第4回 実際にゲームをプレイしてみよう<2>
部隊のコマの「移動」方法と、理解するとプレイの幅が広がる「支配領域(ゾック)」とは?

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前回は、雑誌「歴史群像」(ワン・パブリッシング刊)最新号の付録ゲーム「ノルマンディーの戦い」のプレイの仕方について、ゲームの準備と、進め方の基本となるターンとフェイズについて、およびフェイズ1「連合軍上陸フェイズ」の進め方について説明しました。

 

今回は、部隊コマ(「ユニット」と呼びます)の「移動」と、戦いをテーマとしたボードゲームではよく導入され、「ノルマンディーの戦い」でも用いられている、「移動」に大きく影響する「支配地域(zone of control=ZOC<ゾック>)」の概念と、そのルールについて説明しましょう。ゾックをきちんと理解してプレイできるようになると、プレイの幅と面白さがグンと広がります。

 

部隊コマ「ユニット」をマップ上で移動させる

フェイズ1の「連合軍上陸フェイズ」に続くフェイズ2と、フェイズ4が「移動フェイズ」です。フェイズ2「連合軍移動フェイズ」では、すでに陸地に上陸した連合軍のユニットが、移動を行えます。

 

《ターンを構成する手順》

1.連合軍上陸フェイズ

2.連合軍移動フェイズ

3.連合軍戦闘フェイズ

4.ドイツ軍移動フェイズ

5.ドイツ軍戦闘フェイズ

6.両軍補給フェイズ

 

将棋では、1回の手番に駒を1つしか動かせませんが、歴史ボードゲームでは、移動フェイズ中にはルールの制限に違反しない限りいくつでも、自分のユニットをマップ上で移動させることができます。

 

ユニットの移動は、基本的にはヘクス(六角形のマス目)を単位として行い、それぞれのユニットに示された「移動力」という数値を基準に行います。各ユニットは1回の移動フェイズ中にその数値と同数までの移動力を使って、移動を行えます。

 

マップ上のヘクスには、平地や湿地、森、ボカージュ(ノルマンディー地方特有の高い生け垣で区切られた畑で、見通しが悪い)、都市などの地形が描かれており、この地形によって、移動して入る際に必要とされる移動力の数値が異なります。

 

例えば、平地のヘクスに進入するためには1ヘクスにつき1移動力を消費しますが、森や湿地のヘクスに入るには、1ヘクスにつき3移動力を消費しなくてはなりません。これは、自分が歩いて移動する時の「歩きにくさ」や「見通しの悪さ(隠れている敵の見つけにくさ)」を想像すれば、理解しやすいでしょう。

 

↑両軍ユニットの「移動力」(コマの右下に印刷された数字)と、「地形効果表」(マップ上に印刷)に示された、各地形のヘクス(六角マス)に移動して入る際に必要となる移動力の数値。例えば、平地は1ヘクスにつき1移動力、森は1ヘクスにつき3移動力。河のヘクスサイド(六角マスの境界)を越えて移動する際には、追加で1移動力がかかる。また、道路のヘクスサイドを越えて隣のヘクスに移動する際には、他の地形(河も含む)は無視して、1ヘクスにつき1移動力で済む

 

従って、移動力が3のユニットは、平地ならば3ヘクス移動できますが、最初に森のヘクスに移動したら、そこで移動を終了し、次のターンの「自軍移動フェイズ」になるまで、さらなる移動は行えません。地形ごとの移動力は、通過に必要な時間などを表しています。

 

ボカージュの場合、ドイツ軍歩兵以外のユニットは、1ヘクスにつき2移動力が必要ですが、ドイツ軍歩兵ユニットだけは、平地と同様に1移動力で進入できます。これは、地の利を得るドイツ軍部隊が、複雑な地形を熟知しているアドバンテージを表しています。

 

また、ヘクスとヘクスの境界(ヘクスサイド)に「河」が流れている場合、さらに追加で1移動力の消費が必要となります。これも、越える際に必要となる追加の時間を表すルールです。ただし、道路が横切っているヘクスサイドを越えて隣のヘクスに移動する場合には、河や森、湿地など、他の地形を無視して、1ヘクスにつき1移動力だけで移動できます。橋や林道を使って移動すれば、所要時間が短縮できるのは、われわれの普段の生活と同じです。

 

↑ヘクス1710にいるアメリカ軍第1歩兵師団が、1回の「連合軍移動フェイズ」中に5移動力を使って移動できる範囲(ピンク色)を示した図。ボカージュ(ノルマンディー地方独特の高い生け垣で囲まれた畑)は、1ヘクスにつき2移動力が必要とされる(ただしドイツ軍の歩兵は地形を熟知しているので1ヘクスにつき1移動力)が、道路に沿って移動すれば、そうした地形効果は無効になるので、より遠くまで進撃できる

 

「支配地域」=ZOC(ゾック)って何?

続いて、冒頭でも簡単に触れた「支配地域(ゾック)」について説明していきましょう。ゾックとは、各ユニット(部隊コマ)が持っている影響力が及ぶ範囲(地域)のことで、このゲームでは、そのコマを取り巻く6つのヘクスがそれに該当します。つまり、そのコマのあるヘックスの外側全周にある1へクス分にまで、その部隊の影響力が及ぶことをルール化したのがゾックなのです。

↑マップ上のドイツ軍ユニットの「支配地域(ZOC)が及んでいる範囲(ピンク色)を示した図。ドイツ軍ユニットの周囲6ヘクスは、敵ユニットの有無にかかわらず、ドイツ軍のZOCと見なされる(図では、説明をわかりやすくするために、ZOCの起点となるユニットのいるヘクスにも色をつけてあります。以降の2点の図も同じです)

 

↑上のマップと同じ状況で、今度は連合軍ユニットの支配地域が及んでいる範囲(みどり色)を示した図。上の図と比較すればわかる通り、ユニットのZOCは相手のZOCが及んでいるだけでは打ち消されない。両軍のZOCが及んでいるヘクスは、両軍にとって「敵ZOC」と見なされる

 

もう少しわかりやすく説明しましょう。実際の戦場でも、ある部隊が存在した場合、その周囲の一定の範囲まで、その部隊の影響力が及びます。例えば、部隊の司令部は敵情偵察のために、周辺地域に偵察部隊を派遣しますし、そもそも部隊自体が、一か所に固まっているわけではなく、いくつかの小部隊に分かれて割り振られた担当地域に存在することが多いでしょう。周辺に送られた偵察部隊が、敵部隊の存在を確認すれば、すぐに報告が司令部に送られて、部隊全体が素早く戦闘準備に入ることもできます。

 

つまり、部隊の周りのエリアには、一定の距離までその部隊の力が及んでいると言えます。これをゲームにおいて考えた場合、あるへクスに存在する部隊コマの影響力は、きっちりとそのへクスだけに収まるのではなく、その周囲のエリアにも及ぶことになります。これをルール化したのがゾックなのです。

 

説明が少し長くなりましたが、ゾックがなぜ重要かといいますと、ゾックは敵部隊の移動や退却、補給を妨害する力を持つからです。

 

「ノルマンディーの戦い」では、移動中のユニットが敵のゾックに当たるヘクス(つまり敵の部隊コマに隣接するヘクス)に入ったら、そこでいったん停止しなければなりません。このゾックのルールは、たとえば、敵軍を自由に移動させないため、特に自軍の側の部隊の裏側に深く攻め込ませないために、「戦線」を形成するときにも重要になります。

 

戦線とは、近代における軍事作戦の基礎となる要素で、自軍の部隊を線のように連ねて敵と対峙する陣形のことです。横一列に兵士が並んでライフル銃を構える光景をイメージしてみて下さい。戦線に穴が空いていると、その部分だけ敵部隊への圧力が弱まる上、敵兵がそこから味方の陣内に侵入すれば、自軍の補給路を断たれたり、前線に張り付いて戦う自軍部隊が敵に包囲されたりする危険性があります。

 

そこで、ゾックのルールを活用して、部隊コマを下の図の左端の2つのドイツ軍師団(第352と第12)のように、1へクスあけて配置することが意味を持ちます。そうすれば、敵はかならず自軍部隊のゾックで停止しなければならないので、簡単に自軍領域に入るのを防ぐことができるからです。このルールを活用しないで戦線を張るためにユニットを隣り合わせに並べて線を作ったとしますと、より多くのユニットが必要になりますが、効果は上述の1へクスあけて戦線を作った場合と同じなのです。

 

↑ユニットのZOCを利用して「戦線」を張る一例。敵ユニットの突破を許さない戦線を形成するには、ユニットとZOCの効果を意識する必要がある。この図では、左端の第352歩兵師団から中央の第716歩兵師団までは、ZOCが敵軍から見て二層あるいは三層(敵に対して2~3へクス分の厚みをもっている)になっていて、有効な戦線が張れている。しかし、第716歩兵師団から右側の第711歩兵師団までは、ZOCが一層しかない部分がある(2010、2111、2311、2410)ので、敵ユニットの移動をいったん食い止めても、次のターンの連合軍移動フェイズで戦線の背後へ突破されてしまう可能性がある(例えば、いったん2010に入って移動を終了した英連邦軍ユニットが、次のターンの連合軍移動フェイズに2011へ移動したあと、さらにドイツ軍の背後へ移動できる)

 

ゾックをうまく活用できるかどうかは、ゲームをうまく進めるうえでの重要なポイントになってきますので覚えておいてください。

 

今回は「移動」とゾックについて説明しました。明日の第5回「実際にゲームをプレイしてみよう <3>手に汗握る最大の山場! 「戦闘」の方法とコツ」では、いよいよ、歴史ボードゲームの一番スリリングな局面である「戦闘」の仕方について話したいと思います。お楽しみに!

 

 

解説:山崎雅弘(やまざき・まさひろ)

1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。軍事面だけでなく、政治や民族、文化、宗教など、様々な角度から過去の戦争や紛争に光を当て、俯瞰的に分析・概説する本と記事を「歴史群像」などで執筆。同様の手法で現代日本の政治問題を分析する原稿を、新聞、雑誌、ネット媒体に寄稿。著書多数。

また、1989年からオリジナルの歴史ボードゲーム(ウォーゲーム)をデザインし、日本とアメリカ、フランス、中国のメーカーから出版されて高い評価を得ている。1992年には、第二次世界大戦中のスターリングラード攻防戦を再現したゲーム「スターリングラード・ポケット」で、共同制作者のアメリカ人と共に優れたウォーゲームに与えられる賞「チャールズ・S・ロバーツ賞」を受賞。これまでに制作した歴史ボードゲームは、30点以上にのぼる。

 

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