NPB球団初の公認女子チームが全日本女子硬式クラブ野球選手権に初出場初優勝

 10月31日。ハロウィンの装飾が施された千葉・袖ケ浦市営球場で、第15回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会決勝が開催された。エイジェック(栃木)を2-1で下し、参加14チームの頂点に立ったのは埼玉西武ライオンズ・レディース(埼玉)。球団創設1年目、初出場で初優勝の快挙となったが、チームを率いる新谷博監督は試合後、「ホッとしてますよ」と安堵の笑みを浮かべた。

 埼玉西武ライオンズ・レディースはNPB加盟球団が公認する初めての女子硬式野球クラブチームとして、今年1月に発足。メンバーには2018年の女子W杯で主将を務めた出口彩香、六角彩子、里綾実、清水美佑、志村亜貴子ら、日本代表経験者が名を連ねる。さらには、埼玉西武ライオンズと同じデザインのユニホームを着用したり、練習では球団施設を使用できたりと、周囲から「強くて当然。勝って当然」と見られる要素は多々。それだけに、優勝して嬉しいという率直な気持ちと同時に、胸をなで下ろす思いがしたのだろう。

 もちろん、選手、監督・コーチらはみんな「負けられない。恥ずかしい試合はできない」という思いを持って、この大会に臨んでいた。「今年は1年目だから『なんだ、負けちゃうんだ』っていうことは言われたくなかった」という新谷監督は、こう続けた。

「ライオンズのユニホームが一番プレッシャーですよ。でも、それがなければライオンズでやる意味がない。他のチームにはない『ライオンズ』っていう名前のプレッシャーが、逆にモチベーションにならないと。ユニホームがプレッシャーになることなんて、生きていて、なかなかないこと。特に女子はね。いい経験ですよ」

 決勝の大舞台で先発マウンドに上がり、7回1失点完投でMVPに輝いた清水は「ライオンズの一員だっていう自覚が野球だけじゃなくて、日常生活にも生まれてきました」と話す。

「まだまだ自覚が足りないですけど『見られている』という意識はあります。身内じゃない方が応援して下さることって女子野球ではなかなかないんですけど、応援して下さる方もかなりいて、それが力になります。疲れていて『今日はもう練習はいいかな』と思っても、頑張らなきゃって思いますね。恥ずかしいプレーはできませんから」

1軍と2軍を完全に分けて活動「厳しいけど、その方がスッキリする」

 チーム発足1年目だというのに、コロナ禍により早々に活動自粛に追い込まれた。4月から6月までの3か月間は全体練習ができず自主トレーニングの日々。選手同士でLINEをしたり、新谷監督の音頭でオンラインミーティングを開いたり、何とかコミュニケーションを図ったが、チームとして活動再開後まもない頃の様子を、主将の出口は「今までキャプテンをいろいろなチームでやらせてもらったんですけど、一番と言っていいほどチーム力がなかったです」と振り返る。

「個々のポテンシャルだけで野球をやっていたので、それが自分の中で一番不安だったんですけど、しっかりコミュニケーションを取りながら練習を重ねるうちに徐々に打ち解けられて、チームの雰囲気が変わった。この大会に入った時も、盛り上がるところは全員で一体感が感じられたので、チームとして成り立ってきたと思います。チーム力と個々の力が一致した時にはパワーが出るな、と」

 チームが成長した背景には、新谷監督の大きな決断が1つあった。それはチームを1軍と2軍とに完全に分けること。2軍の指導は田口紗帆コーチに任せて、練習から別メニューで臨んだ。この効果が絶大だったのだ。

 日本代表クラスの選手もいれば、高校を卒業したばかりの選手もいるため、チーム内に大きな実力差があった。基礎技術をアップさせるべき選手と、必要な箇所のブラッシュアップをすればいい選手とが、同じ土俵の上に乗れば歪みは生まれてくる。そこで新谷監督は1軍と2軍に分けて、それぞれがやるべき課題に集中させた。

「1軍と2軍を完全に分けました。男子では当たり前だけど、女子野球ではこんなことはないですよ。でも、これで辞めるようなら、最初から入ってくるな、と。厳しいけど、その方がスッキリする。1軍がエラーすれば『何やってるんだ』となるし、2軍は1軍に負けまいと一生懸命練習するし。(チームの)信頼度が全然変わりましたね」

 それまでの練習試合では、控えの選手は試合後半からレギュラーに替わって出場していたが、1軍と2軍を作ってからは、第1試合は1軍、第2試合は2軍と、試合も完全に分けた。おかげで控えだった選手の出場機会が増え、より自分が取り組むべき課題や目標が明確になったという。出口は「1軍と2軍に分けて、1軍は自覚が出ましたし、2軍は追いつこうと頑張った。効果は大きいと思います」と話す。

新谷監督が願う女子野球界の活性化「今までやってきたチームは諦めないでほしい」

 決勝でもまた、チーム内の役割分担は明確だった。先発出場する1軍メンバー、そしてバックアップとして常に準備を整えておく2軍メンバー。新谷監督は「試合前もスタメンは責任を負わなくていいって言いました」と明かす。

「後ろ(控え)にいっぱいいるから、ダメだったら替わればいいんだよ。思い切ってやってこい。いい時もあれば悪い時もあるんだ、人間は。悪い時は『どうしよう、どうしよう』じゃなくて、替わればいい。それくらい気楽にやれって言いました」

 前日に先発を言い渡された清水は、ベテラン投手・里が待機していることで「最後の方でスタミナ切れても、里さんがいるって、心の余裕が持てました」。さらに「ランナーを出してもホームに返さなければいいし、ホームを踏まれても、こっちが1点多く取っていればいいんだ」という監督のアドバイスもあり、2点をリードする3回に1死満塁のピンチを迎えたが、犠飛による1点を許したのみ。4回以降は二塁を踏ませることもなかった。

 NPB球団の名前を冠するチームが優勝したことで、女子野球は「新たな一歩」を踏み出した。来年は阪神タイガースにも女子硬式野球チームが発足。尚美学園大学でも指揮官を務める新谷監督は「今まで女子野球をやってきたチームは諦めないでほしい。『私たちも行くぞ! あそこに勝つぞ! 負けられるか』と続いてほしいですね」と、女子野球界全体が活性化されることを期待する。

 子どもの野球離れが話題となる中、小学生で野球をプレーする女の子の数は増えている。野球を愛する少女たちが1日でも長く野球を続けられる環境を整える上でも、埼玉西武ライオンズ・レディースの参入、初優勝は女子野球界が変わる大きなきっかけとなりそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)