リモートワークが進み社内コミュニケーションに悩む企業が増えたことで、現在、注目を集めている企業があります。それが株式会社バヅクリ。新しいスタイルの企業イベント・研修を提案して、サービス開始からわずか1年半で約400社に導入され、問い合わせも月に100〜300件ある状態です。今回はバヅクリCEOの佐藤太一さんに、好調の要因は何か、そして今のビジネスの場に必要なコミュニケーションの形とは何なのかを伺いました。

 

バヅクリCEOの佐藤太一さん

 

他社を圧倒するプログラム量

――まず、株式会社バヅクリが提供するサービス「バヅクリ」とはどのようなものでしょうか?

 

佐藤 チーム内での話しやすさ、独創性を歓迎するムード、何を話してもいいんだと思えるような安心感、そんな「心理的安全性」を構築するきっかけや場を作るのが僕らの仕事です。主にオンライン上でのイベントやワークショップを通じて、社内のコミュニケーション形成、組織のエンゲージメントを高めることをメインにやっています。

 

バヅクリの強みは、ワークショップが100種類以上あるところです。ライバル企業ですと、オンライン運動会やオンライン謎解きゲームなど1〜2種類ほどしかないんですよ。

 

そのなかで僕らは、フラッシュお絵描き、お坊さんによるマインドフルネス、職人から学ぶ寿司握り体験、アナウンサーが教えるプレゼン技法、ボイストレーナーのモテ声トレーニング……と、さまざまな方向性のワークショップを揃えて、個々の組織課題を解決できるプログラムを提供しております。

↑ワークショップの様子

 

――そもそも「バヅクリ」というサービスを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

 

佐藤 バヅクリを立ち上げる前は、「プレイライフ」というデートなどの遊びプランを一般ユーザーが投稿するメディアをやっていました。そこで「遊部(アソブ)」という、遊びのプロの方たちと一緒に学びながらつながるコミュニティも運営していたんです。

 

でも、コロナ禍で売上が98%ダウンしてしまい……。そもそもグルメを含む「遊び」のBtoCはライバルが多く、食べログやじゃらんには勝てないと感じていました。コロナ禍になったとき、コロナで分断された世界をつなぐ手助けができないものかと思い、「遊び×BtoB×オンライン」をコンセプトに3日で「バヅクリ」を立ち上げました。

↑プレイライフ(https://play-life.jp/)のトップページ。2万件以上のコースプランが掲載されている

 

――スピード感ある動きで、時代の波をとらえましたね。

 

佐藤 開始から約1年半で導入企業数が400社を超えて、しかもそのほとんどが先方からの問い合わせです。内定者フォロー、新卒のフォロー、労働組合イベントが現在の中心ですね。

 

たとえば、世代を超えた一体感を作ろうと社内でイベントを模索しても、実施できるノウハウがない場合がほとんどですよね。コンサルティング企業に頼むと真面目すぎるし、イベント会社ではただ遊びで終わっちゃう。その距離感を埋めたのがバヅクリだと思います。

 

――先程の心理的安全性を作り出す話で、バヅクリが提供するワークショップにはどのような効果があるのでしょうか?

 

佐藤 一見単なる遊びのように見えても、きちんとデザインされていれば、心理的安全性を生み出すことができます。たとえば、いきなり面と向かって「あなたの本当にやりたいことは何ですか?」といっても答えにくいですよね。

 

でも、お絵描きのワークショップで「まずはイライラという感情をパッと絵にしてみましょう」といって抽象的な絵をみんなで描くんですよ。そしてグループで対話して発表する。いろいろなお題で抽象的なピカソみたいな絵を描いて、これを3回くらい繰り返すと場が暖まってきます。

 

そして最後に「自分にとって仕事とは?」とか、「自分がやりたいこととは?」というお題で絵を描いて、それについて語ると意外といろいろな意見が飛び出してきます。遊びの世界、サードプレイスで描いたものを現実世界に持ってきて自分の心のなかを話す。

 

こうすると相互理解やエンゲージメント、仕事のモチベーションも上がる、というのが僕らのからくりです。実は手段は何でもいいんです。絵でも演劇でも学習系でもいい。そうした遊びや学びのなかから、組織課題の解決につながる道筋をつけていく。

 

 

社員のウェルビーイングは重要課題

――企画運営から効果測定までをサポートする新しいサービス「バヅクリ・ウェルビーイング」がこの5月に始まりました。その狙いを教えて下さい。

 

佐藤 そもそも社員のウェルビーイングにきちんと取り組んでいる会社って意外に少ないんです。何をすればいいかもわからないのが実情ですよね。コンサルティング会社に依頼すると、ウェルビーイングをどう高めていくかという目標設計とプランニングまではしてくれても、実際の運用はやってくれない。

 

僕らは目標を達成できるようなプランニングをして、バヅクリで関係構築を行い、そのあとアンケートをして効果を測定するところまで一気通貫でやります。これによって自社で行うのと比べ、イベントの企画や運営の手間を85%削減できる計算です。

 

↑新サービスがカバーする範囲。これまでの企画提案から大幅に広がっている

――外注して手間が省ける以外に、バヅクリに頼むメリットはありますか?

 

佐藤 ふたつありまして、ひとつは参加率が非常に高いことです。「ウェルビーイングの活動です、みなさん、参加して下さい!」と社内でいっても通常はひとケタ台がほとんど。でも、僕らは参加率50%まで行きました。堅い会社だと学び系のプログラムがすごく受けるんですね。

 

一方で、労働組合はエンタメ的なイベントが大好き(笑)。その会社に応じてウェルビーイングっていろいろな形があって、遊び系からコミュニケーション系、学び系まですべて網羅できているのが僕らの特徴かなと思います。

 

もうひとつは、アンケートの評価が非常に高いことです。「こんなに社内で対話できたのは初めてです」という声をよくいただきます。

 

とある企業では、バヅクリに参加した層と参加していない層を比較して、内定辞退率が8%下がったという結果も出ています。対話とエンゲージメントでモチベーションを高めたのが効果的で、内定辞退率を下げられたのだと思います。

 

コロナ禍とZ世代、コミュニケーションの行方

――リモートワーク中心の職場環境になって、社内のコミュニケーションも大きく変わったと思います。そのあたり、佐藤さんはどのようにお考えですか?

 

佐藤 他部門や他部署との交流がほぼゼロになったことが、大きなマイナスですよね。オフィスだったらトイレやランチに行くときに他部署の島を通りますよね。「お久しぶり、元気?」といった形で。あれがなくなってしまった。それと、オフコミュニケーションや雑談も減りました。オンラインのミーティングでは気軽に雑談するのは難しいですよね。

 

こうした変化によって、個人としては集中できて生産性が上がる人もいますが、チームのまとまりが弱くなり、チームで困難な課題を解決したり、新規イノベーションを生み出したりする能力が減った。行き詰まったときのアイデアブレストもオンラインだと難しい。人事をされている方から、リモートワークになって離職が増えたという話もよく伺います。

 

――コミュニケーションを取らなければいけないのはわかるのですが、やってはいけないコミュニケーションというのはありますか?

 

佐藤 これは雑談を強いるなど、強制的な場を用意することです。強制的に社内イベントをやるのは百歩譲ってOKだと思うんですよ。「運動会とかめんどくさい!」と思っても、実際に参加すると「楽しかった!」みたいなことはよくあるので(笑)。

 

ただ、これも面白いイベントに限ります。つまらない社内イベントを強制すると圧倒的に士気が下がってしまう。あとコミュニケーションで言うと、上司が部下の話を聞かずしゃべりすぎるのもNG。

 

――対話の場を設けても、結局上司が自慢話ばかりしている光景はよくありますよね(笑)。

 

佐藤 少し一般化して、若者とのコミュニケーションでいうと、好きなことをしゃべらせまくるのが大事だと思います。今ってコミュニケーションの血流が止まっている状態なんですよ。なので、血の巡りをよくするために、最初はなんでもいいからしゃべってもらう。僕らは「3分間とにかく好きなことをダラダラ語りましょう」というのを社内でよくやっています。

 

まず上司が手本を見せて、「最近、『SPY×FAMILY』のアーニャがかわいくて」みたいなことをしゃべるわけです(笑)。そうすると、みんなが自由にしゃべりやすくなる。これをあえて業務時間にやっています。

 

――Z世代とのコミュニケーションが難しいと考えている上の世代も多いと思います。Z世代についてはどのような見方をされていますか?

 

佐藤 Z世代もなんだかんだ交流を求めていると思います。ただ、全員とではなく、自分と価値観を共有できる人との交流を求めている。ある意味、排他的仲間意識が強いともいえます。将来は旅をしながらゆるゆる生活したい、家庭に入ってしっかり人生を歩みたい、オタ活やってひたすらアイドルを追い回したい……。

 

それぞれセグメントがはっきりしていて、その分類のなかで自分と似たような人を探す傾向がありますね。だから、バヅクリではお互いの価値観を尊重することを重要視していますし、お絵描きしたり、焚き火で語ったりしながら価値観を共有していって、この人となら自分は合いそうだなと思う人にメッセージを送りましょうと促して、つながりを作ってもらっています。

 

【編集部から】バヅクリのサービスから感じたこと

取材では実際に「お絵描き」と「スパイスカレー作り」を行っている様子を動画で見せてもらいました。参加者がみな楽しそうにしていたのが印象的でした。

 

特に進行する講師の方々が効いている! テーマはもちろんですが、ファシリテートの技術によってオンライン空間がここまで変わるのかと驚き。まさに“遊び”の空間が広がっていました。

 

「僕らはお絵描きや演劇のようなワークショップを通じて深いところでつながれる、いわゆるアイスブレイクが日本一うまい会社かなと思ってます。飲み会3回分でようやく仲良くなれるような関係性を1回で作れるのが強みですね」(佐藤さん)

 

コロナ禍で雑談が減ったこととも関連しますが、近年ではプライベートな領域の話も職場から減ったように思います。今までちょっとしたコミュニケーションで得られていた、その人の「人となり」も見えにくくなっています。

 

「人となり」を知るのは必ずしも雑談である必要はないと思いますが、その代替の手段がない。バヅクリのサービスを見ていると、その人に興味を持つきっかけになるタネが含まれているように思えます。

 

株式会社バヅクリのスローガンは「この世から孤独を無くす」。それを“遊び”で実現しようとするやり方は、ある種、“粋”であり、今後そうしたアプローチはより重要になっていくでしょう。