料理研究家の土井善晴さんが2016年『一汁一菜でよいという提案』を上梓され、30万部を突破。「永遠の悩みから解消された」「料理が好きだったことを思い出した」など多くの反響が寄せられました。家庭料理界の救世主となった土井さんが、一汁一菜という思考に至る人生の紆余曲折を記したのが、初の新書『一汁一菜でよいと至るまで』。インタビューでは、土井さんの影の立役者であるご家族とのこと、家庭料理を担う人々を追い詰める重責とは何か、など多岐にわたって伺いました。(構成◎岡宗真由子)

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みんなレシピ本に追い詰められてきた

そもそも、仕事や趣味(遊び)は、暮らしとつながっているものです。そういう意味で、女性はきちんとそれらをつなげて、地に足をつけて生きている方が多いですよね。その点男性は、私の父親世代くらいまでは、日常的に釣りや河岸で手に入れた魚を捌いたり、包丁を研いだり、生活や食に関わってきた。でも高度経済成長以後、多くの男性が、暮らしと仕事を切り離してしまった。 

近年、女性も社会に出て働く時間が増えてきました。その一方で、できたものを購入したり外食したりするよりも、家で料理をして食べる方が健康に繋がることはわかっている、少なくとも、無意識であっても知っていると思います。さらに、メディアは、お金をとる「プロの料理」と無償で毎日提供される「家庭料理」を区別しないでごっちゃにして発信しています。みんなが家にプロの料理人の監修した立派なレシピ本を持っていて、それを「自分の家のメニュー」として、その材料になっているものを季節を問わず(旬でなくても)スーパーに買いに走る。料理って、プロから教わった「応用」のレシピから入っていくと、逆に応用がきかないんです。

メディアと社会が「家庭料理を担う人たち」を追い詰めています。彼らによって現実的には「絶対に無理」という責務を日々、押し付けられているんです。私は料理をしない男性にこそ『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)を読んでほしいです。おかげさまで広く読んでいただいていますが、日本の人口を考えたら30万部というのは、影響力としてはまだまだ足りていません。


『一汁一菜でよいと至るまで』 (著:土井善晴/新潮新書)