4シームと並ぶ速球の代表格、2シームで打者を翻弄

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第7回 2シーム】

 暦は8月に終わりを告げ、いよいよ9月を迎える。60試合という超短期シーズンで行われている今季MLBは、早くも後半戦に突入。頂点を目指し、投手と打者は1球1球、手に汗握る真剣勝負を繰り返している。

 打者が会心の一撃を放った時と同様に、観る者が胸のすく想いをするのが、投手が「魔球」を繰り出す瞬間だろう。並み居る強打者が為す術なくアウトを宣告される「魔球」の中から、毎回1つの球種にフォーカスを当ててお届けするのが「お股ニキが選ぶ3+1・MLB編」シリーズだ。野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、魔球の使い手「トップ3」と要チェックの「プラス1」を加えた4投手を独断と偏見で選び、ご紹介する。

 今回は、4シームと並ぶ速球(ファストボール)の代表格「2シーム」だ。ボールが1周スピンする間に縫い目(シーム)が2回通過するため、2シームと呼ばれている。4回通過する4シームよりもスピン量が低下するため、球速は大きく変わらないままボールが曲がったり落ちたり変化。投手によって、ボールを握る際に指をわずかにずらしたり、リリース時にかかる指の力加減を変えてみたり、独自の変化をつけている。果たして、お股ニキ氏は現在のメジャー投手の中から「2シーム」の使い手として誰を選んだのだろう。

(データソースはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】ランス・リン(レンジャーズ)右投
回転効率85.1% 平均球速92.8マイル(約149.3キロ) Spin Axis 2:04 2308回転 
空振り率7.4% 投球割合17.2% 被打率.325(→.000) ピッチバリュー/100:-0.9(→3.5)
※()内は2020年の数値
 
 昨季レンジャーズでエースクラスの投球をしていたランス・リン。rWAR7.5は、ナ・リーグでサイ・ヤング賞に輝いたジェイコブ・デグロム(メッツ)の7.6に迫り、ア・リーグでサイ・ヤング賞を獲ったジャスティン・バーランダー(アストロズ)の7.4を上回るハイレベルな投球だった。ややまっスラ気味の4シームを中心にスライド気味に落ちるカッターをメインとしつつ、スプリームのようなシュート側に落ちる2シームを投げ分け、ピッチトンネルを形成して左右に曲げ落とす「スラット・スプリット型投球」を展開していた。

 昨季の指標はさほど良くなかったハードシンカーが、今季は大幅に改善。引き続き、4シームとカッターが中心な投球ではあるものの、12%の割合で見せるハードシンカーが効果的で、現地8月30日現在、防御率1.93、4勝1敗の大活躍。さらなる進化を見せている。トレードで獲得したサイ・ヤング賞投手コーリー・クルーバーを押しのけて、開幕投手に起用される理由が分かるというものだ。

 2シームやスプリット、チェンジアップは結局、シュート幅が大きいか、落差が大きい方が有利であるため、2シームもリンのように落とせるといいようだ。

シュート幅の大きいバシット、日本人投手も参考になるグレイ

【2位】クリス・バシット(アスレチックス)
回転効率86.3%(4シームを含む) 平均球速93.04マイル(約149.7キロ) Spin Axis 1:52  2146回転
空振り率15.0% 投球割合41.49% 被打率.235 ピッチバリュー/100 2.1

 トミー・ジョン手術を経験し、昨季はアスレチックスで先発投手として初の2桁勝利を挙げたクリス・バシット。2シームとカッター、カーブ、チェンジアップをメインとしたオーソドックスなピッチング構成で、今季も防御率3.72、2勝2敗と好調だ(現地8月30日現在)。

 昨季メジャートップの指標を記録したバシットの2シームは、以前話題になったお股2シームに近い感じで横の変化量が大きなシュートのようなボールである。鋭く切れ込む変化で空振りやフライ、コーナーでは見逃しを奪うことができる。バシットの2シームはリンのものとは違って落とすのではなく、シュート幅を大きくしていくタイプである。

【3位】ソニー・グレイ(レッズ)右投
回転効率68.2%(4シームを含む) 平均球速93.69マイル(約150.8キロ) Spin Axis 1:38  2440回転
空振り率5.7% 投球割合18.88% 被打率.233 ピッチバリュー/100:1.6(→2.6)
※()内は2020年の数値

 ソニー・グレイは元々、アスレチックスでデビューした当初から好きな投手で、ミゲル・カブレラやジャスティン・バーランダー、マックス・シャーザー擁する黄金期のタイガースとプレーオフで対戦する姿をよく目にしていた。近年は停滞も感じていたが、フォームが良くなり、日本の投手にも大変参考になるという。

 投手としてのタイプは山岡泰輔投手(オリックス)のようなイメージで、小柄ながらややまっスラ気味の4シームとパワーカーブのようなスライダーをメインとするピッチング構成だったが、今季は2シームの指標が抜群だ。見方によっては、速球の回転効率を少し下げるためにボールの中心を叩かず、やや右側を擦るように意図して投げているとも言える。

 2シームの使い方もまた絶妙だ。左打者にはフロントドア2シーム、右打者にはバックドア2シームとなるように、ベースの一塁側いっぱいを上手く使っており、制球力に加えてキャッチャーのフレーミングとの相性も見事で、多くの見逃しを奪っている。

ダルビッシュの“スプリーム”に近いアンダーソンの2シーム

「プラス1」として、マディソン・バムガーナー(ダイヤモンドバックス)やサンディ・アルカンタラ(マーリンズ)、マイク・ソロカ(ブレーブス)らも候補に挙がるが、ソロカはアキレス腱の怪我で今季絶望となってしまったため、変わり種としてブレット・アンダーソン(ブルワーズ)を選出することにした。

【プラス1】ブレット・アンダーソン(ブルワーズ)左投
回転効率80%(推定) 平均球速89.94マイル(約144.7キロ) Spin Axis 10:01 1798回転
空振り率5.6% 使用割合43.81% 被打率.295 ピッチバリュー/100:-0.2

 トータルでは驚くほどの成績ではないが、昨季は2シームの指標だけずば抜けて高かった。密かに注目していたが、ダルビッシュ有(カブス)がスプリームを開発した際に真っ先に思い起こした投手だ。ややシュート気味に沈む2シームはスプリームのような性質を持っているが、回転数はやや少なめである。4シームのような軌道から、わずかにシュートしながら沈むボールで、多くの空振りやゴロでの併殺を奪った。

 おおよそ、右投手なら水平面に対するボールの傾きを示すTILTが2:00前後(左なら10:00前後)で、回転数2000rpm前後、球速90マイル(約144.8キロ)超、回転効率80%前後のボールを、データ上では「スプリーム」と定義できそうだ。2シームより少し指を開き、スプリットよりは閉じて、中指で最後にリリースするイメージかもしれない。ジャイロシンカーならスラッターのような投げ方で手前右下(左投手なら左下)をリリースする方法もありそうだ。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。(お股ニキ / Omataniki)