一見ストーブには見えない、アーティスティックな雰囲気のストーブ。炉壁のみならず、建物の壁もレンガ造りで、熱をしっかりガードする

 

ロケットストーブの先には漆喰で仕上げられた、長さ6mのヒートベンチを製作

 

山梨県の山あいの村で古民家レストラン「キッチンオハナ」を経営するIさん。以前、薪と炭だけで料理を作るというレストランで働いていた経験から、ロケットストーブの熱効率の良さに着目。自分のお店にヒートベンチタイプのストーブを自作し、店舗の暖房として使用中だ。

ストーブ本体はワークショップを開催し、日本中から集まった延べ20人で作られたそうで、その参加人数から関心の高さがうかがえる。鳥のさえずりが聞こえてくるようなかわいらしいストーブカバーは、鍛鉄作家にオーダーしたもので、古民家レストランの雰囲気に合うデザイン性にもこだわった。

ストーブの排熱を利用したヒートベンチは粘土、漆喰など、自然素材を塗り重ねて、プロの左官職人と作り上げたもの。古いかまど作りの左官技術を応用したという、その柔らかくも光沢のある座面と背もたれは、ロケットストーブの造形の自由さを感じさせる仕上がりとなっている。

 

<DATA>
Iさん(31歳)/自営業/DIY歴…2年
製作費用…約60万円(ストーブ本体は2万円)
製作期間…約1年半
焚き口…U字溝(サイズ180mm)
燃焼室…U字溝(サイズ180mm)
燃焼筒…U字溝(サイズ180mm)
メンテナンスの頻度…煙突掃除が不要なほどススがたまらない

 

燃焼室と燃焼筒はサイズ180mmのU字溝を組み合わせて製作。100Lのドラム缶との間にパーライトと粘土を水でこねたものを詰めて断熱する

 

断熱した燃焼筒の上部は、耐火モルタルですり鉢状に仕上げる。ここで気体が膨張し、急激に冷やされ、ダウンドラフトする仕組み

 

ストーブの外装は、秩父の鍛鉄作家・西田光男さんによるデザイン。森を感じさせる切り株風

 

トーブ点火時は焚き口に細く割いた薪を詰め、新聞紙で着火

 

ストーブの炎が安定してきたら、太い薪を投入。写真のように、ナタでささくれを作っておくと燃えやすい

 

Iさんのロケットストーブの最大の特長は、ヒートベンチ下のダクト配管だ。メインとなるベンチ下のダクトのほかに、床下に細い径のダクトをバイパスのように2本延ばすことで、床暖房の役割も果たしている。レストランに長時間滞在するお客さんのことを想定した、Iさんらしいアイデアだ。

ストーブおよびヒートベンチの設置場所は土間。床下にはスコリアという富士山から採れる断熱性のある溶岩石を敷き詰め、その上にコンクリートを打設。これに加え、表面を蓄熱性のある鉄平石で仕上げた床は、ストーブからの熱をしっかり保持して逃がさず、かつ火災が起きにくい防火構造にもなっている。

 

ベンガラで赤く色付けされた漆喰仕上げのヒートベンチ。ストーブに点火後、ベンチは35℃前後まで温まる

二次暖房のダクトの配管はバイパス式。写真の黒い砂がスコリア

 

スコリアの上には厚さ200mmのコンクリートを打設。この上に鉄平石を敷き、床の仕上げとした

 

何度もトライ&エラーを繰り返し、今も理想のストーブ作りを続けるIさんは、取材の最後にこう語った。

「薪ストーブを買って設置するのは楽だし、暖房だけなら灯油ストーブのほうが簡単。でも便利ではないものの中に、暮らしを豊かにする楽しみがあるように思うのです」

 

ヒートベンチを通過し、垂直に立ち上がる煙突。周囲を板材で覆っている理由は後述参照

 

垂直の煙突にはダンパーとメンテナンスのための点検口を設置

 

壁から室外に出た煙突の様子

 

垂直の煙突下部はレンガで囲われている。ここからヒートベンチ下のダクトのメンテナンスが可能

 

結露防止のオリジナル二重煙突

ロケットストーブは燃焼の際、燃やしたエネルギーを煙道の中で放出しながら進んでいく。結果、煙道が長ければ長いほど、最終的に排出される煙の温度が下がる。この煙の温度が下がりすぎると、煙突内部で結露が起こり、木酢液が垂れてくる。Iさんの場合、煙の温度が下がる煙道の最終コーナーをグラスウールでしっかりと断熱。木酢液の発生を防いでいる。

木材カバーの内部。煙突の周囲にグラスウールを巻きつけ、温度低下を防いでいる

 

写真◎田里弐裸衣、製作者提供

*掲載データは2015年10月時のものです。