近年、夏から秋にかけて各地で大雨や台風による被害が頻発しています。この2021年も既に、静岡や中国地方、九州地方で大雨による甚大な被害が発生しており、多くの地域で避難指示が発令されました。

 

災害時に発電・電力供給を可能とする設備工事に政府が補助金を交付

避難所は市民体育館や自治体庁舎といった公共施設、公立学校の体育館などが利用されており、緊急時のために水や食料などの備蓄も進められています。被災した住民、被災の危険性にさらされた住民の命を守る重要な拠点なのですが、この避難所の運用に関して数年前にひとつの大きな動きがありました。

 

きっかけは、2018年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震。地震発生後わずかな時間で北海道全域が停電、ブラックアウトの状態に陥ったのは記憶に新しいところです。病院のように自家発電設備を持つ施設は難を逃れましたが、避難所の多くはそういった設備を持たないため、避難してきた住民の多くは真っ暗ななかで不安な夜を過ごしました。

 

しかし、そのような中でも、厚真町(あつまちょう)の中学校では既設の太陽光発電設備により電源確保ができたことで、避難所として機能することができたのです。また、同年の台風21号による停電時にも、北海道の一部の自治体庁舎が太陽光発電により電源を確保し、災害対策本部として機能しました。

↑全国公立小中学校の95%が避難所に指定されており、そのうち6割が非常用発電機を備えているが、ほとんどが消火栓ポンプ用の電源のため、火災時にしか使えない

 

こうした取り組みを全国に拡大すべく、政府は平成30年度(2018年度)の補正予算から令和2年度(2020年度)までに、「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」を実施しました。

 

この長い名前の事業を簡単に言うと、「災害時に避難施設となる公共施設または民間施設において、平常時は省エネ・省CO2化を実現しつつ、災害時には独立して発電・電力供給できるようにする設備工事に補助金を交付する」というものです。国からの補助率が総事業費の最大75%と高く、さらに、不足部分を借入金で賄う場合は地方債を100%充当し、返済時にはその半分を交付税で措置できるため、実質的な自己負担額は事業費の1/8に抑えられるという、地方自治体にとっては非常に使い勝手のよい補助事業です。

↑環境省が中心となって実施した補助事業の概要。平常時には省エネ設備として、災害時には自立・分散型エネルギーとして活用できる再エネ設備と、エアコンやヒートポンプなどの高効率機器の整備に補助金を拠出

 

群馬県吾妻郡に導入事例を見に行った

今回、同事業の導入事例を見学するため、群馬県吾妻郡に行ってきました。吾妻郡は群馬県西部に位置し、中之条町・長原町・嬬恋村・草津町・高山村・東吾妻町の4町2村で構成されています。人口は約5万人。山間部に集落が点在しており、台風などの大雨時には崖崩れなどの自然災害に見舞われる危険性をはらんでいます。実際、全国に甚大な被害をもたらした2019年の台風19号では、郡中央を流れる吾妻川流域の複数箇所で崖崩れが発生し、川がせき止められて氾濫。複数の集落が孤立しました。また、域内には活火山の浅間山と、2018年に噴火した草津白根山が存在しており、常時警戒が必要なのです。

 

さて、最初に訪問したのは吾妻郡東部に位置する高山村の保健福祉センター。保健・福祉業務事務所とデイサービスセンター、児童館・保健所が入居する複合施設で、供用開始から20年が経ち、設備の老朽化で修繕費がかさんでいたとのこと。また、高山村の中で2番目にエネルギーコストが高い公共施設だったため、もともと改修計画が立ち上がっていたところでした。政府の補助事業がまさによいタイミングだったわけです。

↑高山村の保健福祉センター。補助事業を活用して屋根一面に90.4kWの太陽光発電パネルを設置。発電した電力はすべて施設内で消費する

 

設備の更新により、3か月で約30%の光熱費削減に成功

同センターは従来、電気と灯油、太陽熱がエネルギー源でしたが、新たに太陽光発電システムと蓄電池を追加導入。灯油ボイラーは廃し、エネルギー効率が高く省エネでCO2削減にもなるLPガスによる空調、GHP(ガスヒートポンプ)エアコンを導入しました。導入したGHPは停電時にも自立運転し、発電による電源供給も行えるタイプのもの。さらに天井照明はすべてLEDに変更しました。

↑保健センターの設備更新前(左)と更新後(右)の比較。CO2排出量の多い灯油ボイラーを廃し、CO2排出量の少ないLPガスによる空調および発電に変更。太陽光発電システム・蓄電池も導入

 

↑敷地内にLPガスの貯蔵タンクを設置。災害時には約2日間稼働できる

 

↑パナソニック製電源自立型空調GHP。停電時でも自らガス発電した電力で、空調と照明機器等への電力を供給する

 

↑太陽光発電で給湯するエコキュートはダイキン製。全体的なシステム構築はパナソニック・ライフソリューションズ社の手によるものだが、施設の状況に応じて最適な機器構成を組むよう心がけており、他社製品も導入している。手前は3000Lの貯湯タンク

 

↑蓄電池がずらりと並ぶ様は壮観

 

これらのリニューアル工事は昨年12月末に終了し、今年1月から稼働を開始しており、この結果、光熱費は大幅に削減されました。具体的には、今年1〜3月の電気代は過去11年間の平均から26.5%減の146万7046円、ガス代はGHPエアコンの導入で増えて2.75倍の33万6115円となったものの、灯油代(過去平均45万5000円ほど)がゼロになったこともあり、合計約180万円で約30%減、約80万円の削減となりました。

 

いままでは1年を通じて約900万円のエネルギーコストがかかっていましたが、職員や利用者の節電意識を高めつつ、今後は約640万円以下まで削減することを目標としているとのことです。

↑保健福祉センターでは年間約260万円のエネルギーコスト削減、CO2排出量は約100tの削減を目指す。なお、今回のリニューアルにより、災害時にはスマホ240台の充電が可能

 

もちろん、平時でのエネルギーコスト削減だけでなく、災害時や緊急時における自家発電機能も備えています。今年6月に高山村にて停電が発生した際に、早速役に立ったケースがあったとのこと。

 

「新型コロナワクチンをマイナス75℃対応のディープフリーザーで保管していましたが、停電が発生したときに保健福祉センターの非常電源に接続。超低温を保つことができ、貴重なワクチンを無駄にせずにすみました」(高山村役場の割田信一課長)

↑「新型コロナワクチンの超低温保管にも今回の自立発電が役に立ちました」と高山村の割田課長

 

元温泉施設に補助事業を導入してエネルギー消費を削減

郡南部の東吾妻町では、役場庁舎・コンベンションホール、町民体育館、東吾妻中学校体育館の3か所に同時に導入しました。このうち、筆者は役場庁舎を視察。同庁舎は1996年に町営の温泉施設として完成したものですが、赤字経営が続いていたことと、もとの町役場の老朽化が進んで建て替えの時期がきていたことが重なり、温泉施設を廃して町役場として2018年に改装したものです。温泉施設の名残である畳の大広間はそのまま残し、非常用電源も用意するなど、災害時の避難所としての機能を備えていました。

↑お城に見える東吾妻町役場。人口減少で町の財政が厳しくなることは目に見えていたため、なるべく税金をかけずにすむ方法を模索した結果、町営の温泉施設をリノベーションして活用。1000人におよぶ避難者受け入れ施設が実現した

 

ここに国の補助事業を導入することで、さらに太陽光発電と蓄電池、GHP空調・発電を加え、LED照明に入れ替えました。これにより、平時での省エネ化、非常時でのエネルギー分散によるリスク軽減および、長時間の停電にも耐えられる体制を整えたのです。

↑庁舎のベランダに20kWの太陽光発電を設置

 

↑庁舎の廊下に太陽光発電モニターを設置。職員の節電意識が高まったという

 

↑東吾妻町では3施設を防災リニューアルした。3施設で年間合計300万円のエネルギーコスト削減、CO2排出量は年間181tのCO2の削減を目指す

 

嬬恋中学校では非常用コンセントを新たに装備

郡西部の嬬恋(つまごい)村では嬬恋中学校と東部こども園が避難所として機能しており、この2か所が防災対策リニューアルの対象となりました。嬬恋中学校は村で唯一の中学校で、嬬恋村の中央に位置し、国道沿いの分かりやすい立地にあるため、嬬恋村にある9300軒強の別荘利用者の避難先としても活用されます。

 

今回のリニューアル工事では、既存の太陽光発電システムを最新の高効率タイプに入れ替えるとともに、蓄電池の新規導入、校舎内と体育館の照明のLED化、システム天井の断熱化を実施しました。既存の太陽光発電は平常時昼間の照明用に使われており、非常時を想定したものではなかったため、非常用コンセントも装備されていませんでした。そのため、2019年の台風19号で避難指示が出された際には、スマホの充電等ができずに不便を強いられたのとのこと。今回のリニューアルにより、非常用コンセントは校舎の各フロアに1つずつ、および体育館に設置して非常時に備えています。

↑嬬恋中学校の防災リニューアル内容

 

↑食堂の天井を含め、全校照明をLED化した。校内のLED照明はすべて調光型となっており、非常時には自動的に明るさを10%まで下げて蓄電池の寿命を延ばす

 

↑体育館の照明も水銀燈からLEDに変更。消費電力が6割減少しながら明るさが2倍となり、点灯時間も早くなるなど運用面でもメリットが大きい

 

↑校舎裏に設置された太陽光発電設備。晴天の平常時は太陽光発電で校内すべての照明がまかなえる。なお、嬬恋村は降雪量が多いため、パネルの傾斜は大きく、架台を高く設定している

 

↑非常時コンセントを体育館と校舎各フロアに1か所ずつ設置。災害時にはここからスマホなどに給電できる

 

↑体育館内の防災倉庫に設置されたモニターでは発電状況と蓄電状況が把握できる

 

↑玄関ホールにもモニターを設置し、日々の発電状況や太陽光発電の仕組みを表示。パナソニックのスタッフによる省エネ講座も定期的に開催されている

 

病院では「夜でも患者の顔色の変化が分かるので安心」

最後に、西吾妻福祉病院を視察してきました。同院は長野原・草津町・中之条町・嬬恋村の4町村共同出資により運営されている公営の総合病院で、24時間365日体制で救急対応し、ドクターヘリのヘリポートも装備。病床数は74床。総合病院ゆえに自家発電設備(重油)を備えており、緊急時には手術室やICUといった重要棟や生命維持装置などの医療機器に優先して電力を供給する体制を敷いています。そのため一般病棟は保安灯のみで暗く、不便を感じていたといいます。

 

今回のリニューアルで368.5kWもの太陽光発電と416kWhの蓄電池を導入したことにより、夜でも一般病棟は明るく照らされるようになりました。病院関係者は、「患者さんの顔色の変化が分かるようになるので安心」と評価しているとのこと。

 

特に緊急時は急に体調不良に陥ることがあるため、患者の顔色に気を配ることは重要。2011年の東日本大震災後に病棟の1/3をLED化していましたが、今回、そのLEDの交換も含めて全棟LED化に踏み切りました。蛍光灯より明るくなってうえ、省エネなので蓄電池の電力維持にも役立っているといいます。

↑西吾妻福祉病院の防災リニューアル概要

 

↑病院裏手に大規模な太陽光発電を設置。同様の規模のものがもう1か所ある

 

↑蓄電池も大規模。同様の設備が複数箇所あった

 

晴天時には太陽光発電した電気を病棟の照明に使いながらも、午前中に蓄電池が満充電になり、夜の運用に利用できるそうです。病院は24時間運用のため、昼間に充電した電気を夜間にも使用できるとエネルギーコストの削減効果が大きく、初期投資費用の回収期間も他の施設に比べて短くなるとのこと。なお、同院の総事業費は約6億6000万円で、うち4億5000万円弱が補助金によって賄われています。

 

パナソニックが設計・施工だけでなく、その後の運用もサポート

吾妻郡におけるこれらの防災対策リニューアルは、パナソニック・ライフソリューションズが中心となって行われました。冒頭に説明した国の補助事業の紹介から手続きのサポート、システム・設備の設計・施工、供用開始後の運用面でのサポートも同社が一手に担っています。平常時は太陽光発電と蓄電の状況、電力の使用状況をエネルギー・マネジメント・システム「Emanage(エマネージ)」により遠隔監視し、定期的にレポート、および改善提案をしています。

 

例えば、高山村の保健福祉センターでは、冬の寒い時期に出勤してすぐに暖かい状態で働けるよう、夜間から床暖房の予熱を8時間も行っていたところ、予熱スタートから4時間後に保温動作に入っており、ムダな電力を使用していたことが「Emanage」によって判明。予熱時間を大幅に短縮して電気代の削減を実現しました。さらに、災害発生時には、地元の電気工事共同組合との協定により、パナソニック・ライフソリューションズが電気設備の点検と要員の確保・配置、損壊箇所の応急措置・復旧工事も担います。

↑パナソニックは設計・施工だけでなく、その後の運用もサポート。平常時には電気の使い方の改善提案、非常時には地元電気工事組合と提携して機器の保全に努めています

 

ここ数年、毎年のように全国各地で大規模災害が発生しており、いつ自分が被災者になってもおかしくない状況です。今年から避難勧告が廃止され、より強い避難指示が設定されたのも記憶に新しいところ。そんなときだからこそ、吾妻郡と同様の取り組みは全国に広がりつつあり、各自治体は住民が少しでも安心して避難できるよう、設備を整えています。我々も日ごろから防災意識を高めながら、こうした避難所の設備にも目を向けていきたいですね。

 

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