少し前、5歳の男の子に十分な食事を与えず、犬用のケージに入れて過ごさせた挙句に餓死させた母親が逮捕されるという事件が世間を騒がせた。今、その裁判の行方が注目を集めている。

 

 

幼児虐待事件の裏側にあったもの

ただ、この事件は、虐待の末に子どもの命を奪った残虐な母親という単純な話ではない。彼女が自分の子どもにこれほど残忍な仕打ちしたのは、同居していた女にマインドコントロールされていたことが原因だったというのだ。

 

罪の意識を全く持たないまま他人に特定の思考を植え付け、支配して思うままに操る人間がいる。彼らには羞恥心や罪悪感がない。人を傷つけたり、たとえ命を奪ったりしても何も感じない。そういう能力が欠如しているのだ。5歳児餓死事件に関する報道を追っていく中で、ソシオパスという言葉が見え隠れする。

 

ソシオパス/サイコパスとは

『良心を持たない人たち』(マーサ・スタウト・著 木村博江・訳/草思社・刊)の原題は、『The sociopath next door』(となりのソシオパス)という。ソシオパスとは、精神医学の分野で“反社会的な行動や気質を特徴とするパーソナリティ障害”を意味する言葉だ。程度の差はもちろんあるが、冒頭で紹介した事件でマインドコントロールをしていた女のレベルにまで進行することも珍しくない。この本は、「はじめに」に記されている文章から独特の怖さが増殖し始める。

 

想像してみてほしい―もし想像がつくなら、の話だが。あなたに良心というものがかけらもなく、どんなことをしても罪の意識や良心の呵責を感じず、他人、友人、あるいは家族の幸せのために、自制する気持ちがまるで働かないとしたら……。

『良心を持たない人たち』より引用

 

著者のマーサ・スタウトは、この本の出版時点でキャリア25年の心理セラピストであり、ハーバード大学医学部で講師および臨床インストラクターとして活躍していた。プロフェッショナルによる医療現場の生の情報・知識が満載の一冊なのだ。

 

クラスにひとりいる?

もうひと怖がりしていただこう。

 

人生の中で、どれほど自分本位な、怠惰な、有害な、あるいは不道徳な行為をしても、恥を全く感じないとしたら。そして、責任という概念は自分とは無縁のもので、自分以外のばかなお人よしが文句も言わずに引き受けている重荷、としか感じられないとしたら。

『良心を持たない人たち』より引用

 

こんな人間がそばにいたら大変だ。やつらは、狙った相手を思い通りに操るためにうまく本質を隠して近づいていく。「そんな人に逢ったことはない」「そんな人がいるわけがない」—ほとんどの人がそう言うはずだ。筆者もそう思った。でも著者によれば、先天的であれ後天的であれ、良心をまったく持たない人たちは全人口の4%を占めている。25人に1人。普通に考えて、クラスに1人いる感じだ。

 

出遭っていないのは幸運なだけ

これまでソシオパス/サイコパスと遭遇したことがなかったのは、単にラッキーだっただけ。本書を読み進むうちに、そんな気になってくる。

 

彼らは是なくの区別がつかないわけではなく、区別はついても、行動が制限されないのだ。頭で善と悪のちがいはわかっても、ふつうの人びとのように感情が警鐘を鳴らし、赤信号をつけ、神を恐れることがない。

『良心を持たない人たち』より引用

 

良心を持たない人たちは、ご飯を食べたりお風呂に入ったりというごく日常的な行為とまったく同じ感覚で、世間から見れば異常としか形容できない関わり方で他人と結びつき、支配しようとする。キャリア25年の心理セラピストである著者が、こうした特殊で特異な人たちと現場で毎日のように直接的に関わっていたことをもう一度強調しておく。マーサ・スタウトの日々のルーティーンは、一般社会でごく普通に生きているわれわれとはかけ離れた異常性に満ちていたにちがいない。

 

人間の良心とは?

訳者の木村博江さんが「文庫版のためのあとがき」で記している文章が、本書の性質を鮮明に表していると思う。

 

この本が良心をもたないサイコパスについて解説した本でありながら、「良心とはなにか」について考えさせてくれる本でもあるという点です。サイコパスの特徴や、見抜き方、対処の仕方を解説するにとどまらず、もっと大きな人間の本質にかかわる部分を科学的な目で捉えようとした。意味の深い本と言えるでしょう。

『良心を持たない人たち』より引用

 

ソシオパス/サイコパスという言葉で形容される人は、中3の時のクラスとか、大学の時のバイト先にいたかもしれない。そして今、同じ職場や同じマンションにいるかもしれない。出遭ったことがないことと、存在しないことは決してイコールではないのだ。

 

【書籍紹介】

良心を持たない人たち

著者:マーサ・スタウト
刊行:草思社

平然と嘘をつき、涙で同情を誘い、都合が悪くなると逆ギレをするー本来、人間に備わるはずの良心をもたないがゆえに、他者への思いやりが絶対的に欠落し、手段を選ばずに自分の欲望を満たそうとする人たちがいる。25人に1人いるとされる“良心をもたないサイコパス”の実態を心理セラピストが明かす。彼らの被害者にならないための見分け方と対処法を教える一冊。

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