「投手の障害予防に関する有識者会議」でも言及された「金属バットの性能の見直し」

 今、アマチュア野球界では「勝利至上主義」から「選手の将来を考えた育成」へと方針転換する流れが生まれている。成長期の体に負担の大きい練習過多が重なり、結果として肩肘、あるいは腰などを故障。野球を続けられなくなったり、好きで始めたはずの野球が嫌いになってしまった例は後を絶たない。こういった悲劇をなくすため、日本各地でひとり、ふたりと指導者が立ち上がり、野球界に変革のうねりを起こしている。

 例えば、新潟県では県高野連や中体連軟式野球専門部など9団体が垣根を越えて「新潟県青少年野球団体協議会」を立ち上げ、「新潟メソッド」と呼ばれる独自の指導理念や故障を起こさないための取り組みを作成。「野球手帳」という形にまとめ、子どもたちに配布している。

 群馬県では、2015年から軟式野球の指導者を対象としたライセンス制度を導入。肘治療の権威で、館林市にある慶友整形外科病院のスポーツ医学センター長・古島弘三医師が監修する指導者講習会を毎年受講することが定められている。

 時代の流れとともに世論や価値観が変化する流れを汲み、日本高野連では2019年4月に「投手の障害予防に関する有識者会議」を立ち上げた。同年に4度の会議を経て提出された最終答申には「高野連が主催する大会期間中に行われる試合を対象に、1人の投手が投げられる総投球数を1週間500球以内とする」という投球数制限が盛り込まれたことは、多くの人が知るところだろう。

 同時に、この答申では「金属バットの性能の見直し」が盛り込まれていた。日本高野連は2020年2月に、従来の金属バットより反発係数の低い製品の試験を公開するなど、新基準の制定に向けて検討を続けている。現在、一般財団法人「製品安全協会」が定めるSG基準には、反発性能に関する規定は設けられていない。その一方で、2020年度より中学1年生の大会で、米国で使用される低反発バット=国際標準バットを導入し、その効果を感じているのが日本ポニーベースボール協会(以下ポニー)だ。

なぜ金属バットの性能を見直すべきなのか

 そもそも、なぜ金属バットの性能を見直さなければならないのか――。

 かつては木製バットが使用されていた高校野球で、金属バットが導入されたのは1974年のことだった。木製バットは折れやすくコストがかさむため、折れにくい金属バットを導入。一時は力の弱い打者でも振りやすいようにと軽量化されたこともあったが、鋭い打球が投手や野手を強襲。怪我のリスクを避けるため、日本高野連では2001年にバットの重さを900グラム以上と定めたが、高校でもウエートトレーニングは導入されると選手がパワーアップし、重いバットを軽々と振るようになった。すると再び、鋭い打球が直撃する危険性が高まりだした。

 さらに、木製バットよりも反発係数の高い金属バットは、もともと打球の飛距離が出やすいことに加え、より遠くへ飛ばす性能がアップ。ボールをバットの芯で捉えなくても打球は詰まることなく、ヒットやホームランとなる。そのため高校時代に“強打”で名を馳せた選手がプロ入り後、木製バットに対応できず伸び悩むという現象が続出。将来的に必要な打撃スキルを身につけるという意味では、実は弊害をもたらしていることも分かってきた。

 スキル向上に弊害をもたらしているのは、打撃だけではない。バットがボールをこすっただけでも安打になるケースは多々ある。すると、投手はバットでコンタクトされないような投球を目指し、直球勝負ではなく変化球でかわす投球を覚えるようになる。成長期にある中高生が、体にかかる負荷の大きい変化球を多投すれば、当然の結果として故障が多発してしまう。また、守備の面でも、球足が速く鋭い打球を待って捕球することに慣れ、木製バットによる打球を処理する際にボールに向かってチャージできず。アウトを取り損ね、無駄に投手の球数を増やしてしまうこともある。

 バットの性能は、投手の球数や球児の安全と意外に密接に関わっていることが分かるだろう。

低反発バットでも芯で捉えれば、打球は変わらぬ飛距離

 ポニーでは、2020年に開催された中学1年生の大会や、全日本選手権大会ポニーブロンコ大会で、低反発バットの使用を義務化した。米国のアンダー世代を対象とする各団体では、木製バットと同程度の反発係数を持つ「BBCOR.5」と記された金属バットを導入。木製バットに近い打感で、打球が飛びすぎないバットを使用し、子どもたちのスキルアップに役立てている。

 米国での効果に着目したポニーが「SUPER PONY ACTION パート1」に盛り込み、国際標準バットを1年生大会で導入すると、その効果は期待以上だったという。昨年12月に行われた「SUPER PONY ACTION パート2」発表会では、「パート1」を実施した結果を検証。那須勇元事務総長によれば、飛距離が出ない点に注目が集まりがちだが、使用する過程では、しっかりバットの芯で捉えた打球は従来の金属バットに劣らない飛距離を計測。芯を外した内野ゴロが増え、野手は打球に向かって積極的にチャージする意識を見せるようになった。

 2021年も1年生の大会では引き続き国際標準バットを使用する一方、2・3年生での導入は高校野球の対応を見ながらの判断になるという。

 今年も各地で甲子園を目指す戦いが始まる。高らかな金属音を響かせながら大きな打球がスタンドへ飛び込むシーンが幾度となく繰り返されるだろう。耳に届く金属バットの音をきっかけに、子どもたちにとって何が正しいのか、大人たちはバットのあり方について考えを巡らせたいところだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)