腕時計ファンの方が常々疑問に思っていても、なかなか正解を尋ねる機会がないのが“機構や構造”に関する専門的な疑問ではないでしょうか? 今回は、腕時計あるあるのひとつ「クロノグラフの値段によって生じるムーブメントの差」について、見ていきましょう。

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部品の仕上げや装飾の差は歴然

高級ムーブには精密計測するための「機械式時計最高峰」の工夫が満載です。クロノ機構はもちろん調速・脱進機構にも、精度や安定性、作動性を高めるテクノロジーが凝縮されています。また、特に部品の仕上げや装飾性はその差が顕著に出るもの。部品ひとつに至るまで、手作業で入念な装飾や研磨が施され、22Kなど贅沢素材もローターなどに採用されています。逆に言えば、それら装飾性を排し、必要機能に特化した普及版のムーブは、低コスト化によりコスパを実現しているのが魅力です。

 

【部品の装飾や仕上げ】

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右はクロノグラフの汎用ムーブとしてベストセラーを記録するETA7750の、低グレード版。左はスイス時計界でも最高峰と称えられるパテック フィリップのクロノムーブ。右が必要最低限の表面梨地仕上げで部品の面取りがほぼ行われていないのに対して、左はブリッジやローター、地板などにコート・ド・ジュネーブやペルラージュ装飾。各部品の細部にも研磨が施されるなど、美しさの違いは一目瞭然です。

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ブリッジの角などに施された面取り加工は、高級ムーブ(左)が熟練職人により手作業で滑らかに仕上げられているのに対し、普及版(右)は粗削りで毛羽立った印象。ブリッジ面全体も、高級ムーブの場合は素材表面に丁寧な下処理が加えられた後、専門職人が研磨剤と木製のディスクなどを用いて、素材表面に極薄な曲線状の陰影紋様(コート・ド・ジュネーブ)が丁寧に描かれてています。

 

【クロノグラフ機構部】

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クロノのスタート&ストップを制御する部品は、高級機(左)がコラムホイール、普及機(右)がカムを採用。カムは板部品を重ねたシンプルな構造なので量産に適していますが、コラムホイールは緻密な歯車の製造や組み立てに手間がかかるため、主に高級機に採用されます。

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クロノを帰零させるリセットハンマー。普及機(右)はカムと同じく量産パーツを組み合わせてあるのに対し、高級機(左)は各部品とミクロン単位でピッタリ符合するよう専用設計&一体成型のパーツを採用。作動時のわずかな時間差(ズレ)を防ぐ工夫がなされています。

 

【テンプ、調速機構、石】

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テンプと調速機構は、右が一般的なスムーステンプと緩急針(+や−方向へレバーを左右させてテンプの速度を調整する)方式を採用。左は、テンプの輪の部分に設置されたCリングを回転させることで、微細な精度調整が可能なジャイロマックス方式を採用しています。

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機械式時計は、歯車の軸を受ける部分に摩耗を防ぐため人工ルビーなどが設置されます。右の普及版は、ただ人工ルビーが入る穴を開けているだけの仕様ですが、左の高級版は穴の角がキレイに面取り加工された後、表面を綺麗な鏡面に仕上げています。

 

部品の装飾や仕上げひとつをとっても、これだけ差が出てくるのがおわかりいただけたでしょうか?スイスの超高級ムーブメントは手作業で研磨や面取りなどが行われます。そのため熟練職人と伝統技法が豊かに盛り込まれる=手間と労力が惜しみなく費やされているということなのです。

 

次回は、夏のレジャーに欠かせないダイバーズウオッチと一般モデルの構造の差について探っていきます。