Vol.107-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルやアマゾンがハイレゾ音源や空間オーディオでシェア拡大を狙う音楽配信。その狙いとは何か。

 

CD優位の牙城を崩すストリーミング型が伸張

日本は長らく、音楽については「CD」が強い国だった。現在も音楽ビジネスの中心がCDであることは間違いないのだが、音楽配信、なかでも「ストリーミング型」の比率が徐々に高まりつつある。

 

一般社団法人・日本レコード協会によれば、2020年の国内音楽ソフトウェア総売上は約2726億円。そのうちCDを中心とした物理メディアは約1298億円でまだ半分弱を占めるが、前年比で15%も下がっており、急激な減少傾向にある。一方で音楽配信は約782億円だが、前年比11%増。特にストリーミングについては、有料配信のみをピックアップしても前年比25%増となっている。2021年はまだ半期分しか集計されていないが、前年同時期比28%増とさらに加速している。

 

ちなみに、アメリカの場合83%の売り上げがストリーミング型によるもの(全米レコード協会調べ・2020年)であり、ここ数年10%ずつ成長しており、日本の流れと真逆だ。その伸びを支えているのがストリーミング型ビジネスの急成長でもある。

 

日本でも海外でも、これからの音楽産業を支えるのがストリーミング型になるのは間違いない。当然そこでは、サービスの競争も激化している。

 

今年6月、ストリーミング型サービスの競争に大きな変化が起きた。アップルとアマゾンが、標準で使うフォーマットを高音質な「ハイレゾ」「ロスレス」楽曲に切り替えたからだ。Dolby Atmosを使った「空間オーディオ」の提供も開始している。これらを追加料金なく楽しめるようになり、音楽配信サービス内での価値が上がった。

 

ハイレゾ音源を聴くにはユーザー側も準備が必要

従来、ハイレゾやロスレスによる楽曲提供は付加価値と見なされ、より高い料金で提供するサービスが多かった。たとえば、ソニー・ミュージックソリューションズが提供するハイレゾ特化のストリーミングサービス「mora Qualitas」は月額2178円だが、Apple Musicは980円。ハイレゾ特化での使い勝手で差があるため完全な同列で比較は難しいが、同じような品質のデータで音楽が聴ける、という観点で比較すると価格差は大きい。

 

アップルもアマゾンも利用者の多いサービスではあるが、世界的なシェアではSpotifyがトップ。アップルが2位、アマゾンが3位とされている。ここでシェアを引っくり返すには、より価値の高い楽曲の提供が重要だと判断しての策だろう。

 

ストリーミング型サービスはスマートフォンとヘッドホンの組み合わせで聴かれていることが多いが、ハイレゾやロスレスの価値を100%生かすには、対応機器の準備も必要になる。だから全員がいきなり音質向上を体感できるわけではないし、楽曲のデータ容量が数倍に増えるというデメリットもある。しかし、機器を用意すれば音質が上がるということでもあり、利用者には望ましいことではある。

 

とはいえ、単純に音質だけが価値ではない。トップシェアのSpotifyは「新しい音楽の聴き方」の訴求で差別化を進めている。それはどんな点なのか? 利用者はどこを見てサービスを選ぶべきなのか? その辺は次回解説する。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら