こんにちは、書評家の卯月 鮎です。下世話な話ですが、よそ様の懐事情って気になるものですよね。「年代別の平均貯金額は?」なんてネット記事があるとつい見てしまいますし、芸能人のギャラ公開のYouTube動画も人気があります。野球選手の年俸だって、「2000万円アップ!」となぜか全国ニュースになって巷を駆け巡ります(笑)。アップならともかくダウンだったら、本人的にはたまらないでしょうね。

 

こんな感じでお金と結びつくとがぜん興味が湧いてくるというのは、世の常、人の常。歴史の授業もお金の観点から教えてもらえれば、もっと楽しく勉強できたかもしれません。

歴史の行方はお金次第!?

 

今回紹介する新書『「お金」で読む日本史』(本郷和人・監修、BSフジ「この歴史、おいくら?」制作班・編/祥伝社新書)は、そんなお金にこだわった一冊。テレビ番組「この歴史、おいくら?」の調査データをもとに、新情報を追加しています。

 

番組に出演し、本書も監修している本郷和人さんは、歴史学者で東京大学史料編纂所教授。専門は中世政治史で、著書に『中世朝廷訴訟の研究』(東京大学出版会)、『壬申の乱と関ヶ原の戦い』(祥伝社新書)、『乱と変の日本史』(祥伝社新書)などがあります。大河ドラマ『平清盛』といった中世・近世を題材とした作品の歴史考証や監修も担当しています。

越後長岡藩のガトリング砲のお値段は?

第1章は「武家の棟梁・源頼朝の収入」ということで、鎌倉大仏の建築費や征夷大将軍の朝廷からの俸祿など、鎌倉時代の“お金”に迫っています。

 

そして第2章は「武田信玄の軍資金」。この章で意外にお得と感じたのは、伝説的な天才軍師・山本勘助の年俸。まず、信玄が山本勘助をスカウトしたときの年俸は『甲陽軍鑑』によると知行200貫文。本書では1貫文を約10万円と計算しているため2000万円になるとか。確かに新人にこの額は破格かもしれません。

 

ただ、山本勘助の知行はのちに800貫文になったそうですが、山本勘助といえば兵法に優れ、築城術にも長けていたと伝えられています。大企業の敏腕コンサルと考えると、もっともらっていてもいいのではという気もします……。

 

第4章では、幕末、越後長岡藩の家老で軍事総督だった河井継之助が購入したガトリング砲の値段がテーマ。このエピソードは司馬遼太郎さんの小説『峠』で有名ですね。

 

長岡藩は7万4千石と財政規模は小さく、出費も重なって負債総額は一時期23万両(230億円)まで膨れ上がっていました。これを財政再建で一気に解消したのが河井継之助。賄賂の禁止、新田開発、経済活性化策によって負債は3年たらずで解消され、剰余金も出るまでになったそうです。

 

そんな河井継之助は新政府軍との戦いは避けられないと覚悟し、藩邸を整理して藩伝来の家宝も売り払って、当時日本に3門しかなかった最新鋭兵器・ガトリング砲を2門購入しました。そのお値段とは!?

 

ひとつの歴史事件を掘り下げて深く追求するというよりは、その時代時代のお金にまつわるトピックを広くピックアップしている本書。日本史好きならもっと細かく精査してほしいと思うかもしれませんが、さらっと読んで興味の入り口にするにはピッタリ。現代の価値に換算されているので、今と比べることができて非常に身近に感じます。参考文献や史料も掲載されていて、自分でさらに検証することも可能。これは書籍の良さです。

 

いつの時代も、人はお金に困り、どうにかやりくりしていたことが伝わってきます。数字がたくさん出てきますが、その数字の向こうに人間くささが見えました。

 

【書籍紹介】

「お金」で読む日本史

監修:本郷和人
編:BSフジ「この歴史、おいくら?」制作班
発行:祥伝社

歴史の新たな一面を知る

あの偉業も、あの事件も、裏には「お金」があった! 日本史にまつわるお金事情を繙く番組「この歴史、おいくら?」の調査データをもとに、新規情報をふんだんに盛り込んで書かれたのが本書である。具体的には、北条政子が買った夢の価格、武田信玄が払った山本勘助のスカウト料、浅野内匠頭と吉良上野介の経済力比較、激安だった徳川吉宗の朝食、勝海舟の曽祖父が購入した旗本株の価格、西南戦争の経済的意義など。現在のお金に換算することで、当時の状況が生々しく迫ってくる。楽しみながら、歴史の新たな一面を知ることができる意欲作。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。