福岡をこよなく愛するライター大塚たくまが、福岡で起きていることを徹底深掘りしていきます。今回のテーマは、21時の時報でおなじみの「福さ屋」さん。あのCMの誕生秘話と福さ屋の明太子の旨さの秘密に迫ります。

「このうまさは食べんとわからん、わからん」
「ん〜!まるさがぁ、ピシャッとついとう!」
 
福岡県民なら誰でも知っているこのCM。そう、福さ屋です。「マイク! 時間たい!」という焦るおばあちゃん店員の声とともに、9時の時報が始まるバージョンも有名ですよね。
 

福さ屋のめんたいって、食べたことある?

疑問に思ったぼくはTwitterで尋ねてみました。
 


 
CMを見たことがある人は98%もいるのに、食べたことがない人は過半数。この事態を福さ屋はどう思っているのか。
 
気になったぼくは、博多駅そばにある、福さ屋の本社へ向かいました。

福さ屋のCMは「あれ」以外つくったことがない

福さ屋の佐々木副社長に、インタビューさせていただきました。

大塚
福さ屋さんって、かなり大手のイメージがあるんですが……。

佐々木副社長
いえいえ、そんなことはありません。福岡県内のメーカーの認知度でいうと、福岡県内でもっとも高いんです。ただし、シェアだとそうでもないのが実情でして……。

大塚
やはり知名度の高い要因はCMですよね。

佐々木副社長
CMは大きいでしょうね……。CMは基本的に、「ピシャッとまるさがついとう!」という通常CMと「3、2、1 ピシャッ!」の21時時報の2種類ですね。



大塚
これ、ぼくが子どもの頃から変わっていないような気がするんですけど、相当古いですよね。

佐々木副社長
そうですね。もう30年以上流していると思います。もう、福岡県民の間でもイメージが根付いているので、変えられないなと思いますし、変えるつもりもありません。

大塚
福さ屋で新商品が出た時に、新たなCMを流すということも、これまではなかったんですか。

佐々木副社長
これまではないですね。おばあちゃんとマイクのCM一本です。本当はやった方がいいのかもしれませんが……。宣伝上手な会社ではないもので。

大塚
でも結構看板も見かけますし、むしろ「宣伝上手」な印象でした。

▲福岡空港前のネオン看板

佐々木副社長
宣伝や広告に関しては、基本的なことをしっかり続ける、という感じですかね。あまり細やかなプロモーション戦略があるわけではないんですよ。

福さ屋のCMを作ったのはどなた?



大塚
あのCMを作ったのはどなたなんですか?

佐々木副社長
制作したのは地元の広告代理店と、創業者である現会長の佐々木吉夫と当時の専務ですね。

大塚
代理店任せにCMを作ったのではなく、佐々木会長や当時の専務もけっこう意見を言って作ったということですか。

佐々木副社長
それは間違いないですね。会長は広告宣伝や商品、企業イメージに人一倍気を遣う人ですし、非常にアイデアマンです。弊社の「辛子めんたい」というロゴや、パッケージもけっこう特徴的だと思うんですが、会長が作りました。

▲ロゴやパッケージデザインは会長考案

大塚
味づくりと同じように、他のことにも真剣に向き合っていたんですね。

佐々木副社長
会長はCM撮影の現場にも立ち会い、演技指導もしたと聞いています。これが当時のネガです。



大塚
うおー。すごい。貴重じゃないですか。でもこれ、今のCMの風景と若干違いますよね?

佐々木副社長
そうですね。このポジは初代CMの撮影現場で、博多駅の売り場で撮ったものです。外国人役はトーマス・ハッチさんという英語教師の方。今放送されている分は、マイケル・ロドリゲスさんという佐世保米軍基地で勤務されていた方なんです。

大塚
今のCMは二代目なんですね。おばあちゃんは何者ですか?

佐々木副社長
若尾のぶ子さんという、当時とある劇団の座長を務めていた方です。会長と親しいお付き合いのある方で、おそらく会長から推薦があったんじゃないでしょうか。

大塚
あのロケ地は現本社下の直売所ですか?

佐々木副社長
いえ、このビルは建って14年くらいで……。その前は、博多駅南に本社がありました。

大塚
そうなんですね。ここだと思い込んでいました。

▲ロケ地は本社下のここではない

佐々木副社長
正直なところ、あまりCMに関して、はっきりした記録が残っていなので、会長や元専務からの聞きかじりです。


福さ屋のCMで「まるさがついとう」の意味とは?

▲CMでも「まるさ」が強調される

大塚
ちなみに「まるさがついとう」って言うじゃないですか。あれ、よく意味がわからないんですけど、どういう意味なんですか?

佐々木副社長
もともとは「ピシャッとさがついとう」って言ってたんですよ。でも、それは「差がついている」と言うのはよくないよね、ということで改善しました。会長は明太子業界全体のルールを適正化するための活動もしていたので、そういった部分にも敏感で。

大塚
改善した結果、「まるさがついとう」というフレーズになったんですね。

佐々木副社長
「まるさ」の「さ」は、佐々木の「さ」なんです。「まるさ」は元々、当社が大切にしているロゴなんです。

大塚
なるほど。つまり「まるさがついとう」というのは、「福さ屋のめんたいはまるさマークが目印だよ」という意味なんですね。

佐々木副社長
創業者である会長はもともと、北海道の礼文島の網元の息子なんです。その漁師の網に、佐々木家の網だとわかるように焼印をつけていたんです。そのマークが「まるさ」だったことが由来でして。

▲実際の焼印を見せてくれた

大塚
すごい! これが現物ですか。めちゃめちゃ貴重な品だ。

佐々木副社長
福岡の「福」に、佐々木の「さ」。それで「福さ屋」なんです。

福さ屋は明太子業界の中では後発メーカー

福さ屋公式サイトより

大塚
福さ屋って、老舗ってイメージですよね。

佐々木副社長
老舗と思われがちなんですけど、明太子業界の中では後発です。昭和53年創業なんですよ。

大塚
創業の経緯を教えていただいてもいいですか?

佐々木副社長
もともと漁師の家の息子だった会長は、福岡県が地盤の国会議員だった私の祖父の秘書として、九州に参りました。そこから、山陽新幹線が岡山〜博多間の開業をきっかけに、ビジネスの世界に飛び込んだんです。

大塚
その時から、明太子メーカーとしての開業だったんですか?

佐々木副社長
いえ、当初は「博多ステーションフード」というスーパーマーケットでした。「博多駅を地元住民にも親しみやすい場所にする」という想いのもと、オープンしたんです。当時は夜9時まで営業する店はなかったので、仕事帰りの方々に喜ばれました。

大塚
博多ステーションフードは、今でもありますよね。そこから、どうやって明太子事業に発展するんですか?

佐々木副社長
当時、新幹線のおかげでめんたいが評判になり始めていました。秘書時代に仕事で上京するたびに、土産でめんたいを持って行っていたのだそうです。魚屋も営んでいるし、タラコなら礼文島で見慣れているし「自分でも加工できるのでは」と思ったそうです。

大塚
面白いきっかけですね。とは言え、味づくりには苦労されたんじゃないですか?

佐々木副社長
会長は母と協力して、二人三脚で励んだみたいなんですが、なかなか上手くいかなかったようです。その後、ベテランの明太子職人にめぐり会って、ようやく福さ屋の味が完成しました。

大塚
めんたいが売れるようになるまでには、どのようなことをされたのでしょうか。

佐々木副社長
福岡では既に大手メーカーが多数存在していたし、会長は福岡の人間ではないので、かなり苦労したようです。そこで、販路を開拓するために東京を目指しました。それが大きかったと思います。

大塚
福岡だと埋もれるから、逆に東京へ出たわけですね。めんたいならではの、面白い発想!

佐々木副社長
昭和54年、有楽町のフードセンターにある4坪程度の空き店舗を見つけて、めんたいを売り始めました。さらに、銀座で屋台を引いて販売もしていたそうです。



大塚
銀座でめんたいを売り歩く屋台ですか! すごい……。

佐々木副社長
当初は銀座のクラブにチラシを配ってまわり、ホステスさんが気に入ってくだされば、一番の宣伝マン、販売になっていただけるということで、おまけもしていたそうです。

大塚
めちゃめちゃ泥臭いですね。

佐々木副社長
その泥臭い動きが身を結び、福さ屋のめんたいは銀座で話題になります。その結果、当時の三越の岡田社長が屋台にいらっしゃり、銀座三越で「福さ屋」の大きな懸垂幕がかかるまでになったんです。

▲銀座三越

大塚
すごい話ですね。福さ屋は東京で活路を見出した後、福岡に凱旋してきているんですね。

福さ屋の認知度はなぜ購買に結びつかないのか



佐々木副社長
大塚さん、ちょっと逆に質問してもいいですか?

大塚
えっ、はい……。

佐々木副社長
なんで福さ屋のめんたいは認知度があるのに、購買に結びつかないんだと思いますか? 大塚さん、個人の意見でいいので、率直に教えてほしいです。

大塚
えっ……。そ、そうですね……。

佐々木副社長
弊社はやっぱりお土産がメインじゃないですか。そうなると、食べているのは福岡県外の人が多いということですよね。

大塚
(ガチなやつだ……。)

佐々木副社長
「認知」って、あまり売上には関係ないということですかね?

大塚
いや、なくはないんでしょうけど、それが全てではないというか……。率直に思うのは、「宣伝上手」「よく売れている」と地元民に勘違いされている気がします。土産物あるあるだと思いますが、地元のファンがそんなに多くないのかも……。

佐々木副社長
なるほど……。

大塚
あまり味のイメージが湧くCMでもないですし……。

佐々木副社長
ちょっと大塚さん。

大塚
あっ、はい。

佐々木副社長
ぜひ、工場にも取材に行ってくださいよ。福さ屋の製造現場をみてほしいです。

大塚
えっ、いいんですか?

佐々木副社長
ぜひぜひ。工場に行って、福さ屋の味づくりのこだわりを伝えてほしいです。

大塚
ぜひ!!工場に行きます!!

……ということで、福さ屋の工場でめんたいづくりを見せてもらうことになりました。


福さ屋の工場は「大きな調理場」

……というわけで、福さ屋の清水工場(福岡市南区)にやってきました。清水工場の浅野課長に、工場内を案内していただきます。

浅野課長
それでは、ひとまず中をご覧いただきましょう。この工場は2次加工をメインとしている工場ですが、まずは原料を仕入れるところから始まります。仕入れた塩たらこを調味液に浸けて加工することで、めんたいが完成します。今、あちらで塩たらこの選別作業をしていますね。



大塚
えっ、あんなに丁寧に見るんですか……。

浅野課長
熟練者が丹念にチェックしています。福さ屋では、原料の卵にこだわっていまして。もっともめんたいに適している成熟具合である「真子」しか仕入れていません。

大塚
それはすごいですね。大手では船ごと仕入れたりして、成熟度合いが違うたらこは、加工食品に活用している話を聞きます。福さ屋では、加工食品も全て真子なんですか。

浅野課長
そうですね。加工食品もすべて真子です。

大塚
それはすごいな……。

浅野課長
選別しためんたいは、調味液に漬け込んでいきます。調味液は職人が手作業で調合し、1ケース1ケース手作業で調味液に浸していきます。



大塚
さすがに記事では見せられないんですが、調味液をめちゃめちゃ丁寧にかき混ぜていますね。

浅野課長
簡単に見えますが、調味液をかき混ぜるのはなかなか難しいんですよ。いろいろな混ぜ方を何度もやって、きれいに混ざり合うようにしています。ひとつひとつ違うので、機械では無理なんです。

大塚
単にたくさんかき混ぜるのではなく、意図を持ってかきまぜているんですね。

浅野課長
うまく混ざり合っていないと、味にバラつきが出てしまいますからね。非常に重要な作業です。そして、しっかり混ざった調味液を塩たらこに浸していきます。



大塚
まさか、こんなに手作業だったとは。

浅野課長
福さ屋の辛子めんたいは、どれも手作業で浸けこまれたものであることは、ぜひ知っていただきたいですね。その後、辛子めんたいは2~5℃の低温室で72時間漬け込み、調味液の卵への浸透と熟成を行います。



大塚
調味液を吸うと、たらこがぷっくり膨らむんですね。美味しそう!

浅野課長
熟成によって、めんたいに深い味わいが生まれてきます。熟成が終われば、めんたいは計量の作業を行い、製品化します。



大塚
人がたくさんいますね。ここからも手作業ですか。

浅野課長
計量しながら、めんたいの状態もチェックしていますからね。これも手作業じゃないといけない部分です。



大塚
最後の梱包作業も手作業!! すごいですね、これ。一つ一つ人の手で詰めているとは。

浅野課長
はい。パッケージ一つ一つ、手作業で詰めています。



大塚
今詰めているのは、おにぎり型のパッケージということは……。これは福さ屋名物の「できたてめんたい」じゃないですか?

浅野課長
その通り。福さ屋の工場では、まず朝に「できたてめんたい」を作るところから始まります。今、パッケージしているものは、この後すぐ福さ屋の営業マンが取りに来て、各売場に陳列されます。

大塚
えっ、今詰めているものが今日売場に並んじゃうんですか。じゃあ、もうこれ、今日にはお客さんの手元にいくわけですか。

浅野課長
今晩の食卓に並ぶかもしれないですね。普通なら出来上がっためんたいは冷凍された状態で各売場に納品されるんです。ただ「できたてめんたい」に関しては、冷凍作業を行わずにそのまま陳列されるので、フレッシュさが違います。

▲ちなみに切子は一本物よりも粒に味が浸みやすい

大塚
流通過程で「冷凍」を挟まないことで、そんなに味に違いがあるんですか。

浅野課長
かなり違いますよ。試食するとわかりますので、今日完成した「できたてめんたい」をぜひ食べてみてください。

福さ屋「できたてめんたい」を食べ比べてみよう

▲福さ屋 浅野課長

大塚
まさか、あんなにCMをガンガンやっている福さ屋が。あそこまで手作業にこだわっているとは思いませんでした。

浅野課長
金属探知など、機械じゃなきゃ無理なところを機械がやっているだけで、最小限にとどめています。基本的にすべて手作業ですね。手づくりのめんたいです。

大塚
そして、これが「できたてめんたい」ですね。通常商品のめんたいと並べてみましょう。



大塚
見た目にも結構、粒立ちが違いますね……。

浅野課長
そうなんです。食べてみるとさらに違いますよ。

大塚
おお! たしかに食感が全然違いますね。プチッと弾けて、風味もいいです。通常のものも美味しいのに、できたてめんたいはさらに美味しい。いい味ですね!!

浅野課長
そうでしょう。ぜひ「できたてめんたい」を食べてみてほしいんです。

大塚
ぼく、個人的に福さ屋の調味液の味が大好きなんですが、調味液の特徴はなんですか。

浅野課長
特徴はイワシを塩で漬け込んで発酵させた、旨味たっぷりの魚醤ですね。さらに、キレのある辛さと甘みが特徴の唐辛子にもこだわっています。それらが調和することで、福さ屋の味が生まれています。

大塚
いやー、今後は福さ屋のめんたいを食べる度に、あの調味液を一生懸命かき混ぜている光景が浮かぶと思います。貴重なお話をありがとうございました。

ぼくたちは福さ屋を知らなさすぎた

ぼくは、福さ屋をナメていました。
 
なんか宣伝と売場重視で、それなりの明太子を作っていて、商売上手でやりくりしている大手メーカーなのかなと思っていたんです。現実は真逆で、職人気質な会社でした。
 
まだこの記事では伝え切れていない、クリエイティブな明太子や、コラボレーション商品がいっぱいあるんです……。そのへんはぜひ公式サイトや、福岡めんたいこ地位向上協会のYouTubeをご覧ください。
 
今こそ、福さ屋のめんたいを食べてみよう。切れ子1個でご飯一杯、いけちゃいます。手づくりのめんたい、おいしいよ。

【福さ屋株式会社】
福岡市博多区博多駅中央街5-14

著者:大塚たくま (ライター・編集者)