昨年の春季リーグは8月10日から1試合の総当たりで開催された

 真っ青な空。憧れの球場へ向かう足取りは思わず駆け足になった。まだヒンヤリと冷たい空気が頬をさす、4月10日。大学野球の聖地・明治神宮野球場で東京六大学野球が開幕した。私にとってのデビュー戦。昨秋までは画面にかじりつくように観ていた東京六大学野球に、取材者として今春から関わらせてもらえることになった。神宮につくとさっそく顔見知りの野球関係者から「楽しそうやなぁ!」。マスクをしていても、ワクワクした気持ちは隠せなかったようだ。

 もちろんそれは私だけではない。試合開始2時間前には球場正面から3塁側に沿って、贔屓チームのグッズを身にまとったファンが球場外に列をなしていた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で昨年は各種大会が軒並み中止となったが、六大学は感染対策をしっかり行ったうえで春季リーグを開催することができた。

 しかし、“春”とはいうものの、実際は猛暑の中の8月10日から1試合総当たりという異例の形で行われた“夏”だった。雲一つない青空、爽やかな風、ピンク色から緑色に景色が変わっていく“春”にリーグ戦が行われるのは実質2年ぶりだった。開門すると同時に、この日を待ちわびたファンはそれぞれの特等席に駆け出して行った。

 開会式は、開幕戦を戦う早大と東大の2校のみで行われた。選手の表情をみても「早く試合をしたい!」と言わんばかりの笑顔が溢れている。先月には選抜高校野球やプロ野球が開幕し球春は既に到来しているが、いずれも応援楽器は禁止され応援歌がスピーカーから流されるのみ。

 これまでの野球場の景色に完全に戻っているとは言えない。しかし、神宮にはブラスバンドの音が高らかに鳴り響くのだ。グラウンドに選手、外野席に応援団、観客席の最前列には立派な望遠カメラを持ったファンの姿。選手+応援団+ファン=野球。入場者数は1万人と制限はされているものの3つの要素すべてが揃った神宮球場。スタンドにいると「これこそが球春到来だ」と感じずにはいられなかった。

東大は6点ビハインドから追い上げるも1点及ばず早大に敗戦

“本当の春”を最も楽しみにしていたのは、東大の阿久津怜生外野手(宇都宮)かもしれない。「去年はお客さんとしてスタンドでみていた」という3年生ルーキーは、昨夏までアメリカンフットボール部の選手だった。高校時代は硬式野球部に所属。アメフト選手として観戦した神宮球場での試合に感化され、野球部へ転部した。フレッシュトーナメントで既に神宮デビューは果たしていたものの、リーグ戦は初出場。早大との開幕戦で、「1番・右翼」に名を連ねた。

 試合は早大が初回に4番・岩本久重捕手(4年)の適時打で先制すると、4回に7番・熊田任洋内野手(2年)の2ランなどで3点、5回には3番・蛭間拓哉外野手(3年)のソロで追加点。東大は6点を追いかける展開となったが、7回に4番・井上慶秀内野手(4年)の適時打などで3点を返すと、8回にも2点を挙げて1点差まで詰め寄った。

 ブラスバンドのボリュームも一気に大きくなる。試合の雰囲気に合わせて応援の音やテンポが変化するのは生演奏の醍醐味だ。選手の熱いプレーと応援団がさらに高めた雰囲気の中、東大の応援歌「ただ一つ」にあわせ三塁側のスタンド席も一つになった。阿久津に快音は聞かれず、結局そのまま5-6で東大は敗れたが、「すごい応援の中で野球ができて幸せだなと思った」と少し恥ずかしそうに振り返った。

 2年ぶりにやってきた“本当の春”。選手、応援団、ファン、みんながとてもワクワクした表情で初日を終えた。大学野球の聖地・神宮での、熱い2か月が始まった。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。