球数制限めぐり専門家議論、変化する親&指導者の意識

 日本野球科学研究会は、野球競技の普及・発展に寄与するために、指導現場と研究者間での情報の流動性を高めることを目的とした団体だ。その第5回大会が、神戸大学で始まった。2日目の12月17日に行われたシンポジウム3のテーマは「投手のコンディショニングを考える-投球数の制限をめぐって」。学生野球のあり方をめぐって、健康面を中心とした発表、議論が行われた。

 コーディネーター、シンポジストの高田義弘氏は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科からだ系講座の准教授。神戸大学野球部の元監督でもある。

 高田氏は、甲子園での登板過多で投手としての前途を断たれた大野倫氏の現況を紹介し、学生野球のあり方を変革する必要性を訴えた。高田氏は政府が推進するNCAA日本版創設に向けた関西地区大学スポーツ振興検討会の幹事として、大学スポーツの健全化に努めている。

 現在の大学スポーツは、特に推薦入試の場合、競技の成果を重要視して、一般の学業をあまり重視していないが、NCAA日本版創設にあたっては、学業とスポーツの両立を目指さなければならないと説く。練習時間を制限するとともに、学業成績の基準を設定し、文武両道を目指す学校を支援していく必要がある。推薦入試での成績基準の厳格化によって、高校での長時間の練習漬けが解消されると述べた。

 さらに、大学でも、授業との兼ね合いを考慮し、基準の成績に満たない選手は練習・試合に参加できないようにするなど、学生アスリートの学習支援、キャリア形成へ向けた改革が必要だとした。

 一方で、学生スポーツの事故防止、メディカルサポートの充実も必要だ。野球ではトーナメントではなく、選手をつぶさず経験を積ませるためにリーグ戦が望ましいとし、投手は投げ込みのリスクを回避して「作るより自然に育てたい」と語った。

「肩肘が壊れる環境で野球をさせるのは罪深い」「予防のためには投球制限が必要」

 こうした改革を進める上での課題は、野球の場合、各リーグが独立した存在であり、統一見解を持っていないことがある。さらには大学スポーツ全体でも、広範な理解が必要だと説く。高田氏は「野球人の肩肘が壊れる環境で野球をさせるのは罪深い、安心して野球できる環境を作っていきたい」と締めくくった。

 シンポジストの正富隆氏は行岡病院副院長(整形外科)、手の外科センター長、阪神タイガースのチームドクターとしても知られる。「成長期の野球肘は、痛みなく発症して気がつくときにはすでに遅い。予防のためには投球制限が必要」と主張する。

 1993年から、甲子園の高校野球では大会前検診を行うようになった。正富氏はこの担当医だ。テスト運用を開始した93年には、何らかの痛みがある選手が半数以上、投球禁止の選手もいたが、翌年以降は禁止規定が高校の間に浸透し、有症状者が減った。甲子園に行くときに炎症を起こしている選手を連れて行っても、投球禁止になるから無駄だという意識が広まったと語った。

 これと同時に、高野連は複数の投手の育成を推奨し、94年にはベンチ入り人数を増やした。一連の施策には一定の効果があったという。

 ただ、肘の故障は高校の時点ですでに発症していることが多いため、予防できない。最近は、小中学校で酷使して障害を残している子が増えているのでは、と懸念を語る。これを防ぐためには、小中学生で予防するのが重要だとした。

桑田真澄氏も投球制限ヘ向けてエール

 正富氏は、成長期の少年に球数制限が必要であることを証明するために2014年から少年野球の選手にアンケート調査を実施したという。そこからは投球数や全力投球と痛み、故障の間に一定の相関関係がみられ、球数制限が必要であると結論付けられた。これを基に球数制限に関する提言がなされたが、少年野球の現場で全面的に受け入れられるには至っていない。

 しかし、親や指導者の意識は変化しつつある。1995年当時は、もっとやらせたいという親がいたが、最近は自分の子供を守りたいという親が増えた。また、親と子供の意見を聞いて大事に思う指導者が増えてきた、と紹介。野球界全体として障害予防の意識は高まっていると締めくくった。

 質疑応答では、甲子園の日程変更の話や、ソフトボールの球数制限など、広範なテーマが議論された。また、桑田真澄氏からも肩・肘の障害予防のためには投球制限しかない、ぜひこの研究会から科学的なデータをもとにした投球制限の指標を出して欲しいとエールがあった。

 コーディネーターの高田氏は「投球制限を反対する側からは、常に、これは野球じゃない、試合が成り立たないという意見が出るが、今後は、これが野球だ、これが将来につながる野球だという認識を広めていきたい。そしてこの研究会から投球制限に繋がる科学的なデータを出したい」と結んでいた。(広尾晃 / Koh Hiroo)