晩餐」か。

 「ミラノの教会でみた壁画に感銘を受けたんだ。この作品も“審判を下す”という意味では、聖書的なところがある。そういう意味でも、このシチュエーションを生かしたかった。原作の結末はみんな知っているけど、この作品は違うんだということを示すためにも必要だった」

 ミステリーファン注目の作品だが、「原作を読んだ人も、読んでいない人も楽しめるように、心が動くような感情を訴える作品に仕上げたんだ。ぜひみてほしいよ」。(福田哲士)