『Bullshit Jobs: A Theory』というお気に入りの一冊がある。ブルシットという攻撃的な言葉を含んだタイトルの響きのみに惹かれて買ったのだが、とても面白かった。翻訳書が出たのは、2020年だ。

 

 

“クソどうでもいい仕事”という言葉のインパクト

『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』(酒井隆史・著/講談社・刊)の著者は、翻訳書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』の訳者である酒井隆史氏。社会思想と都市史が専門の大阪府立大学教授だ。

 

“ブルシット・ジョブ”という英単語を“クソどうでもいい仕事”と訳したワードセンス。筆者はそこから、もう心をわしづかみにされてしまった。そしてこのパワーワード的な訳語を繰り出した訳者が書いた本は、本当に役に立つコンパニオンブックだと思う。

 

BSJ:ブルシット・ジョブとは?

クソどうでもいいというのは、どんな仕事だろうか。原書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』の著者であるデヴィッド・グレーバーは、従事している本人が自らうすうす「どうでもいい」と感じながらやっている仕事と定義している。

 

BSJとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、被雇用者は、そうではないととりつくろわねばならないと感じている。

『ブルシット・ジョブの謎』より引用

 

BSJの定義や説明については、読む側の人間が自分なりに想像しながら文字を追っていくほうがいいと感じているので、この程度で止めておく。本書は以下の4点を基本に展開していく。

 

(1)「ブルシット・ジョブ」とはなにか? どんな種類があるのか?

(2)「ブルシット・ジョブ」に就いている人たちはどのような精神的状況にあるのか?

(3)「ブルシット・ジョブ」がどうして、こんなに蔓延しているのか?

(4)どうしてそのような状況が気がつかれないまま、放置されているのか?

『ブルシット・ジョブの謎』より引用

 

自分の仕事をBSJと形容する人たち

当然のことながら、本人たちによって語られるBSJの実態は読みごたえがある。コンパニオンブックという性質を軸に言うなら、『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』で消化不良な部分が出ていたとしても、すべて解消できるように作り込んである。だからこそ、別系統で完結する本書を先に読み、原書に戻るという進め方もあるだろう。目次を見ておこう。

 

第0講 「クソどうでもいい仕事」の発見

第1講 ブルシット・ジョブの宇宙

第2講 ブルシット・ジョブってなんだろう?

第3講 ブルシット・ジョブはなぜ苦しいのか?

第4講 資本主義と「仕事のための仕事」

第5講 ネオリベラリズムと官僚制

第6講 ブルシット・ジョブが増殖する構造

第7講 「エッセンシャル・ワークの逆説」について

第8講 ブルシット・ジョブとベーシックインカム

 

筆者にとって衝撃的だったのは、イギリスで行われた世論調査で、37%が「自分の仕事は世の中に意味のある貢献をしていない」と答えた事実だ。3人に1人以上が本当は要らないかもしれない仕事をこなしながら日々を過ごし、GNPの3分の1以上がそういう仕事から生み出されていると読み取ることができるのだ。

 

とあるBSJワーカーの独白

とあるBSJワーカーは次のように語る。

 

価値のある仕事とは、あらかじめ存在している必要性に応えたり、人が考えたこともない製品やサービスをつくりだして、生活の向上や改善に資するような仕事ではないでしょうか。わたしは、ずっと昔の仕事はほとんどがこういう種類の仕事で、われわれが暮らしてきたのはそういう世の中だったはずだと信じています。

『ブルシット・ジョブの謎』より引用

 

「うすうす感じる」のではなく、明らかな自覚を持ちながらBSJを毎日こなしていく感覚。仕事に賃金以外のものを求めないのならそれでいいかもしれないけれど、生きがいとか仕事を媒体にした社会とのつながり、そして承認欲求みたいなことを考えた瞬間、自分という存在と仕事との関係のウェットな部分が浮き彫りになりはしないだろうか。

 

ディレクターズカット的感覚

訳者ならでは、という原著者についての文章がある。

 

かれの語り口は、専門的領域をこえ、一般の人にもわかるように、明晰で、かつ興味深いエピソードとユーモアにあふれています。ただ、錯綜しているのです。書いているうちにあれこれいいたいことがつめこまれて、読む側は個々の議論に気を取られているうちに、筋を見失ってしまうことが多々あるのです。

『ブルシット・ジョブの謎』より引用

 

精度の高いコンパニオンブックであると同時に、酒井氏のオリジナリティが強く感じられる。どうやったらよりよく伝わるか。よりわかりやすい言い方はないか。翻訳作業のプロセスまでが見えるような文章が楽しい。映画で言うディレクターズカット的な感覚の一冊でもある。

 

【書籍紹介】

ブルシット・ジョブの謎

著者:酒井隆史
刊行:講談社

誰も見ない書類をひたすら作成するだけの仕事、無意味な仕事を増やすだけの上司、偉い人の虚栄心を満たすためだけの秘書、嘘を嘘で塗り固めた広告、価値がないとわかっている商品を広める広報……私たちはなぜ「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」に苦しみ続けるのか? なぜブルシット・ジョブは増え続けるのか? なぜブルシット・ジョブは高給で、社会的価値の高い仕事ほど報酬が低いのか? 世界的ベストセラー、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』の訳者による本格講義!

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