こんにちは、書評家の卯月 鮎です。異常気象というわけではないですが、子どものころに雨の境目に出くわしたことがあります。一歩先ではザーザー降っているのに、こちら側はカラッと晴れている。とても不思議で、道の濡れているところと乾いているところを出たり入ったり、反復横跳びをしたのを覚えています(笑)。

 

もう何年前かは定かではないですが、入学式のとき、桜が咲いているのに大雪が降ったこともありました。ドカ雪と桜の取り合わせが幻想的で忘れられない光景になっています。普段と違う天候は、被害が出ることも多いため歓迎ではないですが、自然の神秘を目の当たりにして、なんだか高揚する感覚があるのは確かですね。

世界の天気を追う気象予報士が解説

 

今回紹介する新書は、異常気象に関する雑学コラム『お天気ハンター、異常気象を追う』(森 さやか・著/文春新書)。著者の森 さやかさんは気象予報士。アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ横浜育ち、現在はNHKの国際放送「NHK WORLD」で気象アンカーとして英語で天気の情報を伝えています。著書に『竜巻のふしぎ』(共著・共立出版)、『いま、この惑星で起きていること 気象予報士の眼に映る世界』(岩波ジュニア新書)などがあります。

ゲリラ豪雨は海外では何という?

第1章「日本の異常気象」では、高温、台風、豪雪などをわかりやすく解説しています。たとえば「ゲリラ豪雨」。正式名称は「局地的大雨」といい、戦争を思わせる名前という理由で、気象庁やNHKでは「ゲリラ豪雨」の使用を避けているそうです。

 

各国でゲリラ豪雨を何と呼んでいるかというと、アメリカの正式名称は「クラウドバースト(雲の爆発)」、イタリアでは「水爆弾(bomba d’acqua)」。森さんお気に入りのネーミングは、映画『007』シリーズの一作を思わせるスウェーデンの「スカイフォール(空の落下)」だそうです。

 

第2章は「世界の異常気象」。干ばつ、山火事、ハリケーン、北極と南極の環境急変などの状況とその背景に焦点が当てられています。

 

そして最後の第3章は「地球の未来予想図」。ここでは「グリーンナッジ」という考え方が勉強になりました。「ナッジ(nudge)」とは「ひじで優しくつつく」という英単語で、よい選択をするようそっと後押しするという意味です。

 

「環境を守ろう!」と無理強いするのではなく、少しの工夫で多くの人が環境保護に楽しく取り組めるように導くのがグリーンナッジ。たとえば本書には中国の決済アプリ「アリペイ」の取り組みが載っています。

 

アリペイには車ではなく歩いたり自転車に乗ったりするたびに貯まるポイントがあり、このポイントでバーチャルな木を育てられ、その木は砂漠化が進む内陸部への植樹に交換されるのだとか。開始から5年ほどで実際に植えられた木は3億本超! ゲーム感覚で地球環境に貢献できる仕組みは、今後あちこちで流行りそうです。

 

「かつては台風の目の中に航空機が直接突っ込んで気圧を測っていた」など、気象に関するうんちくが詰まった一冊。内容はしっかりしているのに数字や気象理論などのお堅い解説は抑えられ、文系脳の私でも立ち止まることなく読めました。

 

こうした専門的な話を気象予報士の方が雑学を交え噛み砕いて読者に伝えてくれることも、環境について意識するための「グリーンナッジ」と同じ効果があるのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

お天気ハンター、異常気象を追う

著:森さやか
発行:文藝春秋

「観測史上初」の激烈な猛暑、「数十年に一度」レベルの豪雨や台風…。異常気象は、なぜこれほどまでに増えたのか。一方、世界ではビル・ゲイツが気象ビジネスに特化したファンドを作るなど、商機として気候変動が注目される。アルゼンチンに生まれ、英語で世界の天気を報じる実力派気象予報士が綴る、新たな教養としての「異常気象」入門。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。