米メディアがイチローファンを特集「もう一度、あの機会がやってくるのならやるだろう」

 マーリンズのイチロー外野手は、アメリカでも絶大な人気を誇る。マーリンズ・パークで打席に立てば「イチロー・コール」がスタンドから巻き起こり、敵地でも大きな拍手で打席に迎えられる。ヒット数をカウントし続けている「イチメーター」製作者のエイミー・フランツさんという、日米ですっかり有名になったファンもいるが、熱狂的なサポーターは他にもいた。

侍ジャパンU-12代表、最初の「ヤマ場」 初戦25得点のメキシコ打線を抑えられるか(侍ジャパン応援特設サイトへ)

 米ラジオ局「wbur」電子版は、イチローが昨年8月7日の敵地ロッキーズ戦で達成したメジャー通算3000安打の金字塔を見続けるために、仕事を3つ掛け持ちして旅費を貯め、17日間でマーリンズの公式戦16試合をスタンド観戦した猛者が存在したと特集している。

「もう一度、あの機会がやってくるのならやるだろうね」

 記事でこう振り返っているのはシカゴ在住の33歳、ベン・ウェルズさん。生粋のカブスファンながら、2001年のイチローのルーキーイヤーからのファンでもあった。そして、メジャー史上30人目の偉業を達成する背番号51のその瞬間を見届けようと着想したのは、2015年の開幕戦のこと。スポーツ番組で、イチローがその時点で3000本安打まで156安打と報じていたのを見て、ひらめいたという。

「これは今年に達成することはなさそうだ。彼は数シーズン140安打以上を打っていなかった。彼はマーリンズの若くて素晴らしい外野手陣とプレーしているわけだし、(3000安打は)2016年に実現することになるだろう」

 そこで、2015年の開幕戦で家族や友人に対して、何があろうとイチローの3000本安打を目撃する、と宣言。そこから遠征費の準備に入ったと、記事の中で明かしている。日中はカーディーラーとして、夜はピザ配達員として、2つの仕事を掛け持ちしたというのだ。さらに、「実際には3つ目の仕事も見つけることになったんだ。週末には地元のりんご園で働き始めたんだ」とも“告白”。イチローのマイルストーンのために“3足のわらじ”を履くことになった。その時に向けて、ひたすら準備に没頭したことになる。

偉業達成までイチローを追い続けるも「ちょっとだけナーバスに」

 イチローは2015年に153試合出場も、打率.229と苦戦。シーズン91安打に終わった。予想よりも多くの出場機会に恵まれたが、後半戦に失速。残り65本で2016年を迎えることになり、開幕前には多くの米メディアで偉業達成への特集が組まれるなど、注目が集まった。

 記事によると、ウェルズさんはXデーは7月と算出。「おたくっぽい計算を全てやったんだ。そして、これだ。(7月)24日になるだろう。クールじゃないか。ホームスタンドなんて、完璧だ。間違いなく実現するだろう」。マーリンズは7月22日からマイアミで本拠地10連戦を予定していた。マイアミ行きのフライトに乗る時には3000本まであと4本と、“読み”は冴え渡っていた

 ただ、イチローはこの本拠地での連戦も代打での出場が続き、ヒットはなかなか生まれなかった。「クラウドファンディング」で資金援助を募っていた“世界一のイチローファン”、エイミーさんもマーリンズを追い続け、スタンドでは毎日のように日本のテレビ中継でも抜かれていたが、打席に立つ回数が少なければ、当然ヒットを打つチャンスも少なくなる。足踏みが続いた。

 本拠地10連戦でイチローに最初のスタメンの機会が訪れたのは、26日のフィリーズ戦。「彼らはやっと先発にしたんだよ」というウェルズさんの前で5打数1安打だった。心の中には「少し、ちょっとだけナーバスになり始めたんだ。これはどれぐらいかかるんだろう。自分が計画していた13日間で実際に実現するのだろうか、とね」と焦りが生まれ始めていたという。

 イチローは28日のカージナルス戦で代打で安打を放ち、カウントダウンは「2」に。その日の試合後、マーリンズは球団公式ツイッターでイチローが29日の試合に先発出場することを発表した。ここで達成が期待されたものの、4打数無安打と“沈黙“。マーリンズ・パークに駆けつけた多くの地元ファン以上にウェルズさんが落胆したのは想像に難くない。結局、マイアミで歴史的瞬間が訪れることはなく、シカゴでのカブス3連戦を観戦するために一時帰宅したと記事で振り返っている。

 しかし、シカゴで背番号51に1本もヒットは出ず、ウェルズさんは13時間の運転でデンバーへ。7試合連続無安打となっていたイチローはこの時、地元メデイアの取材に通訳を通じて「打席に向かうたび、プレッシャーを感じていますが、様々なタイプのプレッシャーがあり、これは違うタイプのプレッシャーです」と胸中を吐露したことを、地元紙「サンセンチネル」などが伝えていた。

「僕にとっても、達成感があったんだ」

 それでも、ウェルズさんの“イチロー行脚”15試合目で光明が……。背番号51は6日のロッキーズ戦で内野安打を放ち、ついに2999安打に。そして、運命の8月7日を迎えた。3連戦最終戦でヒットが生まれなければ、ウェルズさんはマイアミに戻ることになる。それは最悪のシナリオだったようだ。その際は、デンバーに車を置いてマイアミへのフライトに乗り、3000本安打が見られた場合はデンバーに飛行機で戻って、家まで再び13時間ドライブする予定だったという。

 イチローはこの試合に「6番・センター」で先発し、7回の第4打席でフェンス直撃の三塁打をマーク。史上30人目の通算3000安打を達成した。敵地で沸き起こるスタンディングオベーションの中、イチローはヘルメットを脱ぎ、歓声に応えた。

 苦難の時を過ごした格好のウェルズさんには、もはや他人事ではなかったようだ。「僕にとっても、達成感があったんだ。バカバカしく聞こえるかもしれないけれど、本当なんだ。(観戦したのは)17日間で16試合だったんだよ」。特集で紹介されているこのコメントからは、イチローの3000安打がファンにとっても感動的な瞬間だったことが伝わってくる。

 メジャー史に残る偉業について、イチロー自身も試合後の記者会見で以下のように振り返っていた。

「この2週間強、ずいぶん犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけど、あんなに達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3000という数字よりも僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した瞬間でした」

 偉業を見届けたウェルズさんのような熱心なファンの喜びも、イチローにとって、感慨に一層の深みを加えることになったのは確かだろう。(Full-Count編集部)