2022年11月にインドネシア・バリ島で開催される20か国・地域首脳会議(G20サミット)をきっかけにして、インドネシア政府が電気自動車(BEV)の普及策を積極的に進めています。同年8月11日〜21日まで開催されたガイキンド・インドネシア国際モーターショー2022(GIIAS 2022)では、それに合わせた出展が数多く見ることができました。

↑11月開催の「G20」サミットで活躍することが決まった『Air EV』

 

G20サミット開催を契機としてBEV振興策を策定

インドネシアはこれまでASEAN市場最大の自動車市場を持ちながら、輸出となるとタイの後塵を拝してきました。つまり、内需と輸出を合わせた自動車生産でインドネシアは、タイを超えることができずにおり、それはインドネシアにとって悲願でもあったのです。

 

そこで、それを達成するために白羽の矢が立てられたのがBEVです。タイもBEV普及策を進めていますが、もちろん現状では本格的な動きには至っていません。そこでインドネシア政府は、G20をきっかけにBEV振興策を進め、一気にその立場を優位に進めようと考えたのです。

 

これまでインドネシアはBEVを輸入に頼ってきましたが、政府としてはこれを国産化してASEAN各国へ輸出することで、BEVにおける自動車王国の座を獲得しようと考えたわけです。インドネシア工業省が発表したロードマップでその構想は明らかにされました。2035年に四輪車全体の生産台数を400万台とする一方で、BEVはなんと100万台とする目標を掲げたのです。

 

日本車の牙城を突き崩すべく中韓勢がBEVで一気に攻勢

こうした動きをいち早くキャッチアップしたのが中韓勢でした。中国のウーリン(上海通用五菱)は今回のGIIAS 2022で、中国で大ヒットした小型BEV『宏光miniEV』のハイグレード版『Air EV』をインドネシア国内で生産し、今後ASEAN各国へ輸出していくことを発表しました。

↑中国国内で大ヒットした小型EV『宏光miniEV』をベースに、国際基準に合わせたエアバッグやESCなど安全性を高めたハイグレード版『Air EV』がワールドプレミア

 

↑上位グレードの“ロングレンジ”では、リアバンパーにパーキングセンサーとカメラを装備。イモビライザーや防犯用アラームも標準装備した

 

↑『Air EV』の上位グレード“ロングレンジ”のインテリア。10.25インチのディスプレイを備え、電子ミラーや、リモート式エアコン、電動パーキングブレーキも装備する

 

韓国ヒュンダイも、日本でも発売して話題を呼んでいる『IONIQ(アイオニック) 5』をインドネシア国内で生産することを発表しています。

↑インドネシア国内で生産されるヒュンダイのBEV『IONIQ 5』。ボンネット上のサインはインドネシア大統領ジョコ・ウィドド氏のもの。この車両はG20サミットで使われることが決まっている

 

↑『IONIQ 5』のパワートレーンとバッテリー。ヒュンダイはLGエナジーと協業して2024年からインドネシア国内でバッテリーを生産する計画

 

まさに両社ともインドネシア政府が目指す構想にいち早く乗り、「今こそインドネシアの市場シェア95%を超える日本車の牙城を打ち崩すチャンス到来」と、一気に攻勢をかけてきたのです。

↑ヒュンダイ傘下のKIAが出展したコンパクトハッチのBEVが『ニーロEV』。最大出力203PS/最大トルク255Nmを発揮する

 

↑KIAのBEVのグローバルEVプラットフォーム「E-GMP」を組み込んだ最初のモデル。58kWhと77.4kWhの2種類のバッテリーが選べる

 

↑中国DFSKが発表した『MINI-EV』。中国で大ヒットしたウーリンの『宏光miniEV』と瓜二つのデザインで、スペックもほぼ同等。左ハンドルのまま参考展示していた

 

↑商用車EVとしてDFSKが出展した『GELORA-E』。多人数乗車のタクシーサービスなどの利用を想定する

 

↑中国MGが発表した1トン・ピックアップのBEV『EXTENDER』。上海汽車集団(SIAC)の『Mazus』をベースにEV化した

 

こうした動きに対し、日本メーカーの動きは鈍いようです。その理由はインドネシアにおけるBEVに対する実需はまだ低いと見ているからです。昨年、インドネシアで販売されたBEVは700台足らず。しかも、急速充電器はインドネシア国内全体で267台のみ(22年2月現在、PLN調べ)。220Vの家庭用電源も大半が契約容量が少なく普通充電すらままならない状況です。

 

そうした状況を鑑みれば、充電を必要としないハイブリッド車(HEV)を普及させて、低炭素社会に向けてアプローチした方が理に適っているとみているのです。これはインドネシア政府が低炭素化に対してHEVを含めた電動車一般も含めていることも背景にあります。

 

ただ、インドネシアの自動車事情通によれば「こうした日本メーカーの考え方にインドネシア政府は快く思っていない。HEV車の生産基地はライバルのタイが大半で、結局、インドネシアでHEVを販売するのは敵に塩を送るようなもの。自国のプラスにはならないと考えている」ようなのです。

ダイハツがインドネシアに最適化したBEVを独自開発

では、この状況に日本メーカーはどう立ち向かうのでしょうか。現状では前述したように、BEVもHEVもタイからの輸入で対応する考えですが、こうした中でインドネシア政府の要請に応じて立ち上がったのがダイハツです。

 

ダイハツはGIIAS 2022において、BEVのコンセプトカー『AYLA(アイラ) BEV』を発表したのです。現地のアストラ・ダイハツ・モーター(ADM)のR&Dセンターが独自に開発したもので、詳細なスペックは明かされていないものの、バッテリー容量や価格についてインドネシア国内の事情を踏まえた開発が進められているとのこと。

↑現地のアストラ・ダイハツ・モーター(ADM)のR&Dセンターが独自に開発したBEVコンセプト『AYLA EV』。バンパーから下をBEVらしいグリルレスとした

 

ADMの原田雅人マーケティングディレクターは、AYLA BEVの開発について、「日本のダイハツのサポートを受けながら、インドネシアに適したBEVは何なのかを考えつつ研究開発した」と述べ、パーツの現調達率を現地化8〜9割とすることで、インドネシア政府のLCEV(Low Carbon Emission Vehicle)に合わせて開発を進めていくとしました。

↑AYLA EVは、インドネシア政府が要望するLCEV(Low Carbon Emission Vehicle)に合わせた仕様で開発される

 

↑ドアミラーも電子式として、近未来感を演出していた

 

原田氏は「BEVを(インドネシア国内で)普及させるには、インフラの整備はもちろん、急速充電の規格についても大きな課題がある」としながらも、「中韓勢がBEVをフックに環境貢献を旗印にしたシェア拡大を目指す動きはとても脅威に感じている。日系メーカーが一丸となって対抗していく」とも話しました。

↑日本以外で初公開されたシリーズ方式HEV『ロッキー e-SMART』。スペックは日本仕様と基本的に共通だという

 

レクサスとトヨタのBEVは!?

レクサスは新型『RX』、トヨタは『bZ4X』をメインに『プリウスPHV』や『カローラクロスHEV』を紹介していました。

↑レクサスのプレスカンファレンスで発表された5世代目となるレクサスのミディアムラグジュアリーSUV『RX』。2021年は49%のシェアを獲得した

 

↑5世代目となるレクサスのミディアムラグジュアリーSUV『RX』。電動化技術を活かした4WDシステム「DIRECT4」を採用する

 

↑会場で最も目を惹いたのがEVコンセプト『LF-Zエレクトリファイド』。“次世代のレクサス”として進むべき将来のイメージと進化の方向性を示した

 

↑G20 サミットの主要車両の一台として選ばれたレクサスのSUV『UX300e』。インドネシア国内でHEV『UX250h』を発売することも決定した

 

↑BEV『bZ4X』をインドネシア国内でも発売を予定。具体的な時期は未定だ

 

↑日本ではお馴染みの『プリウスPHV』もインドネシアで初めて発売。当初は配車サービス会社向けとなる予定

 

↑G20サミットに採用される超小型モビリティ『C+pod』。北スマトラ州トバ湖では観光客向けに貸し出す実証実験も進めている

 

BEVをフックに中韓勢がこのまま勢いを増していくのか、あるいは日本勢が実績のあるHEVで今のシェアを維持して“日本車王国”を維持していくのか。その動向には今後しばらくは目が離せそうにありません

↑ちなみに欧州勢BEVの中で人気が一際高かったのがポルシェ『Taycan(タイカン)』。現地価格は28億5000万インドネシアルピア(日本円:2625万円相当)

 

 

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