今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『うそをつく子ー助けを求められなかった少女の物語』(トリイ・ヘイデン著、入江真佐子訳/早川書房)。評者は詩人でエッセイストの白石公子さんです。

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熱いものがこみ上げてくる

児童心理学者のトリイ・ヘイデン著『シーラという子』(早川書房)は被虐待児との交流を描いたノンフィクションの名作として、今も世界中で読み継がれている。そして日本では実に16年ぶりだという新作が届いた。

本作ではトリイは米国から英国のウェールズに移住し結婚、その環境もだいぶ変わっているようだ。あるグループホームで出会った9歳の少女ジェシー。日常的に嘘をつき、思い通りにならないと暴力をふるう。里親宅を転々としているときに下された診断は「反応性愛着障害」。

そんなジェシーとのセラピー・セッションでトリイは、性的虐待の疑いがあることに気づく。ある日、ジェシーは男性スタッフから性的いたずらをされたと訴え出るのだ。

ここでもトリイは愛情と忍耐をもってジェシーと向き合う。きめ細やかな観察力、慎重な言葉選びには感嘆させられる。どんな嘘も受け止め、背後にある心の叫びを探っていく。それは気の遠くなるようなやりとりだ。

途中から、ジェシーはいったい誰から虐待を受けたのか? どこまでが嘘で、どこに真実が隠れているのか? まるで心理ミステリーを読んでいる気持ちになる。しかしミステリーで描けないような想像を絶する真実にたどりつく。

親の精神疾患、ネグレクト、ヤングケアラーなど、ジェシーの嘘には、今日的な家庭不全の問題が潜んでいる。あまりに過酷なので、その後の人生が幸せなものであってほしい、と願わずにはいられない。それに応えてくれるような最後のジェシーからの手紙(日本がちょっとだけ登場)には、熱いものがこみ上げてくるのだった。