少年野球では盗塁を重ねることにより大差がつく試合が多いと指摘されている

「盗塁」は、野球をスリリングにする大きな要素の一つだ。90フィート(27.432メートル)の塁間を走って次の塁を奪うプレーは、野球に緊張感をもたらす。しかし、子供の野球では「盗塁」を認めるかどうかは議論が分かれている。

 小学生の試合では、盗塁が勝敗を分けるケースがよくある。両チームの実力差があるとされる試合で、強い方のチームの打者が初回からゴロを打って失策を誘ったり、四球を選んだりして出塁し、バントや盗塁を重ねて延々と加点するのはよく見られる光景だ。

 弱いチーム、経験の浅いチームは捕手が投手のボールを受けるので精いっぱいであり、走者を刺すことはほとんど不可能だ。二塁手、遊撃手も捕手の送球を受けて走者にタッチすることはほとんどできない。パスボールも多い。このために、延々と「出塁―バント・盗塁―得点」が続く。そして大差がついてコールドで決着することが多いのだ。小学校の塁間はボーイズでは22.86メートル、軟式野球では23メートルと短く、それだけ盗塁も容易なのだ。

 実は少し前まで、女子野球は国際大会でこうした手法で勝つことが多かった。女子野球では日本と他チームとの実力差が大きい。特に、野球がマイナースポーツの国ではナショナルチームでも「捕る、投げる」が精いっぱいというレベルであることも多い。こうした試合で日本チームは、コールドゲームで簡単に勝ち抜くために、バントや盗塁を重ねて早い回に大量得点をする戦法をとっていた。

 ある日本チームの監督は、大敗したチームの監督に「お前たちは確かに強い。しかし、俺たちはお前たちのような試合の仕方はしない」と言われたという。「日本は強いが、リスペクトされない」という評価が定着しつつあったのだ。

 スポーツマンシップの考え方ではスポーツの試合では「自分たちだけでなく、相手チームにも十分に力を発揮させ、そのうえで勝敗を競う」ものだとされている。そういう観点から見ても、日本の戦法は問題なしとは言えなかった。

「出塁―バント・盗塁―得点」という戦法を用いるチームの指導者は、相手チームに十分に力を出させないだけでなく、自軍の打者にも「転がしていけ」と指示することが多い。バットを思い切り振っていいのは中心打者だけというチームも多い。本来の打撃の醍醐味である「ボールを遠くまで飛ばす」とは程遠い「転がす、走る」が主流になっているのだ。

投手に次いで多い捕手の健康被害、盗塁の際の送球が一因とされている

 アメリカ発祥のリトルリーグでは、走者は投手の投球がホームベースを通過するまで離塁できない。実質的に盗塁はできないようになっている。塁間は18.29メートルとさらに短い。

 リトルリーグは戦後、日本にももたらされ、広く普及した。当時の小学生たちは盗塁のない野球をしていた。しかしリトルリーグのルールに飽き足らない思いを抱いていた日本の野球関係者によって、盗塁などが認められた大人の野球に近いルールのボーイズリーグが生まれた。

 また、リトルリーグから派生したリトルシニアも盗塁を認めている。その後できたヤングリーグも盗塁ありである。さらにアメリカ発祥のポニーリーグも盗塁が認められていた。軟式野球でも盗塁が認められている。

 こういう形で日本の少年野球は「盗塁あり」が主流となった。それが「出塁―バント・盗塁―得点」という日本独特の野球のスタイルにつながった。

 しかし「盗塁あり」の少年野球は、ワンサイドゲームが増えるだけでなく、まだ十分に肩、肘が成長していない時期の捕手に大きな負担を与える。日本の少年野球では投手に次いで捕手の健康被害が多いが、これは腕だけで二塁に速い球を送球する動作が影響していると考えられる。

「盗塁がある野球は、体が出来上がってからでもいいのではないか。少なくとも小学生の時代は盗塁なしでもいいのではないか」。そういう考え方が広がりつつある。

 全日本軟式野球連盟の宗像豊巳専務理事は今年1月、「野球肘障害を減らすため、さらなるルールの改定(案)」を発表した。その中に『盗塁数規制 (1試合3〜5回)、パスボールでの進塁なし』という項目があった。

 延々と盗塁、得点が続く一部の少年野球の風潮に歯止めをかけ、野球少年の健康を守ろうとする動きが日本でも生まれてきている。

 少年野球の「盗塁」に関しては、議論を深める時期が来ているといえよう。(広尾晃 / Koh Hiroo)