役者業のほか、映像作品の制作や文筆業など活動の幅を広げて活躍する小川紗良さんの長編初監督作となる映画「海辺の金魚」が6月25日(金)より公開。児童養護施設で暮らす少女たちの世界と心の成長を描いた人間ドラマを手掛けた小川監督に、作品に対する思いや今後の展望などを伺いました。

 

◆長編監督デビュー作で、身寄りのない子供たちを描いた理由は?

「女の子が自分の人生を歩みだす瞬間を描きたい」というのが最初にありました。そして自分が以前から身寄りのない子供たちを描いた作品やドキュメンタリー、本などに関心があったこともあり、このような設定になりました。

 

◆小川監督がこれまで撮られてきた短編映画のように、青春映画の要素もありますね。

もちろん青春と言える要素もあると思いますが、今回はどちらかというと、18歳で施設を出ないといけないタイミングで主人公の過去や未来について、そして自立について葛藤していく姿を描けたらいいなという気持ちが強かったです。

 

◆師である是枝裕和監督からの言葉やアドバイスはあったのでしょうか?

是枝監督は大学時代の先生で、いろいろお世話になった恩師ですので、制作過程で自然と教えが生きていたことは多々あると思います。一度だけ脚本を読んでもらってアドバイスを頂き、また是枝さんの作品をあらためて見返したりもしました。

 

◆短編「最期の星」に続き、小川未祐さんを主演に起用されました。

私が大学生の時に「最期の星」を撮ったのですが、久々に再会したら彼女は18歳になっていました。その時に18歳なりの葛藤だったり、野望のようなものだったり、今抱えている思いみたいなものを聞き、その揺れ動く彼女の等身大の姿をまた映画の中で描いてみたいと思ったんです。つまり彼女ありきで、この作品が始まったと言えます。

 

◆役者としても活躍されている小川監督から見て、小川未祐さんの役者としての魅力は?

初対面は「最期の星」のオーディションだったのですが、たたずまいがしっかりしていて、凛とした空気を持った子だなというのが第一印象でした。その印象は今でも変わらないです。あと今回の作品を撮っていた時期は、あどけなく見える時もあれば、大人っぽく見える時もあって、そのアンバランスさもいいなって思いました。

 

◆ちなみに、小川監督自身が本作に出演されなかった理由は?

学生時代に撮った短編2作には出演したのですが、それ以降は出演しないことに決めています。やはり現場で出演しながら監督すると自分が混乱してしまうので(笑)。今は、監督の時は監督に専念したい気持ちが強いです。それに自分で脚本を書いて、自分で監督して、自分で出るとなると、世界観が自分の範疇だけに閉じこもってしまうような気がして。いろいろなことを人に委ねてみることで、予想外に広がっていく面白さを追いかけてみたい気持ちもあり、今は役者を他の人に委ねています。

 

◆「BEATOPIA」(ビートピア)に続き、鹿児島県阿久根市をロケ地に選ばれていますが、阿久根市の魅力は?

昔から知っている土地なのですが、学生時代に「BEATOPIA」を撮った時に、自分が小さいころから知っていた面だけでなく、知らない場所や知らない人に触れることができ、阿久根市がもっと好きになったんです。決して大きな町ではありませんが、今まで見えなかった魅力が見えたので、再びそこで映画を撮ってみたいと思いました。海に囲まれた自然だったり、東京ではなじみのない、みんなで円卓を囲んで食べるそうめん流しのお店だったり、いろいろな魅力があると思います。

 

◆子供たちを多く起用した現場だったと思いますが、そんな中での撮影エピソードを教えてください。

晴海役の花田琉愛ちゃんを含めて、子供たちは子役ではなく、普通に阿久根市で暮らしている子をオーディションで選びました。私自身これまで日常生活で子供と関わることがほとんどなかったので、最初はどうしたらいいか分からないことがいっぱいありました。その後、一緒に遊んだり、会話を重ねたりしたことで、ちょっとずつ子供たちとの距離が分かっていきました。琉愛ちゃんとは、衣装の浴衣などを地元のお店に一緒に買いに行きました。

 

◆ほかに、苦労されたことはありますか?

短編作品とは長さや物語のうねりなど脚本を書く段階から違うので、今回あらためて脚本の勉強をし直しました。また長編は観賞後も見ている人の余韻が続いていく感覚が強いので、単に作品としてまとめるのではなく、見えない余白の部分まで想像できるような作りにしたい思いがありました。

 

◆完成した本作の満足度、そして次作に懸ける意気込みはいかかですか?

規模は小さいとは言え、初の商業映画としてオリジナルの長編を撮れることは、かなりぜいたくなことだと思います。また、規模が小さいなりに信頼できるスタッフやキャストの方々に集まってもらい、とても人に恵まれました。自分の初めての長編作品として、胸を張れるものになったと思っています。短編なりの挑戦も楽しいですが、多くの人に映画館で見てもらうということを考えると、この後も長編は撮りたいです。また、今回子供たちと関わったことでいろいろ発見もあったので、今後も子供が出てくる作品を撮ってみたいと思っています。

 

◆今後、どのような監督を目指していきたいですか?

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」のグレタ・ガーウィグ監督や「悲しみに、こんにちは」のカルラ・シモン監督、「はちどり」のキム・ボラ監督など、海外の女性監督が撮っている作品に興味があるんです。私も文化や言語を超えて、そういう作品と並ぶことができるような作品を作っていきたいです。

 

◆映画公開に併せ、連作短編集「海辺の金魚」で小説家デビューもされました。

映画を撮った後に小説として書いた作品ですが、映画とはかなり違う部分もありますし、映画では描かれていない先の物語も書いています。1人で黙々と書く小説だからこそ広げられる世界もある、ということに気づかされました。日本では西川美和監督がやっているように、先に小説を書いて、それを基に映画を作る挑戦もしてみたいと思いました。

 

PROFILE

小川紗良
●おがわ・さら…1996年6月8日生まれ。東京都出身。B型。主な出演作に連続テレビ小説『まんぷく』、『アライブ がん専門医のカルテ』『名建築で昼食を』、映画「イノセント15」「ビューティフルドリーマー」など。監督作には映画「あさつゆ」「BEATOPIA」「最期の星」がある。

 

作品紹介

映画「海辺の金魚」
2021年6月25日(金)より東京・新宿シネマカリテほか全国公開

(STAFF&CAST)
監督・脚本・編集:小川紗良
出演:小川未祐、花田琉愛、芹澤興人、福崎那由他、山田キヌヲ

(STORY)
児童養護施設で暮らす18歳の花(小川)は、施設で最後の夏を迎えていた。そこに8歳の少女・晴海(花田)が入所してくる。かつての自分を重ねた花は、晴海との交流の中で、今までになかった感情が芽生えていく。

©2021東映ビデオ

●photo/関根和弘 text/くれい響