離れて暮らす親の家に行き、とんでもないものを見つけてしまった……。父の葬儀でも入らせなかった母の部屋に、足を踏み入れた洋子さん(仮名)が見たものは。(「読者体験手記」より)

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普段着や手続きの書類はどこにある?

「私の部屋には入らんといて!」。母の声が父の病室の空気を凍らせた。

2年前、90歳を超えた父はインフルエンザに感染し、2週間あまりの入院の末、あっけなく亡くなった。私たちは悲しみに暮れる間もなく、実家の応急整頓と掃除を済ませ、父の亡骸を仏間に入れなければならなくなった。

私と弟がそれぞれ所帯を持って30年、老夫婦だけの暮らしになった実家は物があふれている。だが母は、父の亡骸を前にしながらも「私の部屋には指一本触れるな」と言い続けていた。その剣幕に押され、仏間だけを整えて父の葬儀を終えた。

両親はもともと整頓が下手だった。さらに晩年の父はテレビショッピングが趣味で、母は百貨店に週4日出かけるため、物は増える一方。母は父亡き後も、百貨店散歩にとどまらず、旅行や太極拳、ゲートボールなどに出かけて行き、人生を謳歌していた。

そんな母が先日、90歳を目前にして、駅のエスカレーターでつまずき落下転倒。頭部損傷による認知機能障害のため、施設入所が決まった。こうなると、衣類など母の身の回りの品や手続きに必要な書類を実家で探さねばならない。侵入を拒否し続けた母の部屋に切り込むのは、考えただけでも気が滅入る。あふれる物の山から目当ての品が見つかるのだろうか。

まずは、今探しているものがありそうな押し入れから開けてみる。上段には衣装ケースが2つ横に並べられ、その上にまるでお城の石垣のように、天井あたりまでびっしりと物が積み上げられていた。本や金庫らしきものも挟まっているので、へたに触れると雪崩が起きてケガをしそう。ケースの中には母の普段着やパジャマがあるはずだが、上に積まれた物の重みで圧迫変形し、引き出せない。頂上の物から順にそっと下ろしていくしかなかった。

とりあえずつかみやすい袋類から引っ張り出していく。出るわ出るわ。それは温泉旅館の名前が印刷された巾着袋だった。全国の温泉の名前がずらりと揃っている。袋の山が一畳分くらいになったところで中身を確認してみると、旅館の客室に置かれているタオル入れの袋に、歯ブラシ、シャワーキャップ、綿棒、髭剃り、シャンプーとリンス、コットン、タオルなどが詰められているのだった。

旅館を出るとき未使用分を詰めて持ち帰り、そのまま押し入れに放り込んでいたのだろう。気持ちはわからぬでもないが、押し入れがいっぱいになっても、一度も使った様子はない。私は呆れながらセット袋の解体作業をせっせと続けた。用意したLサイズのごみ袋は5つを超えていた。