「加計学園問題」を巡り、安倍晋三首相らは、獣医学部新設を認める理由の一つに公務員獣医師の不足を挙げている。福井県も採用に苦戦し、他職種で業務をまかなったり、臨時職員を置いたりしてしのいでいる。ペットなど小動物診療の希望者が多く、より待遇のいい民間勤務や開業に流れるのが主な要因とみられ、「単に獣医師を増やしても解決しない」との指摘もある。

 県人事企画課によると、県の正規職員の獣医師は現在42人いる。家畜伝染病の防疫をはじめ、公共牧場の牛の管理、ブランド肉の開発、食中毒にかかわる検査、動物愛護などさまざまな業務に当たっている。51歳以上が13人、41〜50歳が16人で合わせて約7割を占めているのに対し、30歳以下は7人で、将来の態勢維持が課題になっている。

 人材確保に向け、県は獣医師に「初任給調整手当」を支給し、月額最大3万300円を最長10年間、給与に上乗せしている。採用試験の受験年齢の上限も49歳まで引き上げている。ただ、2014〜17年度の4年間で計21人の採用を見込んで募集したが、実際に採用できたのは計8人にとどまった。

 県人事企画課の戸田勝徳課長は「採用しにくいのは間違いないが、全く応募がない状況ではない」と強調する。獣医師の資格がなくてもできる業務に、薬剤師や農業、畜産の技術系職員を充てるなどの対応で、「18年度は現状で必要な3人の採用枠で募集している」と説明する。

 ともに獣医師資格を持つ県畜産試験場の向井寿輔場長と、県家畜保健衛生所の小林修一所長は、若い公務員獣医師のなり手が少ない現状を「技術伝承の観点からも正直厳しい」と口をそろえる。

 向井場長によると、「産業動物」といわれる家畜の中で特に豚や鶏を診察する獣医師が県内には、ほとんどいない。先端医療を行うペット医療に対し、産業動物は地道な現場作業が多い。「獣医師の“花形”とはいえず、若い人は魅力を感じないのでは」と向井場長。小林所長は加計学園問題を巡る国会議論を「政府はいったい何をしようとしているのか全く分からない。産業動物専門の獣医師を育てる議論をしてほしい」と訴える。

 実際に07年度に獣医学系学部・学科を卒業した1076人を対象とした文部科学省の調査では、ペットを専門とする動物病院の開業や勤務が45・9%と半数近くを占めた。これに対し、公務員は11・7%、農業団体が6・6%で、進路が大きく偏っている。

 県内のある若手獣医師は「母校の大学では、新入生のほとんどが小動物の臨床を希望している。待遇改善でしか公務員の増加は見込めず、新たに獣医師になる人をどれだけ増やしても、偏在は解決しない」と語った。