2019年末から始まったコロナ禍。一時は収束に向かったように見えましたが、ここにきて一気に数を増やしています。また、2022年5月から世界的に広まりつつある「サル痘」も、日本での感染例が報告されました。人類は常に、目に見えないウイルスや菌と闘いながら生活してきました。そのなかで、特効薬の開発によってほぼ制圧されたと思われた「梅毒」が、復活しています。日本家族計画協会会長であり、長年現場で患者に接し、性感染症に詳しい北村邦夫先生に、梅毒の現状について聞きました。(構成◎南山武志)

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今後、ますます患者数が増えていく

性感染症の一種である「梅毒」が急増しています。国立感染症研究所によると、2019年、2020年は減少したものの、21年に梅毒と診断され届け出られた数は7873人。2022年に入って半年ほどで5615人。今後、ますます患者数が増えていくことが予測されています。しかも、実際の患者数はこれを遙かに超えている可能性があるのです。報告数は、下図を見ていただければと思います。


写真を拡大 梅毒全数報告(全数)。2021年と2022年は男女合計。22年のグラフの灰色は今後半年間での予測値

特効薬の普及で終息に向かったはずが

まず、性感染症報告数の年次推移を示した表をご覧ください。2000年以降、いわゆるクラミジア、淋病といった病気の報告数がほぼ横ばいで推移している中、2011年くらいから梅毒のみ爆発的と言ってもいい増え方をしていることが、おわかりになると思います。


写真を拡大 性感染症定点報告(全年齢・総数)

1940年代、国内には20万人を超える梅毒患者がいたと言われています。この時代まで、顔などにゴム腫という大きな腫物ができたり、中枢神経を侵されたりして苦しむ人が、少なからずいました。

状況を一変させたのは、45年に開発されたペニシリンでした。感染は終息に向かい、90年代には600人程度にまで患者数は減少します。ところが、突然「復活」した梅毒は、患者の報告数が2016年には4575人と、およそ40年ぶりに4000人超えとなり、18年には7007人まで達しているのです。

どうしてこんなことになっているのかをお話しする前に、梅毒がどんな病気なのか、あらためて述べておきましょう。病原菌は梅毒トレポネーマといって、これが性行為などを通じて感染することで発症します。病気の進行は、我々は大学の授業で3,3,3と教えられました。

まず、感染してから3週間ぐらいすると、病原体が侵入した部位に、初期硬結と呼ばれる軟骨状のできものが発現します。性器とは限りません。これが第1期梅毒と言われる段階で、通常痛みなどの自覚症状はなく、放っておいても2〜3週間で消えてしまいます。ですから、そのままスルーされてしまうことも多いんですね。

しかし、いったん初期硬結が消えた感染後3ヵ月くらいになると、今度は第2期の症状が現れます。全身にバラ疹(皮疹)が発現したり、口の中に口腔咽頭粘膜斑という蝶が羽を広げたような腫瘍ができたり、脱毛したり。バラ疹も蕁麻疹と誤解されることがありますが、いろいろな症状が「消えては出現し」を繰り返すので、ここが梅毒発見のチャンスと言えます。

感染から3年ほどたった頃には、病状はさきほどのゴム腫のステージ、第3期に進みます。ただ、ペニシリンが普及して以降は、そこまで悪化させるケースはほとんど見られなくなりました。