13試合負けなしを記録するなど首位に立ったヤクルト

 9月を終えた時点で、自力優勝の可能性があるチームがヤクルトと阪神に絞られたセ・リーグ。特に9月後半のヤクルトは投打が噛み合い13戦試合負けなしを記録した。9月のセ・リーグ6球団の月間成績は以下の通りだ。

ヤクルト 13勝8敗5分
打率.257 OPS.725 本塁打25 援護率5.53
先発防御率2.53 QS率61.5% 救援防御率2.69

広島 13勝11敗1分
打率.272 OPS.768 本塁打32 援護率3.37
先発防御率3.96 QS率68.0% 救援防御率3.42

中日 12勝11敗2分
打率.246 OPS.641 本塁打12 援護率3.22
先発防御率2.86 QS率60.0% 救援防御率3.95

阪神 10勝9敗4分
打率.227 OPS.620 本塁打10 援護率2.61
先発防御率3.95 QS率 47.8% 救援防御率4.24

DeNA 11勝12敗1分
打率.251 OPS.725 本塁打24 援護率4.50
先発防御率3.38 QS率50.0% 救援防御率4.56

巨人 6勝14敗5分
打率.232 OPS.663 本塁打24 援護率3.97
先発防御率3.83 QS率44.0% 救援防御率4.14

 ヤクルトは打線の好調もさることながら、投手陣の頑張りも首位奪取に大きく貢献している。防御率は先発、救援ともに2点台でどちらもリーグ1位。QS率も60%台に乗せ、24試合で先制点を許したのは7試合だけで、初回失点率も20.8%に改善している。

 巨人は8月もチーム打率、QS率がリーグ最下位だったが、噛み合わせの妙で3つの勝ち越しを得ていた。だが、9月は歯車が噛み合わず、8つの借金を作ることとなった。他の5チームは月間のゲーム差が3の中に収まり、大きな順位変化は起きなかった。

ヤクルトは打線全体で優れた成績を見せていた

 そんなセ・リーグの9月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。NPBが選出する月間MVPの基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、どれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、10月6日に発表される予定の月間MVPとは異なる選手が選ばれることもある。

【打者部門】

 打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。

 各チームのwRAA上位3人は以下の通り。

巨人 坂本勇人11.22 松原聖弥5.20 岡本和真1.40
阪神 大山悠輔6.59 糸原健斗5.18 近本光司4.47
中日 京田陽太3.80 木下拓哉1.89 高橋周平1.69
DeNA オースティン8.51 宮崎敏郎8.28 桑原将志6.66
広島 鈴木誠也23.00 西川龍馬8.08 菊池涼介4.39
ヤクルト 村上宗隆11.77 山田哲人7.35 塩見泰隆4.97

 巨人の貢献度2位には松原が入った。松原は育成選手としてセ・リーグ初の2桁本塁打を記録、また巨人の育成出身の選手として初の規定打席到達も達成した。好調ヤクルトの打線の核となる村上は今月もwRAAで10を超える貢献を示し、上位打線を形成する選手がすべて好成績を残している。

1番 塩見泰隆 OPS.853 3本 wRAA4.97
2番 青木宣親 OPS.714 2本 wRAA1.92
3番 山田哲人 OPS.902 6本 wRAA7.35
4番 村上宗隆 OPS.984 6本 wRAA11.77

 また、打率は低いものの月間4本塁打のオスナとサンタナも相手投手の脅威となっている。

 DeNAも上位打線が好調である。例えば、9月29日のオーダーで見ると

1番 桑原将志 OPS.862 3本 wRAA6.66
2番 佐野恵太 OPS.817 3本 wRAA5.59
3番 牧秀悟 OPS.870 5本 wRAA5.33
4番 オースティン OPS.974 6本 wRAA8.51
5番 宮崎敏郎 OPS.948 4本 wRAA8.28

 と5番までのwRAAが5以上と大きな貢献を示している。ただ、その後を打つソトがwRAA-6.48と9月が不調であったことがマイナス要素となってしまった。

鈴木誠也は打率、本塁打、出塁率などほぼ全ての指標でリーグ1位

 その中で9月のセ・リーグで最もチームに貢献したことを示している選手は、広島の鈴木誠也だ。

打率.381(2位:坂本勇人 .352)
OPS1.417(2位:坂本勇人 1.037)
本塁打13(2位:村上宗隆 7本)
出塁率.500(2位:糸原健斗 .433)
長打率.917(2位:オースティン.621)

 上記の全てが2位に大差をつけてのリーグ1位。9月は1日のDeNA戦を除いて全ての試合で出塁を記録しており、10月2日のヤクルト戦まで26試合連続出塁を記録している。また、9月3日から9日にかけて6試合連続本塁打。これは王貞治、ランディ・バースが記録した7試合連続本塁打に次ぐものだが、バースは7試合で7本を打っているのに対し、鈴木は6試合で8本の本塁打を打っている。ちなみに王は7試合で9本を打っている。鈴木の記録がスタートした9月3日は王が756号を記録した日でもある。

【投手部門】

 投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。

NPB公式の月間MVP候補には床田、松葉、栗林らが挙がるが…

 各チームのRSAA上位3人は以下の通り。

巨人 菅野智之4.18 デラロサ3.04 畠世周2.58
阪神 スアレス2.52 伊藤将司2.52 岩崎優2.15
中日 大野雄大4.18 松葉貴大2.82 藤嶋健人2.07
DeNA 今永昇太6.67 エスコバー3.00 大貫晋一2.98
広島 床田寛樹1.58 島内颯太郎1.29 菊池保則1.00
ヤクルト 奥川恭伸5.15 星知弥2.67 スアレス2.61

 9月の公式の月間MVPの候補として上がるのは、先発投手陣では、広島の床田寛樹(3勝1敗、防御率0.93、QS率100%)、中日の松葉貴大(4勝1敗、防御率0.95、QS率60%)の2人、救援投手では広島の栗林良吏(6試合6セーブ、防御率0.00)が挙げられる。だが、セイバーメトリクスによる評価では、DeNAの今永昇太を挙げたい。

今永昇太 WHIP0.70 FIP1.74 tRA1.82
奪三振率7.50 K/BB 25.0 被OPS.474

床田寛樹 WHIP0.76 FIP2.67 tRA3.33
奪三振率7.14 K/BB 3.29 被OPS.430

松葉貴大 WHIP1.02 FIP2.87 tRA2.92
奪三振率4.45 K/BB 2.80 被OPS.560

栗林良吏 WHIP1.33 FIP3.37 tRA4.12
奪三振率9.00 K/BB 1.20 被OPS.470

 tRAや被OPSなど包括的な指標での評価により、今永の優位性が見えてくる。特に注目すべき点は四死球の少なさと打たれた打球の質である。9月の今永の四死球は9月5日の中日戦で先頭打者の京田に与えた1四球のみ。そして、ゴロ打球51%、内野フライ8.6%とtRAの数値に良い影響を与える打球が多かったことが示されている。

 また、今永の9月の成績は4試合登板で防御率1.50、QS率100%、HQS率75%と先発投手としての役割を十分に果たしてチームに貢献している。よって、セイバーメトリクス目線で選ぶ9月の月間MVP投手部門に今永昇太を推す。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。