街中華を語るうえで欠かせない街のひとつが浅草だ。日本におけるラーメン店の元祖「来々軒」が存在していた地であり、歴史深い歓楽街のため老舗飲食店はどこも実力派で街中華も言わずもがな。そんな浅草における、焼き餃子のパイオニアが今回の舞台である。名は「餃子の王さま」。

 

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↑「餃子や」として1954年に創業。のちに常連が言った「ここの餃子は餃子の王様だね」がきっかけで現在の店名に

 

名物はやはり焼き餃子で、ほかにも数種の餃子を提供しているが、つまみや麺飯類も豊富な正統派の街中華である。そして、「ミシュランガイド東京」の餃子カテゴリーで3年連続ビブグルマンに選ばれている数少ない街中華なのだ。名実ともに認める“キングオブ餃子”、その魅力をお伝えしよう。

 

揚げ焼きなのに重くない。あっさり野菜なのに軽くない

フラッグシップは「王さまの餃子」。創業時より変わらない伝統のレシピで生み出される傑作だが、見た目も味わいも一般的な餃子とは違い個性が際立っている。生地同士がピシっとそろった、餃子のお手本のような美しいフォルム。多めの油で揚げ焼きしたことが分かる、こんがりとした焼き面。それでいて重くないのは、あんのほとんどが野菜だからであろう。

↑「王さまの餃子」420円。まずは何も付けずに味わいたいが、自家製ラー油を使った酢じょうゆもお試しあれ。なお、お土産餃子は小900円、大1300円

 

具材のバランスは野菜が9で豚肉が1。あっさりとした味わいで、何皿でもイケそうなあきないおいしさに仕上がっている。だが、これはただのあっさり餃子ではない。野菜や肉の甘味やコク、油でカリッと焼かれた生地のうまみなどもしっかりと主張し、非常に好バランスなのだ。

↑この餃子は1〜2分で手早く焼き上げるのもポイント。これにより、フレッシュで味の凝縮した激ウマ餃子になる

 

また、あんの食感も唯一無二といえるシルキーな口どけで驚かされる。これは野菜が非常にきめ細かく刻まれているから。しかもこれだけ細かいにもかかわらず、ベチャっとした水っぽさは皆無。パンチのあるクリスピーな生地のなかに、なめらかなテクスチャーの優しい甘さのあん。この味のメリハリが、だれもたどり着けない王者の境地なのだ。

↑大量の注文に対して作る量も尋常ではないが、その所作はきわめて丁寧。あんをやさしく閉じ込めるように握り(同店では餃子を「包む」ではなく「握る」という)、芸術的な餃子が完成する

 

野菜はキャベツ、にら、にんにく、しょうがを微細に刻み、しっかりと水を切る。キャベツに関しては葉と芯で食感が異なるため、切り方にも工夫してひとつのまとまりに。また、季節や産地によって味が変わるため、味付けは都度調整。にんにくはうまみ豊かな青森産を、においが出ないように生ではなくひと手間加えて調合。

 

こうして65年以上前から作り続けられている「王さまの餃子」。同店にはこのほか約20年前に二代目が生み出した「湯餃子」420円、「肉餃子」500円、「スープ餃子」750円もある。これらは「王さまの餃子」とはあんが異なり、具材は豚ひき肉をメインに玉ねぎ、にら、しょうが。肉のパンチがあるため、あえてにんにくを使わないのもポイントだ。

↑「スープ餃子」750円。キャベツ、にんじん、青菜、きくらげなどが入った滋味深い鶏ガラスープには溶き卵も。そのなかに、プリっとジューシーな肉餃子が6個入り食べ応え満点だ

 

先人の味と想いをいまに伝える三代目の心意気

その他の餃子も紹介したいところだが、本連載はあくまでも「街中華の名店」。ということで、ここからは一般的な中華メニューを紹介していこう。飲みにも、ご飯のお供にも最適なのが「ニラレバいため」だ。

↑「ニラレバいため」780円。豪快にカットされたレバーが、みずみずしい野菜とプリシャキのコントラストを生んでいる

 

特筆すべきはレバーのサイズとやわらかさ。小さくカットし、火入れや味付けで素材の悪さをごまかすニラレバもあるなか、同店はそんな邪念を笑い飛ばすかのような大きさとプリプリ感。くさみもなく、鮮度のよさが明確にわかる。また、シャキッとしたもやしもたっぷりで、野菜がとれるのもうれしい。はっきりいって、主役を張れるレベルのおいしさだ。

 

次は麺飯メニューから一品紹介。ピックアップしたのは「もやしそば」だ。こちらももやしを中心ににんじん、きくらげ、青菜と野菜がたっぷり。とろみの付いたやさしいスープが五臓六腑にしみわたり、寒い日でも体を芯から温めてくれる。

↑「もやしそば」750円。ゆるやかなウェーブのかかった中細麺が、とろみのあるスープによく絡む

 

ちなみに餃子の皮や麺は長年、現店主と同級生の実家の製麺所に発注していたが、閉めるということで、同じクオリティを再現できる製麺所へ切り替えることに。新たな取引先は、超人気ラーメン店からも信頼を置かれている「浅草開化楼」だ。

 

製麺所だけでなく、家族経営が多い街中華も後継者不足が課題の生業である。肉体労働かつ薄利多売と、決して楽な仕事ではない。老舗の「餃子の王さま」も例外ではないだろう。しかし同店は2005年に三代目の佐々木光秋さんが受け継ぎ、日本が世界に誇る焼き餃子の名店へと認められる存在になった。

↑佐々木光秋さん。同店はカウンター席の1階のほか、テーブル席でゆったりくつろげる2階席もある

 

継ぐ前は別の仕事をしていたが、いつしか使命感が芽生えたという佐々木さん。初代が生み出した餃子、そして二代目が守り昇華させたメニューのクオリティの高さを大人になってから再認識し、「このおいしさを後世に残したい!」と思ったという。

↑創業当時を物語る、モノクロの写真。店の場所はいまと変わらない

 

↑当時のお品書きは佐々木さんの宝物だ。当然価格はいまと違うが、「お客様のためになるべく値上げはしない」というポリシーは貫かれている

 

 

先人の遺産や想いをはじめ、佐々木さんが最も大切にしているのは“心”であり、“ふるまい”である。極限まで考え尽くされた、「王さまの餃子」のレシピひとつをとってもそう。店内には創業当時の写真やお品書きが残されているが、これは初心を忘れず味を守り、紡いだ意思とともに届け続けるという佐々木さんの誓いであり、これぞ王者の所以なのだ。

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

餃子の王さま

住所:東京都台東区浅草1-30-8

アクセス:東京メトロ銀座線ほか「浅草駅」徒歩5分

営業時間:11:15〜14:45(L.O.14:00)、16:00〜20:45(L.O.20:00)

定休日:火曜

 

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