過労自殺と認定された若者の遺族は、死後数年たった今も、深い悲しみと向き合い続けている。政府の働き方改革は、長時間労働の是正が柱だが、そもそも労働者の労働時間を把握していない企業は少なくないとみられ「過労死や過労自殺を防ぐ根本的な解決にならない」との指摘は多い。未来に向かうべき若者の無念の死は、社会にさまざまな課題を突き付けている。

 ■自筆の出勤簿

 2012年7月、ある会社の福井支店(福井市)に勤務する男性(24)が車中で命を絶った。自宅の部屋で見つかった日々の出勤簿には「午前9時から午後5時30分」と書かれていた。筆跡は男性のもので、会社にタイムカードはなかった。

 毎日午前7時すぎに自宅を出て、夜中に帰ってくる息子の姿を見ていた父の浜地深さん(59)=福井市=は出勤簿に書かれた時間に「目を疑った」。男性はうつ病を発症していた。15年に労災認定した国の労働保険審査会によると、毎月の時間外労働は100時間を超えていた。

 浜地さんは「息子は責任感が強く、顧客と山登りをするなど人付き合いもできた。しかし会社では、部品以下の扱いを受けた」と怒りを押し殺した声で語った。

 ■残業169時間

 14年4月に採用された福井県若狭町上中中の社会科教諭、嶋田友生さん=当時(27)=は、半年後の10月に命を絶った。時間外勤務は最も多い9月で計169時間とされ、過労死ラインの2倍以上。16年9月に公務災害と認定された。労働時間は友生さんが使用していたパソコンの記録などから割り出した。

 ほとんどの学校にはタイムカードはないのが現状だ。公立学校の教員は本給の4%が教職調整額として上乗せされ、残業代は支払われない。福井市の村上昌寛弁護士は「学校側は教員の労働時間を把握できていない」と指摘する。この制度が長時間労働を助長しているとの批判は根強い。

 残業時間の上限を設けようという政府の動きについて、友生さんの父、富士男さん(57)は「パフォーマンスだろう。結局は(息子のように)仕事を家に持ち帰るか、ファミレスでパソコンをたたくか。そういう“難民”を生み出すだけで、根本的解決にはならない」。

 ■真実を知りたい

 今年2月、富士男さんは、息子の自殺は校長が安全配慮義務を怠ったためとして、福井県と若狭町を相手に提訴した。

 新任、クラス担任、慣れない部活の顧問、保護者対応、上司からの要求…。中学時代から欠かさず付けてきた友生さんの日記には、さまざまな記述がある。富士男さんは「(息子を死へと追いやった)幾つかの要因が読み取れる。裁判で社会を変えたいとか、何かを訴えたいという気持ちは全くない。ただ親として真実を知りたいだけ」と話す。

 富士男さんによると、友生さんは学生時代からずっと規則正しい生活を続けてきた。人を悪く言うことも決してなかった。「真面目で愚直にやってきた人間が、なぜ死なないといけないのか」。裁判で明らかになるであろう真実の中には、さまざまな問題が埋もれている可能性がある。