MLBでは今季からいわゆる「ワンポイント禁止」が採用に

 日米ともに新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が延期される未曾有の事態の中、海の向こうのMLBでは、今シーズンからある新ルールが適用されている。いわゆる「ワンポイント禁止ルール」。投手には3人の打者との対戦もしくは、イニング終了までの登板が義務付けられる。イニング間でのワンポイント登板ができなくなるというもの。この動きは、日米問わずさまざまな意見が交錯して物議を醸した。

 2020年現在、NPBでの導入は明言されていないが、思えば、2016年にはコリジョンルールを、2018年には申告敬遠をMLBにならって1〜2年後に導入。2018年から始まったリクエスト制度も、元々はMLBのチャレンジ制度を踏襲したものだ。つまり、来年の今頃には、日本でも同じようなルールが適用されている可能性は少なからずあるだろう。

 もしかしたら、今シーズン限りとなるかもしれない左キラーたちの活躍。そんな彼らの輝きを決して見逃してはならない。今回は、各球団の左キラー事情に迫る。

西武の小川は昨季、左打者よりも右打者との対戦成績が良かった

【西武】
 リーグ連覇を果たしたが、チーム防御率は4.35で2年連続リーグワースト。そんななか、昨季左の中継ぎとしてチーム最多登板を果たしたのが小川龍也投手だ。2018年に中日からトレードで加入すると、10試合連続無失点など救世主的な活躍でリーグ優勝に貢献。昨季は55試合に登板し、防御率2.58をマークするも、対左打者に被打率.292(対右には.188)と左キラーとは言い難い数字だった。それでも、7月以降は対左打者に被打率1割台をマーク。新背番号29を背負う今季は、左打者も抑えていきたい。

 これに続いたのが、佐野泰雄投手だ。タイ出身と異色の経歴を持つ佐野投手は、5年目の昨季にキャリアハイの44試合に登板。回跨ぎやロングリリーフを中心に、先発も二度こなすなど貴重な存在となった。ただ、対左打者の被打率は2割7分を超えるなど、左キラーとは言い難い存在か。

 新戦力としては、ドラフト2位ルーキーの浜屋将太投手に注目。渡辺久信GM曰く、「球速以上にキレのある」直球とスライダーを軸に投球を組み立てる実戦派の左腕で、インコースにも強気に攻め込むのがピッチングスタイルだ。オープン戦では3試合に登板し、6回を2失点8奪三振の成績。3月20日の練習試合では先発として4回1失点と、先発中継ぎどちらもこなせる器用さもアピール中の期待枠だ。

 また、決して忘れてはならないのが武隈祥太投手、高橋朋己投手の存在だ。武隈投手は、6年目の2014年に47試合に登板し、頭角を現すと、以降67、64、58試合登板と獅子投手陣に欠かせない存在に。勤続疲労の影響もあり、ここ2年は思うような結果を残せていないが、30歳とまだまだ老け込む年ではない。

 高橋朋投手は、2年目の2014年に63試合、防御率2.01、29セーブを挙げると、翌年も62試合に登板し、主に抑えとしてチームを救った。その後、2016年にトミージョン手術を受け、一時は復帰するも、2018年には左肩の痛みを発症。投げられない期間が続き、同オフには育成選手として再出発することに。迎えた昨季は、10月28日に約1年半ぶりに実戦登板を果たし、再起の真っ最中。メットライフドームでおなじみの「Follow Me」が流れ、苦難を乗り越えた背番号「43」が帰ってくる日もそう遠くないはずだ。リーグ3連覇に向け、2人の復活は重要なピースとなるだろう。

ソフトバンクの嘉弥真は球界きっての左キラー

【ソフトバンク】
 3年連続日本一となったソフトバンクでは2人の左キラーの活躍が光る。嘉弥真新也投手とリバン・モイネロ投手だ。嘉弥真投手は、6年目の2017年、投球フォームをスリークォーターからサイドスローに変え、左のワンポイントとして生きる道を決意。これが見事的中し、以降3年連続で50試合以上に登板。鷹のブルペン陣に欠かせない存在となった。昨季は対右に被打率.333だったのに対し、対左には.225と左キラーぶりを存分に発揮。プレミア12にも選出されるなど、球界No.1に近い左キラーといえよう。

 モイネロ投手は150キロ超のストレートに曲がりの大きなカーブを武器とするキューバ出身の左腕だ。2017年途中に育成選手として入団すると、6月に支配下登録され34試合に登板、防御率2.52で15ホールドをマークした。翌年は防御率4.53と調子を崩したものの、昨季復活。対左に被打率.174と左キラーぶりを見せつけるだけでなく、対右にも被打率.180と圧巻の数字。自己最高の60試合で防御率1.52とチームを救い、リーグ3位の34ホールドを記録した。

 他にも、最速160キロ左腕として期待値が高い古谷優人投手や、多彩な変化球が武器の田浦文丸投手、また、背番号140の渡邉雄大投手も2軍で好投。渡邉投手はサイドスローの変則的なフォームが特徴で、自粛期間前の3月20日のロッテ戦で練習試合ながら1軍戦に初登板し、1回1失点の内容だった。バリエーション豊かな若手左腕たちの突き上げで、さらなる底上げが期待できる。

【楽天】
 これまで松井裕樹投手が左キラーにとどまらず、クローザーとして君臨し続けた楽天。しかし、松井が先発に転向した今季は、その台所事情が一変。支配下登録されている左投手の人数が8人とロッテとともにパ・リーグ最少。果たして左キラー事情はどうなっていくのか。

 近年ブルペンを支え続けたのが高梨雄平投手はトレードで巨人に移籍。その高梨に続く存在として期待されるのが、3年目の渡邊佑樹投手だ。支配下としては12球団でただ1人の山梨県出身の左腕は、出どころの見にくいフォームからキレのある直球とスライダー、チェンジアップが主のピッチングスタイル。右打者だけでなく、左打者にもチェンジアップを投じる点が特徴だ。

 昨季は2軍で22試合に登板し、先発・中継ぎどちらもこなすと、被打率は対左の方が良い数字(対左.226、対右.318)で、防御率2.98をマーク。1軍デビューを果たした7月25日の埼玉西武戦では2者連続四球の後、外崎修汰選手、山川穂高選手、中村剛也選手の強力右打者たちを3者連続三振に切って取った。順調に春季キャンプの1軍メンバーに選出された今季は、まずは左の中継ぎとして1軍定着が待望される。

ロッテの屋台骨を支える松永は7年連続40試合超に登板

【ロッテ】
 ロッテでは松永昂大投手の貢献度が特筆すべきものだろう。2012年にドラフト1位で入団以来、7年連続の40試合以上登板を記録し、ロッテ投手陣の屋台骨を支え続けている。昨季は2度の離脱も、チームトップとなる25ホールドを記録。対左打者に対しては、驚愕の被打率.113とほぼ完璧に封じ込め、その左キラーぶりは健在だ。なお、2018年には節目の100ホールドを達成し、次なる目標150ホールドまでは残り18と射程圏内。通算9人目となる偉業達成にも期待がかかるシーズンだ。

 若手の成長株が成田翔投手だ。秋田商業出身、かつて甲子園で鮮烈な印象を残した本格派左腕は、今秋から腕を少し下げた新フォームに挑戦。勝負の5年目に左キラーとして活路を見出す覚悟だ。昨季はイースタンで2位タイの51試合に登板。防御率2.82と結果を残した。2018年の日米野球では、シーズンわずか5試合の1軍登板も、代替選手として稲葉監督から抜てきを受けるなど、そのポテンシャルの高さは折り紙付き。今季こそ1軍の舞台で活躍を果たしたい。

 同じく飛躍が期待されるのが永野将司投手。3年目を迎える最速154km/hの速球派左腕で、イースタンでは2年連続でイニングを上回る奪三振を記録。(2018:21回で29奪三振 2019:41回2/3で44奪三振)これまで腕を少し下げ気味だったが、今季はオーバースローにフォームを変更し、新たにツーシームの習得に励んでいる。永野投手は2019年に不安症の一種である広場恐怖症であることを公言。移動は自家用車が主で、電車は各駅停車しか乗れないという。マウンド上では快速球を披露し、チームの原動力となりたいところだ。

【日本ハム】
 北海道日本ハムでは、2019年からオープナーやショートスターターなど革新的な投手起用を取り入れた。ことの賛否についてはここでは明言を控えるが、先発投手が長いイニングを投じることが少なくなったことは、数字にも現れている。昨季の完投数はわずか1であるのに加え、先発投手の平均投球回は4.62と12球団最少だ。一方、救援投手の平均投球回は4.27と12球団トップだった。

 日本では前例のなかった起用法に戸惑う投手陣を支えたのは“鉄腕”宮西尚生投手。ルーキーイヤーから12年連続50試合以上登板を継続し、2019年終了時点で通算684試合に登板。前人未踏の300ホールドを達成し、今季は350ホールドに到達。最優秀中継ぎ投手のタイトルを3度受賞している球界No.1の左キラーだ。

 12年目の昨季は、55試合で防御率1.71、43ホールドをマーク。2年連続3度目の最優秀中継ぎのタイトルを受賞し、対左に被打率.221と、5年連続で3割以下に抑えただけでなく、対右に対しても被打率.158と4年連続5度目の対右被打率1割台を記録。右打者に対しても相性の良さを見せた。

 左キラーの印象が強い宮西だが、これまで12年間の平均被打率は対右打者の方が良いという少し意外な結果に。(対左打率.218、対右打率.214)むろん、打席数の差はあるが、左右問わず相手打者を手玉に取る球界随一の中継ぎ左腕といえる。

日ハム公文、オリックス海田らも左の中継ぎとして活躍

 また、公文克彦投手もブルペンに欠かせない存在。プロ初登板から182試合連続無敗の日本記録を打ち立てた「負けない男」。吉川光夫投手、石川慎吾外野手との交換トレードで大田泰示外野手とともに2016年のシーズン終了後に北海道日本ハムに加入。今季は7月末に怪我のために出場選手登録抹消となっており、復活が待たれる。

 昨季、さまざまな役割で奮闘した4年目の堀瑞輝投手も忘れてはいけない。シーズン序盤はブルペンで起用も、オープナーやショートスターターとして10試合に先発、中継ぎとして43試合の計53試合に登板した。8月4日、6日には、異例ともいえる2試合連続オープナー起用にも順応。オフには偉大なる先輩の宮西と自主トレをともにした。ここまで安定した成績を残しており、さらなる飛躍が熱望される。

【オリックス】
 オリックスでは昨季、海田智行投手が良い働きを見せた。2015年は48試合で防御率2.61、2016年には、50試合で防御率2.78と左キラーとしてフル回転したが、2017年に左ひじを手術。以降は登板数が減少していたが、2019年に復活。キャリアハイの55試合に登板し、防御率1.84で22ホールドを記録。カットボールを軸に打たせて取る投球スタイルで、今季もブルペン陣を引っ張りたい。

 これに続くのが、山田修義投手だろう。一時は育成落ちなど伸び悩む日々が続いたが、9年目の2018年8月に1軍に昇格すると、NPB最多タイの月間18登板を記録するなどフル回転。昨季序盤は2軍暮らしが続いたものの、7月に1軍定着して40試合に登板。ワンポイントから回跨ぎまでさまざまな役割を全うした。ここ2年、夏場のブルペン陣を救い続けている「夏男」のシーズンを通した活躍に期待したい。

 左キラー候補として注目したいのが、6年目を迎える齋藤綱記投手。2017年の秋、オーバースローからサイドスローへのモデルチェンジを果たした左腕はの武器は、出どころの見えにくいフォームから繰り出される変化量の大きいスライダーだ。ウエスタン・リーグでは2018年から2年連続で防御率1点台前半を記録するも、1軍ではなかなか結果を残せず。初の開幕1軍入りを果たした昨季も、11試合で7回9四球、防御率10点台と苦しんだ。課題の制球力を克服し、今季こそ左キラーとして名をはせたいところだ。

 以上のように各球団の左キラー事情を振り返ってみると、左の中継ぎと言えど一概に左打者が得意な投手ばかりだとは言いきれないことがわかる。実際起用する側としても、左打者はもちろんのことながら、右打者に対しても苦手意識なく投げてくれる中継ぎ左腕の方が望ましいことは確かだろう。それでも、左の好打者が多いパ・リーグという舞台で、彼らを一人一殺で斬って取る「必殺仕事人」の大和魂には、ロマンを感じずにはいられないのだ。今季限りで見納めとなるかもしれない彼らの勇姿を目に焼き付けてほしい。(「パ・リーグインサイト」岩井惇)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)