文=在英ジャーナリスト
小林恭子

「まさか、そんなことが……」

 6月8日午後10時過ぎ、英国に住む多くの人がそう思ったに違いない。この日行われた総選挙で、メイ首相率いる与党・保守党が第1党にはなったものの過半数の議席を取れないと出口調査が割り出したのである。9日未明、この予想が的中したことが判明した。

 2大政党制が長い英国では、保守党か労働党か、どちらかが下院で過半数の議席を取ることで政権が成立してきた。どの政党も過半数を取れないとなると「宙ぶらりんの議会」となり、政局は不安定となる。

 特にショックが大きかったのはメイ首相だ。最大野党・労働党との議席差(選挙前は約100)をさらに拡大させるために解散・総選挙をよびかけたのはメイ首相だ。「ブレグジット(英国の欧州からの離脱)交渉を成功裏に進めるために、私に投票して!」と呼びかけた。実際には拡大させるどころか、差を縮小させてしまったのである。

 選挙戦では保守党の選挙公約にケチがつき、メイ氏はメディアのインタビューで「強い、安定した政権を作りたい」と紋切り型の表現に徹した。テレビ番組のなかで市民から質問をされても優等生的答えに終始。「ポロリと本音を見せる」部分がなかった首相とは正反対だったのが「どこにでもいる初老のおじさん」的な労働党党首のコービン氏。党首就任前は万年ヒラ議員で、反戦、反核のキャンペーンに熱中してきた。市民との対話や異なる意見を持つ人を巧妙に説得するのは、お手の物だ。選挙公約には大学の学費を無料化するなど若者向けの政策を取り入れて、普段は投票に行かない若者層の取り込みに成功した。報道陣の鋭い質問にも落ち着いて、自分の言葉で切り返した。選挙戦直前は保守党との差は20ポイントあったが、投票日直前には数ポイントに大幅縮小。過半数は取れなかったものの、有権者票の40%を獲得し(保守党は42・2%)、労働党を大躍進させた。

 そんな選挙戦の行方について、新聞各紙はお家芸ともいうべき風刺、ユーモア、ダジャレを使って読者を楽しませてくれた。